CONTAX AX - 1996年発売

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CONTAX AX + Distagon 35mm F1.4
CONTAX AX + Distagon 35mm F1.4
一眼レフがオートフォーカス化されて久しい1996年、オートフォーカス化に出遅れたコンタックスから発売されたオートフォーカス一眼レフである。 他社の様にレンズ系を駆動するのではなくフィルム面を前後させるバックフォーカシングが特徴で、業界を唖然とさせた正真正銘のゲテモノである。 1996年発売のオートフォーカス一眼レフを Vintage に分類すべきか迷うところだが、面倒なので前世紀のカメラは Vintage とする。

CONTAX AX

発表時は『ついに新マウント機か?』と期待したけど、ヤシコンマウントのままボディーでフォーカシングするというのを知って愕然とした。 そりゃ、原理的には可能だけど本当に製品化するメーカーがあるとは思ってもいなかった。 フォーカシングで移動するのはフィルム開口部だけでなくボディ本体がそっくり移動する構造で、その外側にボディ外装が付いている。 フィルム室を含めて移動するのでフィルム面の平面性は保たれるが、カメラボディは中版カメラかと思うほど大きく、分厚いボディは百科事典の様だ。 カメラの重量は1.08Kgなので CONTAX RTS III より若干軽い程度だけど、カメラが異常に大きいので軽く感じられる。
フィルム面の移動量は最大10mmで、望遠レンズでは合焦範囲が限られるが、レンズの距離環を繰り出せばレンズ単体よりフォーカス可能範囲が広がる。 広角レンズを装着すれば、画質は別としてびっくりするほどの近接撮影が可能になる。
雑誌などでは酷評されていたけど、ゲテモノが大好物な僕としては「こんなカメラが」商品化された事に意義がある。 ちなみに、ヤシカ時代のオートフォーカス一眼レフカメラの開発コード「AX」が名称の由来らしい。

カメラ正面

カメラ正面
カメラ正面
前面投影だとワインダーを付けたちょっと大きめの一眼レフの様に見える。 ワインダーの様に大きなボディ下側は金属製(多分チタン合金)のカバーで、外してもそのままの大きさの出っ張りがある。 CONTAX ロゴの左側に付いているレンズはオートフォーカス補助光用のパターン投光レンズで、パララックス補正されてないので投光が有効な距離は限られる。 グリップ下部に付いているのはセルフタイマー表示LEDである。

持病がある主ミラー

持病がある主ミラー
持病がある主ミラー
コンタックスの一眼レフには「ミラーがズレる」病気があり、主ミラー受け板に接着されたミラーが経年で動いてしまう。 僕の CONTAX AX も購入当初は正常にレリーズ出来ていたのに、ある日突然ミラーアップ途中止まりになってしまった。 レンズを装着しなければ問題なくレリーズ出来るので『妙だなぁ』と思ってミラーをよ~く調べたら、ちょっと前に張り出している事に気が付いた。 接着強度は充分に硬そうで、触っても動く訳ではないのだけど明らかにズレている。 とりあえず数ケ月間マウント面を上に向けて保管しておいたら主ミラーがミラー受け板内に戻り、レリーズ出来るようになった。 硬そうに見える接着だけど、じわ~りと動くのは確かな様で、カメラを正位置で保管していると主ミラーがミラー受け板に沿って下側へズレしてしまい、レリーズ時にレンズと干渉してしまうのである。 コンタックスのカメラを持っている方はマウント面を上に向けて保管する事をお勧めする。 なお、CONTAX RTS III でもミラーがズレる可能性はあるけど、ミラー受け板の端にズレ止めの様な段があるので症状が出ないのかも知れない。

カメラ上面

分厚さが判るカメラ上面
分厚さが判るカメラ上面
このカメラの特徴は辞書の様な分厚さだ。 内部ボディが10mmも移動するので、移動クリアランスを含めた外装の厚みがこんな事になってしまったのだ。 各操作部材の配置は CONTAX RTS III などとほぼ同じで、CONTAX ユーザーなら操作上の違和感はないだろう。
CONTAX の操作性で特徴的なのは各操作部のロックが少ないことで、このカメラの撮影に関するロックは露出モード選択レバーにしかないのは潔い。 ユーザーが多いメーカーだと『勝手に露出補正が掛かっていた』とか『勝手に給送モードが変わっていた』などのクレームが多く寄せられて面倒な操作ロックを付けちゃうのだ。

