Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 迷レンズ - 1963年発売

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Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5
Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5
Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 の発売は1963年なので、NIKON F の発売から4年後であった。 このレンズは途中でマルチコート化されたが、1976に新光学系になるまで同じ光学系のまま生産され続けた日本光学を代表するズームレンズと言っていいだろう。 当時はこのレンズとカメラをセットで購入する人も居たほど売れたらしいけど、光学性能は褒められたものではなく、お金が無かった僕でも全く買う気にならなかった迷レンズである。

Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5

先に書いたように、往時は全く買う気にならなかったけど、デザインだけは僕好みだったのは確かだ。 ズームレンズですら高性能になった現代では、このオールドレンズの様に豊富な残存収差があるレンズなら味わいのある写真を作ってくれる...かも知れない。 単なるアホ玉だとしても、好みの初代銀枠レンズなのでセットにして愛でるのもいいだろう。

NIKKOR 43-86 と TAMRON 35-80 QZ-35M との比較

TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M の発売は1978年なので、設計・製造の世代が異なるけど比較してみた。 発売年が15年も違うので本来なら比べるべきレンズ同士じゃないけど、「ヨンサンハチロク」は名門ニコンを代表するズームレンズだから僕の認識とは違って、さぞかし降性能高性能(大笑い)なのかも知れない。

スペック比較

両ズームレンズの仕様を比べてみると、何となく似たような写真が撮れそうな感じである事が判る。 タムロンにははワイドマクロがあるので、テーブルフォトや草花・昆虫接写にも使える。
 比較項目  NIKKOR 43-86  TAMRON 35-80 
 焦点距離   43-86mm   35-80mm 
 開放F値   F3.5   F2.8-3.5 
 最小絞り   F22   F22 
 レンズ構成   7群9枚   13群13枚 
 ズーム調節   直進式ズーム   直進式ズーム 
 ピント調節   前玉繰り出し   前玉繰り出し 
 最短撮影距離   1.2m   1.3m 
 マクロ機能   なし   0.5倍 ワイド端マクロ 
 重量   410g   520g 
 大きさ   Φ65mm×78mm   Φ66.5mm×80.5mm 
 フィルタ径   52mm   62mm 
 発売年   1963年   1978年 
 発売時価格   32,000円   62,000円 
 1963年換算   32,000円   33,062円 
タムロンの方がレンズ枚数が多くて大きくて重いが、消費者物価指数による1963年の換算価格では同程度だ。 現在の中古市場で綺麗な中古品価格だと、タムロンは300円でニコンは1000円だった。
表面反射具合
表面反射具合
使い勝手としては、両レンズとも最短撮影距離が1.2メートル程度なので、とても使い難い。 タムロンにはワイドマクロが備わってはいるけど、通常撮影での使い難さは同じだ。 なお、両レンズとも前玉繰り出しによるピント調節でフィルター枠が回転してしまうので、偏光フィルターも使い難い。 そして両レンズともアンバー系シングルコートが多用され、カラーバランス補正の苦労が見て取れるけどやり過ぎで、仕上がりは青っぽいし美しいマゼンタコートが見られないので高級感も無い。

レンズの描写性能比較

肝心の描写性能をワイド端とテレ端だけを比較してみた。 ビルや家屋を対象にして絞りは開放からF8まで一段ずつ絞って変化が判る様にしてある。 参考として、現代の高倍率ズームレンズである TAMRON 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD Model A071 の収差補正無しの開放描写も比較してみた。 使用カメラは全て SONY ILCE-9 で露出量とホワイトバランスを固定してある。
 ワイド端 
 絞り   NIKKOR 43-86mm   TAMRON 35-80mm   TAMRON A017 34mm 
 開放  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5(F3.5) Wide TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M(F2.8) Wide TAMRON 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD Model A071(F3.2) f=34mm
 F4  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5(F4) Wide TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M(F4) Wide
 F5.6  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5(F5.6) Wide TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M(F5.6) Wide
 F8  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5(F8) Wide TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M(F8) Wide
 F11  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5(F11) Wide TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M(F11) Wide
ワイド端での絞り開放比較だと中央はニッコールの方がシャープだけど、画面周辺はかなり流れた描写になる。 一方、タムロンの中央は開放F2.8と明るいため、ニッコールより若干フレアっぽいが画面周辺まで均質に感じる。 タムロンは一段(F4に)絞れば画面全域で解像感・コントラストともに向上するが、ニッコールの周辺は描写の改善が鈍い。

 テレ端 
 絞り   NIKKOR 43-86mm   TAMRON 35-80mm   TAMRON A017 82mm 
 開放  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 (F3.5) Tele TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M (F3.5) Tele TAMRON 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD Model A071 (F4.5) f=82mm
 F4  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 (F4) Tele TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M (F4) Tele
 F5.6  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 (F5.6) Tele TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M (F5.6) Tele
 F8  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 (F8) Tele TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M (F8) Tele
 F11  Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 (F11) Tele TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M (F11) Tele
テレ端でもニッコールは豊富な残存収差が目立ち、「オールドレンズの味」とは言い難い。 横収差が最初から立っている感じで、絞り込んでも改善が鈍い。 また、非点収差も大きく、絞っても周辺の流れはなかなか改善しない。 開放ではベールが掛かった様にフレアっぽいのでピントのピークが判りにくい。 一方、タムロンはニコンと比べると優秀だ...と感じてしまうほどニコンは酷い。
これらのオールドズーム2本に対して、現代の高倍率ズームはとても優れている事が良く判る。 TAMRON Model A071 は娘が使うレンズとして購入したんだけど、スポーツイベントでの表彰式撮影では便利に使わせてもらっている。

共用できるフード

Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 に装着した HK-15 フード
Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 に装着した HK-15 フード
実は TAMRON 35-80mm F/2.8-3.5 QZ-35M にはニコンのカブセ式フード HK-15 を使っていて、浅いのでフード効果に疑問が残るけどサイズ的にはぴったりなのだ。 もともとは TAMRON 35-70mm F3.5 17A にΦ58⇒62mmステップアップリングを介して代用していたフードだ。 今回、『ひょっとして?』と思い、Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 に装着してみたら、こちらにもぴったり(フィルタネジではなく操作環先端)だった。 また、HK-15フードを付けたままでレンズキャップも装着できる。 それにしても、HK-15 をを装着すると「ヨンサンハチロク」が現代の高性能レンズの様に見えてしまうのが面白い。

あとがき

Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5 は豊富な残存収差による残念な描写で、オールドレンズらしい描写...というより、単なるダメレンズだ。 最短撮影距離が長いので使い勝手も悪いし、使うならタムロンの方が断然良い。 光学性能に限れば1976年以降の New NIKKOR タイプや Ai NIKKOR タイプなら我慢できるのかもしれない。 残念ながらこのレンズはビンテージニコンに着けて飾っておくだけのレンズだなぁ...判っていたけどね。

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