TOPCON RE Super - 1963年発売

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TOPCON RE Super(後期型)と米国輸出モデル
TOPCON RE Super(後期型)とBeseler社向け輸出モデル

 1963年5月に東京光学から発売された世界初のTTL測光一眼レフカメラで、開放測光が可能な「歴史的名機」である。 翌1964年に発売された PENTAX SP では絞り込み測光のままであり、東京光学の技術開発は遥に先へ行っていた。 TOPCON RE Super はファインダーとフォーカシングスクリーンも交換可能で、モータードライブも無調整で装着できる先進的なフラッグシップカメラであった。

 ちなみに TOPCON RE Super は『日本が世界をリードした一眼レフカメラ』として、2020年度重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)に登録されている。

カメラの名称

 米国のベセラー社向け輸出機ではモデル名が「Super D」となっていて、ペンタカバーには「Beseler」と刻印されている。 RE Super のマイナーチェンジ機の日本向け名称は Super D となったがベセラー社向けモデルの名称は Super D のままだったので、ベセラー社向け Super D は名称だけでは区別がつかない。 ずいぶんと妙な事をしたもので、中古市場では RE Super なのにペンタカバーに「Beseler」が刻印されたカメラも見られる。

カメラ外観

 ボディは直線と角を基調としたもので、質実剛健というか軍需品の様なゴツいデザインである...事実、米海軍向けに出荷もされていた。 この個体は1968年以降に生産された個体で、巻き上げレバー側にモデル名が刻印された後期型だ。 初期型・前期型・中期型までは巻き戻しクランク側に刻印されている。

カメラ前面

カメラ前面
カメラ前面

 カメラマウントの基本は Exaktaマウントで、東京光学独自の絞り駆動レバーと絞り値連動ピンが設けられている。 レリーズボタンが本体右側前面に設けられているので、他のカメラと操作性が異なるので慣れが必要で、僕は中指でレリーズしていた。 レリーズボタンの下側にセルフタイマーレバーがあり、エプロン左側面に絞り込みレバーが設けられている。
 ドーナツ型のマウント部にあるレバーはレンズ脱着レバーで、マウント上側の溝は絞り値連動ピン、マウントのレリーズボタン側の溝は絞り駆動レバーである。

カメラ上面

カメラ上面
カメラ上面

 巻き上げレバーの巻き上げ角度は180度と大きいけどとてもスムースである。 巻き上げレバーの前にあるのはフィルムカウンタ窓で、背蓋を開けると自動リセットされる。 シャッターダイヤルはフィルム感度設定を兼ねていて、ダイヤル枠を持ち上げて回せばフィルム感度を変更できる。 フィルム巻き戻しクランクにはギミックがあり、巻き戻しトルクがかかると自然に上にせり上がる。 知らない人はびっくりするだろう。 フィルム巻き戻しクランク基部はシンクロ用バヨネット接点になっている。 巻き戻しクランク脇に露出計窓があり、ファインダ内メーター表示の採光窓にもなっている。 なお、ファインダー右横のボタンはファインダーロック釦である。

カメラ底面

カメラ底面
カメラ底面

 カメラ底面には大きな蓋が二つあり、巻き上げ側にあるのはモータードライブカプラーの蓋で、巻き戻し側にあるのは露出計用バッテリー蓋である。 バッテリー蓋の脇にある丸いノブは背蓋ロック解除ノブで、押しながら回せば背蓋が開く...知らない人は巻き戻しクランク軸を思いっきり引っ張って壊してしまうだろう。 また、信じられない事に露出計の電源スイッチが底面にあり、電源スイッチの切り忘れを誘発する仕様となっている。

ミラーメーター・システム

TOPCON RE Super の主ミラー
RE Super の主ミラー

 TOPCON RE Super は主ミラーにスリットを設け、主ミラーの背面に配置した測光センサーへ一部の光を導く方式でTTL測光を実現している。 測光センサーは大面積のCdS(東芝製?)で、現在では様々な要因で露出計が動作しない個体もあるだろう。 このシステムはスリットパターンの設計・蒸着やCdSセンサーの生産などに時間と手間がかかったのではないかと想像している。 ちなみに、レンズを装着しない状態とか小絞りに絞り込んだ状態にするとファインダーで主ミラーのスリットパターンが見えてしまう。