軍艦部右肩まわり

軍艦部右肩まわり
軍艦部右肩まわり
液晶パネルがありフィルムカウンタ以外にISO感度設定やCF設定や多重露光設定などに利用されるが、バックライトが無いので暗がりでは判り難い。 このカメラにはオートフォーカスが搭載されているので、フィルム給送モードダイヤルの基部がフォーカスモード選択レバーになっている。 フォーカスモードは MACRO / MF / SAF / CAF が選択できる。 背面側には Fボタン と Fダイヤル があり、Fボタン を押したときのオートフォーカス動作を Fダイヤル で選択できる。 僕の使い方は Fダイヤル を AF に設定して、Fボタン を押したときだけAFさせる様にしていた。 ペンタ部の壁に付いているのは視度調整ダイヤルである。

軍艦部左肩まわり

軍艦部左肩まわり
軍艦部左肩まわり
シャッター速度ダイヤルには4秒から1/4000秒まで刻まれていてロックはない。 シャッター最高速度は1/6000秒だけど、1/6000秒は絞り優先オートかプログラムオートの自動露出でしか使用できない。 シャッター速度ダイヤルの基部に露出モード選択レバーがあり、背面側のロック解除ボタンを押しながら操作する。 CONTAX AX では ISO と CF ポジションが追加され、ISO感度設定やCF設定を行う場合に軍艦部右肩にある二つのボタンを併用して設定する。 アイピース基部に見えているのはアイピースシャッターレバーである。

カメラ背面

カメラ背面
カメラ背面
標準では写し込み機能はないので外見はシンプルな背蓋だ。 多機能な写し込み機能を搭載した データバック D-8 も用意されていた。 背蓋下の中央左側に見えるソケットは外部電源供給用のソケットで、アルカリ電池4本で電源を供給でき、寒冷地撮影など電池を温めながら撮影する時に使う。 アイピース右横にあるのは巻き戻し開始レバーとロック解除ボタンで、何故かこんな一等地に付いている。

カメラ背面内部

フォーカシングによる内部ボディの移動
フォーカシングによる内部ボディの移動
フィルム圧板
フィルム圧板
背蓋を開けると内部ボディが最大繰り出しポジションに移動してくるのが見えるのでギョっとするかもしれない。 フィルム圧板は電車のパンタグラフの様な構造になっていて、背蓋を閉めると内部ボディのフィルム面移動に連動する。 昔の中版スプリングカメラである Mamiya-6 Automat もバックフォーカシング方式だったけど、バックフォーカシングにする合理性があるカメラだった。 それに対して内部ボディを力技で移動させる CONTAX AX には合理性は感じられない...というか、本当に市場が必要としていたのか疑問に思ってしまう。 当時の企画書を見てみたいものだ。

カメラ底蓋

カメラ底蓋・ケース
カメラ底蓋・ケース
カメラの底蓋・ケースは金属製で、外した状態でもカメラボディに違和感がない。 『電池扉を外した状態』と言われれば納得しちゃうだろう。 電源は2CR5リチウム電池1個なので電池交換のための「蓋」と考えたら随分と大袈裟な底蓋で、普通のメーカーなら扉式の電池蓋にしただろう。

ファインダー表示

CONTAX AX のファインダー表示
CONTAX AX のファインダー表示
フォーカシングスクリーン
フォーカシングスクリーン
ファインダー内の情報表示は液晶表示になっていて黒ベースに若草色の文字でファインダー視野外下部に表示される。 CONTAX RTS III が青ベースに白文字という印象的な表示だったので踏襲しても良かったと思う。 各種情報表示は左からフィルムカウンタ / 測光モード / 露出補正 / 充完表示 / バックフォーカススケール / フォーカス表示 / 絞り表示 / シャッター速度表示 で、必要な情報が全てある。 AEロック機能があるので僕の基本的な使い方は絞り優先だった。
ファインダーの視野率は95%で倍率は0.7倍と小さいので、スクリーン面もこじんまりと見える。 これは、外装のアイピース枠に対して、ペンタプリズムと接眼レンズが10mmも移動する機構であるため、長大なアイポイントを確保するためだ。 なお、フォーカシングスクリーンは交換可能となっていて、FW-1 / FW-2 / FW-3 / FW-4 / FW-5 が用意されていた。

