アトムレンズ - TAKUMAR / NIKKOR / CANON / OLYMPUS

0

アトムレンズたち
アトムレンズたち
 僕の所蔵レンズにはアトムレンズが結構ある。 アトムレンズとは鉄腕アトムが使っていたわけではなく、放射線を放つ硝材を使ったレンズのことだ。 レンズの硝材にトリウム酸化物を10-30%ほど混ぜる事で、高屈折率・超低分散光学ガラスになる。 これにより、色収差が小さい高性能レンズを製造する事が出来た。
 このトリウム酸化物が発するガンマ線はバックグラウンド線量の20-50倍ほどあるけど、人体に甚大な影響はない...多分。 念のため、子供の手が届くところに置かない方が安心だし、レンズと添い寝なんかしない方が良いだろう。

アトムレンズ

 一般的にアトムレンズにはトリウム酸化物が発するガンマ線により、レンズの透過波長特性が黄色く変色してしまう経年変化(ブラウニング現象)が知られている。 これは、トリウム酸化物を含むレンズが自身のガンマ線により黄変する以外に、隣接する通常ガラスも黄変させてしまう現象である。
 レンズに紫外線を当てれば黄変が緩和されるので、数年に一度はレンズの絞りを開放にして直射日光が通る様にしてやれば極端な黄変を軽減する事は出来る。

デジカメに装着した場合の影響は?

 致死レベルのガンマ線を放射している訳じゃないのでデジカメのセンサーには殆ど影響しないけど、長時間露出の際は注意が必要だ。 放射線が画素に入り込んで輝点として写り込んでしまう場合があるけど、大抵のデジカメはセンサー前に放射線吸収率が高い水晶板を配置しているので目くじらを立てるほどの事は無い。 ただし、センサーカバーガラスなどにカリウムガラスを使ったカメラは要注意で、含有されるカリウム同位体がガンマ線を吸収してベータ線を沢山放出してしまう。 このベータ線が結構写り込むんだよねぇ....センサーメーカーさんは判っていると思うけど...

Super Multi Coated Takumar 50mm F1.4

Super Multi Coated Takumar 50mm F1.4
 旭光学の 50mm F1.4 は製品名が同じでも途中で設計変更されていて、僕の 50mm F1.4 は黄変するアトムレンズである。 後ろから2枚目の凸メニスカスレンズがアトム玉なので、マウント側からの日光浴が有効だ。 他の標準レンズでは Super Multi Coated Takumar 55mm F1.8 の最終凸レンズもアトム玉である。 また、Super Multi Coated Takumar 35mm F2 もしっかり黄変している。 一方、Super Multi Coated Takumar 85mm F1.8 の黄変程度は比較的軽いので、硝材に含まれる酸化トリウム含有比率が低いのか、あるいは酸化トリウム玉に隣接する凹レンズが高ガンマ線耐性の重フリントガラス類なのだろう。 重フリントガラスは鉛含有量が多く、放射線を遮蔽してくれるのだ。

NIKKOR-N・C Auto 1:1.4 f=35mm

NIKKOR-N・C Auto 1:1.4 f=35mm
 ニコン教を脱教・棄教したので、20年以上使っていなかった NIKKOR-N・C Auto 1:1.4 f=35mm を機材箱から出してみたら、びっくりするほど真っ黄色...イヤ、茶色だった。 放射線源のレンズに隣接したレンズもかなり黄変している様だし、絞りの前後群も黄変している。 僕が学生の頃にも若干黄色っぽい感じだったけど、ここまで茶色ではなかったハズだ。 レンズを絞って前後から覗いて確認すると、どちら側からも茶色くなっている事から、このレンズは絞り前後に複数のアトム玉が入っている様だ。 このレンズを使っていた昭和の頃は「バカ玉」と揶揄されたけど、絞り開放で撮影した後ボケがイイ感じのリングボケになるので、上手く使えば幻想的な写真になる。
日光浴前後の比較 左:日光浴前 右:日光浴+UV照射後

UV照射状況
 都合1週間ほど日光浴させてみたけど、なかなか改善しない。 NIKKOR-N・C Auto 1:1.4 f=35mm の黄変改善には日光浴だけでは時間が掛かり過ぎるので、UV照射ランプを購入して昼夜連続4日間ほど照射したところ、かなり透明になってきた。
 『デジカメで撮影するならオートホワイトバランスの効果で問題ない』という知識のない人も居るけど、デジカメのオートホワイトバランスは撮影環境光を加味してバランスをとるので、赤味や黄色味がある画像では夕景環境やタングステンランプ環境と誤判定して赤味や黄色味を残した写真になってしまうのだ。
 今回の日光浴とUV照射による対策程度まで透明化されれば問題なくオートホワイトバランスが働くだろう。 なお、UV照射ランプは電池式の懐中電灯タイプよりUSB電源で常時照射できるタイプの方が使い勝手が良い。

CANON FD 35mm F2 Ⅰ型

CANON FD 35mm F2 Ⅰ型
 凹面先行で有名なキヤノンの広角レンズ CANON FD 35mm F2 Ⅰ型 もアトムレンズで、しっかり黄変してしまう。 このレンズも日光浴で黄変を軽減させられるが、レトロフォーカス型の広角レンズの場合は焦点面側から日光を照射するのは厳禁である。 日光を逆入射させるとフロントレンズ付近に焦点を結ぶ事があるのでレンズを破損させる原因になるので注意して頂きたい。 逆入射させる場合は絞りを小絞りにして(レンズによっては技が必要)フロントレンズ側への光量を制限する必要がある。 本格的な黄変対策処置を行うなら、レンズを分解して黄変したレンズだけを取り出し、天候に左右されない紫外線照射装置などを用いた方が短時間で済むし安全で確実だろう。

OLYMPUS M-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 50mm F1.4

OLYMPUS M-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 50mm F1.4
 僕の OLYMPUS M-1 に装着している M-SYSTEM 50mm F1.4 標準レンズは黄変が進んでいる。 絞りより前側が黄変しているので、おそらくトリウム酸化物を含むアトム硝材を前群凸レンズに使ったのだと思われる。 また、同じ銀枠 G.ZUIKO 50mm F1.4 であっても途中で硝材・設計の変更が行われたみたいで、製造番号が新しい個体は黄変しないらしい。 この標準レンズは中川治平氏による設計で、絶妙な収差バランスが施されていると感じるオールドレンズだけど、やはり後ボケ具合はちょっと騒々しいレンズだ。

あとがき

エアコン室外機の上で日光浴
エアコン室外機の上で日光浴するアトムレンズたち
 アトムレンズは1950-1970年頃に製造・販売されたが、崩壊生成物放射線の懸念からトリウム酸化物はランタノイドに置き換えられた。 メーカーも『放射線がヤバイので硝材を変更しました』なんて言えないので、レンズのモデル名称が同じでも黄変するレンズと黄変しないレンズがあったりする。 なので黄変していないクリアなオールドレンズを買えば良さそうなところだけど、一部の熱狂的なアトムレンズマニアは黄変したレンズをありがたそうに買い求めたりするのである。 黄変してしまったレンズをお持ちの方は、高温になる焦点結像付近の発火に注意しながら日光浴を試してみる事をお勧めする...30日ほど続ける必要があるし、結果に責任は持てないけどね。


Sponsored Link
Sponsored Link

0 件のコメント :

コメントを投稿

Sponsored Link