鎖によるシャッター絞り連動機構
鎖による連動機構
 このミラーメーター・システムはフィルム感度・シャッター速度ダイアルと絞り連動爪とを金属の鎖で繋ぎ、プーリーを介してアナログメーター自体を回転させるという実にメカメカしい構成になっている。 連動鎖がカメラ内を這っているので小型化には不利な方式だ。 普通なら摺動抵抗を使って電気的に伝達するのが王道だけど、摺動抵抗の接触不良によりメーター飛び(Minolta X-1でよくある)発生したりするので、あえてメカ的な伝達に拘ったのだろう...あぁ、40年前に河瀬さんに聴いとくんだったなぁ。

露出計用電池

電池室と MR-9 電池アダプター
露出計用電池

 露出計用電池は現在市販されていない MR-9 なので、水銀電池アダプターにて市販ボタン電池 SR43 を使用する。 水銀電池アダプターを利用する際の注意点として、アダプターに入れる電池のマイナス極の周囲をシールド(写真の赤いテープ)しないとショートしてしまう事だ。 これはカメラのマイナス側接点形状が MR-9 電池形状に特化しているためで、マイナス極の面積が小さい SR43 を利用する場合には要注意である。

ファインダー表示

TOPCON RE Super のファインダー表示
TOPCON RE Super のファインダー表示

 ファインダー視野にはスクリーンに映った被写体像しかないのだけれど、接眼下部のプリズムを通して露出メーターを見る事が出来る。 露出メーターの針は巻き戻しクランク脇の採光窓を通して視認できる。 標準のファインダースクリーンはスプリットプリズムタイプで、暗めのレンズでもケラレが少ない...逆に言うと多少精度を犠牲にしている感じだ。 また、スプリットプリズムの角度が他メーカーとは逆設定で、距離環を回す方向とスプリットイメージがズレる方向が逆になのでちょっと戸惑う。

交換ファインダー

ウェストレベルファインダーを装着
交換ファインダー

 RE Super 用の交換ファインダーは通常のアイレベルファインダーの他にウェストレベルファインダーと高倍率ウェストレベルファインダーが用意されていた。 カメラ本体上面のファインダーロック解除釦を押しながらファインダーを後ろ側へスライドすれば外す事が出来る。 ファインダーを装着する時はレールを合わせて後方から前方へスライドし、ロック解除ボタンが「カチッ」と鳴れば装着完了である。
実使用としてファインダーが交換できる「有難み」はあまり感じないけど、ファインダー交換できることが当時の最高級機としてのステータスだった。

ファインダースクリーン

 TOPCON RE Super / Super D / Super DM 用の焦点板は全部で7種類あり、暗いレンズ用も含めると都合9種類もあった。

 No.1 スプリットイメージ(初期品とその後とでは異なる)
 No.2 オールマット
 
No.3 十字線マットフレネルなし
 
No.4 方眼マット
 
No.5 クロスマイクロプリズム(暗いレンズ用はにNo.5A)
 
No.6 十字線素通しフレネルなしスケール付き(顕微鏡撮影用)
 
No.7 マイクロプリズム素通し(暗いレンズ用はNo.7A)

 フレネルピッチは約14本/mmと細かく、この時代のファインダースクリーンとしては最も優れたスクリーンである。 ちなみに発売当初の NIKON F はグルグルの筋がはっきり見える8本/mmで1964年頃に12本/mmに改善され、最終は25本/mmに細かくなった。

東京光学のレンズ

 TOPCON RE Super には自動絞りと開放測光に対応した RE.Auto-Topcor レンズ群が美しいクローム鏡筒で用意され、今となってはクラシカルな雰囲気を盛り上げてくれる。 なお、一部の RE.Auto-Topcor を除いてブラック鏡筒も用意されていたが滅多に見かけない。
 交換レンズは20mmの超広角から500mmの超望遠まで揃えられたが、大手メーカーほどには拡充できなかった。 でも、東京光学製レンズの光学性能は非常に優秀だったことから R Topcor 1:2.8 300mm などは報道機関が NIKON F マウント用に改造して使っていたらしい。 また、銘玉として知られる RE.Auto-Topcor 1:1.4 f=58mm の立体感描写は素晴らしいと言われている。

 手持ちの RE.Auto-Topcor を SONY ILCE-9 に装着して撮影してみた。 なお、写真は記載が無いものは絞り開放で撮影してトリミングはしていない。