オートフォーカス

CONTAX AX + TAMRON SP 80-200mm F/2.8 LD
CONTAX AX + TAMRON SP 80-200mm F/2.8 LD
Automatic Back Focusing(ABF)と呼ばれる独特のオートフォーカスは超音波モーターにより内部ボディが移動する。 超音波モーターは大きなトルクを出せるので重たい内部ボディを移動させるには有利な駆動源だけど、ステーターとローターの摩耗に不安がある。 オートフォーカスを利用する場合はレンズの距離環を無限遠に設定してオートフォーカスを使うのが基本で、超近接オートフォーカス撮影をする場合はレンズの距離環を適当量繰り出してからオートフォーカスさせる。 ただし、レンズの距離環を繰り出したままだと繰り出した距離より無限側にはオートフォーカス出来ないので注意が必要だ。 当然ながら、この様な使い方ではレンズ光学系に組み込まれた近距離補正機構は設計通りには働かないので画面周辺画質が怪しくなる場合もある。
オートフォーカスは位相差方式の中央1点だけのシンプルなもので、クロス測距じゃないので縦線しか検出できない。 まるでオートフォーカス一眼レフ黎明期のカメラの様で、これだけ大きくするなら測距能力だけは最高にしてほしかった。 一方、手持ちのコンタックス純正ではないタムロンレンズなどでもオートフォーカス可能になっちゃうので、TAMRON SP 80-200mm F/2.8 LD を装着して動体撮影してみた事もある。
残念ながら、CAFモードでもスポーツなどの動きが激しい状況ではなかなかピントが合った写真を撮れないし、まっすぐ歩いてくる人物でもピントを外すことが多かった。

オートフォーカスの使い方

Fボタンを押してAF開始
Fボタンを押してAF開始
僕の使い方はフォーカスモードをMF(マニュアルフォーカス)に設定し、Fダイヤル をAFに設定した上で、必要に応じて Fボタン でオートフォーカスさせていた。 注意する事は Fボタン から指を離すとバックフォーカスが無限基準位置に戻ってしまう事で、アタフタする事もあった。 ちなみに、オートフォーカスは速くない...イヤ遅いが、僕の様に眼が腐ってピント合わせに難儀するユーザーには有難いかも知れない。 また、この設定の場合はオートフォーカスさせていなくても測距が継続実行され、ファインダー内のフォーカスインジケータに 後ピン・合焦・前ピン が表示される。

バックフォーカシングによる接写能力

CONTAX AX + TAMRON SP 17mm F/3.5
CONTAX AX + TAMRON SP 17mm F/3.5(レンズの至近より近距離で撮影)
装着したレンズの最短撮影距離に加えてカメラのバックフォーカスが10mm移動するので接写能力が向上する。 特に広角レンズでの効果は絶大で、厚さ10mmの接写リングを装着した場合と同等なので、収差変動などの光学性能は置いといて驚くほど接写が出来るようになる。 マニュアルフォーカスで「超」接写を楽しむならフォーカスモードを「MACRO」に設定すればバックフォーカシングが10mm繰り出した状態で固定される。

カスタム機能

8種類のカスタム機能が設定できる。 現代のデジカメの様にメニューが表示されるわけではないけど、一度自分好みに設定したら変更する事は少ないのでカスタム番号と設定内容を覚える必要は無いだろう。
 1:露出チェックボタンの機能
 2:多重露出設定方式の切り替え
 3:ABC撮影順序の切り替え
 4:絞り込みボタン操作方法の切り替え
 5:フィルム巻き戻し時のフィルム残り
 6:フィルム終了時の巻き戻し
 7:AF補助光の点灯
 8:ピントが合ったときに電子音がでる
僕はCF1=1に設定してカメラ前面の露出チェックボタンをAEロックに割り当てていた。

あとがき

CONTAX AX のカタログから
CONTAX AX のカタログから
CONTAX AX が発売された1996年といえば名機 NIKON F5 が発売された年で、時代は高速・高精度なオートフォーカス一眼レフが当たり前になり、コダック製のデジタルイメージャと画像処理部を搭載したデジタル一眼レフも出始めた時期だった。 愛用のカール・ツァイスのレンズ資産をそのままオートフォーカス化できるとはいえ、この辞書カメラを購入するのはよほどのマニアくらいだったろう。 ゲテモノが大好物の僕にとっては有難い限りだったけど....
しばらくぶりに CONTAX AX を動かしてみたら絞りレバー駆動メカが『きゅいん!』と大声で鳴く様になっていた。 多分、潤滑切れだと思うけど、このカメラは分解したくないなぁ。
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