 RE.Auto-Topcor 1:1.8 f=5.8cm 
RE.Auto-Topcor 1:1.8 f=5.8cm RE.Auto-Topcor 1:1.8 f=5.8cm RE.Auto-Topcor 1:1.8 f=5.8cm
 銘玉として誉れ高い RE.Auto-Topcor 1:1.4 の陰であまり人気のない普及版レンズである。 光学系は5群6枚のダブルガウス型で、通常のダブルガウス型は絞り後のレンズが貼り合せの4群6枚構成だけど、このレンズは分離されているのがミソなのだろう。
 絞り開放ではフレアがかった描写になるけどピント面の解像感は高そうな感じだ。 球面収差がちょっとオーバー補正になっているらしく、後ボケのエッジが立ち気味なのでシーンによっては気になる。 逆に前ボケは実に滑らかなので前ボケを活かす使い方が良いのだけど、最短撮影距離が0.45mと比較的寄れるのが嬉しくて後ボケ写真が多くなっちゃう。 この個体はオークションで買ったカビとレンズ面キズが酷いレンズで、カビ取り・清掃したけどコントラストが低めになっている。
 そういえば、東京光学はRE.F1.8レンズの販売途中に「こっそり」レンズを1枚減らしたコストダウン版を市場投入したらしく、その性能の酷さからユーザークレームとなって元の仕様に戻したらしい...「希少」な低性能のRE.F1.8を入手できたら嬉しいかもしれない。
 
 RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=13.5cm 
RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=13.5cm RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=13.5cm RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=13.5cm
 レンズ構成はエルノスターから派生した3群4枚のテレゾナー型で、第2群が分厚い張り合わせレンズなので鏡筒先端側に重量を感じる。 意外とシャープに写るしボケ味も素直なので安心して使えるレンズだけど、残存色収差が少しあるのでシーンによっては気になる。 このレンズには二段スライド式のフードが内蔵されているので便利だ。
 
 RE.Macro Auto-Topcor 1:3.5 f=58mm 
RE.Macro Auto-Topcor 1:3.5 f=58mm RE.Macro Auto-Topcor 1:3.5 f=58mm RE.Macro Auto-Topcor 1:3.5 f=58mm
 マクロ好きの僕としては繊細さと滑らなボケ味が両立した RE.Macro Auto-Topcor 1:3.5 f=58mm は素晴らしいレンズだと思っている。 このマクロレンズの構成は4群5枚のクセノタータイプで、無限遠から1/2倍までのマクロ撮影が可能な便利なレンズである。 トプコール好きの人なら絶対買うべきレンズだろう。
 
 RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=25mm 
RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=25mm RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=25mm RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=25mm
 RE.Auto-Topcor 1:3.5 f=25mm は 1:1.4 f=58mm と並ぶ銘玉と称されるレンズである。 7群7枚構成のレトロフォーカスタイプで、国産一眼レフカメラ用「超広角」交換レンズとしては初めてのレトロフォーカスタイプらしい...超広角としてね。
 色乗りも良いしピント面はすこぶるシャープで、背景ボケが汚くないのと最短撮影距離が0.16mと異常に短いのでグググっと寄って撮影すると超広角レンズなのに「立体感」のある写真になる。
 前玉径が大きくて迫力があり、威風堂々とした容姿は銘玉に相応しい。 このレンズの前枠にはフィルターネジがなく、フィルターは後玉側に小径バヨネットタイプの専用フィルターを装着する。 また、専用フードを装着すればフードにSeries-9型のフィルターを入れる事ができるが、機能的にはフードというよりSeries-9アダプターと言った方が正しい。

 東京光学では RE Super の前まではマウントの呼称を「エキザクタマウント」と呼んでいたが、TTL開放測光機能を持つ TOPCON RE Super からは REマウントと呼ぶようになった。 ちなみに「エキザクタマウント」は口径がΦ38mmしかないので、明るいレンズでは周辺光量の確保が難しいハズだ。 ひょっとしたら周辺光量落ちが RE.Auto-Topcor 1:1.4 f=58mm の「立体感」を演出してたんじゃないかなぁ。

あとがき

 日本工学では1965年発売の Nikomat FT や NIKON F PfotomicT にてTTL開放測光が可能になったが、レンズ交換時にレンズの開放値を手動で設定する必要がある旧態全とした方式であり、東京光学の自動補正方式と同様の機能を取り入れたカメラは1971年のAI方式まで待つ必要があった。 また、キヤノンのTTL開放測光対応機である CANON F-1 の発売も1971年であった事を考えると東京光学の先進性が判る。

 TOPCON RE Super の広告キャッチは、確か『あらゆる分野での撮影を可能にするシステムカメラの最高峰:世界で最初のTTL』だったと記憶してるけど、TTL(Through The Lens)という言葉も東京光学が作ったものである。

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