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七工匠 7Artisans 28mm F1.4 ASPH FE-PLUS と SONY ILCE-9M3 |
大昔と違って標準レンズは28~35mmになったので、メスズーハー方式の LEICA M6 に常時装着しておく28mmレンズが欲しいと思っていた。 L39マウントのキヤノン製 28mm F2.8 とか 28mm F3.5 とかを持っているけど、これらはオールドレンズとして「それ相応」のカメラで楽しむもので、LEICA M6 にはちょっと似合わない。 また、MINOLTA M-ROKKOR 28mm F2.8 を持っているけど前群の内面が曇ってしまい、使えるレンズじゃなくなってしまった。 そこで、以前から気になっていた 7Artisans 28mm F1.4 ASPH FE-PLUS を試しに買ってみたのである。
7Artisans 28mm F1.4 ASPH FE-PLUS のレビュー
このレンズは LEICA M マウントなので、LEICA M10 とか LEICA M6 などに装着できるし、ちゃんと距離計に連動してくれる。 このレンズより先行して発売された 7Artisans 28mm F1.4 ASPH は単なる Mマウントカメラ互換レンズだったけど、僕が購入した「FE-PLUS」モデルは LEICA M マウントではあるけどソニーαシリーズカメラのイメージセンサーに最適化した光学系になっている。 光学系が大幅に変更されている訳ではなく、ソニーのセンサーに最適化(?)しただけなのでレンズ配置は変わっていない。 なお、デジカメである LEICA M10 には「FE-PLUS」じゃない方を推奨している。
デザイン・質感
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ライカ風のデザイン |
ライカ純正レンズの様なデザインなので、ライカのカメラに装着しても違和感が全くない。 多分、違和感として感じられるとすれば絞り環や距離環の文字フォントがLEICA純正と異なり「普通」のフォントであることだろう。 また、外観からは「FE-PLUS」仕様レンズであるかどうかは判別不能で、マウント面のレーザー刻印で確認できるのみだ。
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マウントのレーザー刻印 |
このレンズはF1.4と明るい28mm広角レンズだけれど LEICA M マウントレンズとしては大柄で、光学ファインダーを覗くとレンズ先端により視野右下が結構ケラレてしまう。 鏡筒の作りは大変しっかりしていて、鏡筒内にレンズが詰まっているという重量感(重量は490g)があり、金属鏡筒である事と相まって物欲を満足させる仕上がりだ。
個人的にはレンズ先端に向かって太くなるデザインが好きなのだけれど、ファインダー視野のケラレを考慮すれば少し窄まっているのは仕方ないだろう。 なお、ライカのデジカメ用じゃないせいか、マウント面には LEICA 6bit コードが装備されていないけど、マジックでコード(110110)を書けば対応可能だ。 ちなみにマウントの固定ネジはトルクスネジになっていて、一般的なプラスドライバーでは緩められない。
距離環
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距離環 |
距離環は幅が広い金属製て操作しやすく、フォーカシングのトルクも適切だ。 ライカ風の縦平目ローレットなので指が滑る事は無いけど冬は冷たそうだ。 このレンズには貼り付けタイプのフォーカシング用指当てが付属している。 しかしながら、薄くて小さなレンズならフォーカシング用指当てがが便利だけど、このレンズは指当てが無くても充分に操作し易いので僕は使わないと思う。
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調整可能な傾斜カム |
なお、距離計連動カムは直進タイプの平行カムではなく、
LEICA CL 用レンズと同じ回転タイプの傾斜カムになっている。 装着するライカ製カメラによっては距離計連動精度に問題があるかも知れない。 確か、75mm F1.25 は調整可能な平行カムタイプを採用していたと思うので、そちらのタイプの方が良かった。 それから、価格が安いので仕方ないけど、傾斜カム面にNCの挽き目(切削痕)があるのは気持ち良くない。 加工時間が多少伸びても高精度に仕上げるべきで、僕がNCをプログラムしてもこんな切削痕は出さないぞ...40年前の仕事でも1/1000ミリ単位でプログラムしたなぁ。
絞り環
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絞り環 |
絞りは1段ステップでクリックがあり、丁度良いクリック感に仕上がっている。 ただし、各絞り値の間隔が不等間隔になっているのは欠点といえる。 出来れば等間隔で1/2ステップのクリックが欲しかった。 実際に絞り環を操作してみると、クリック感はよいのだけれど、開放側の間隔が広くて『あれぇ?』と思う事が多いし、カメラを構えていると絞り操作で構図がズレ易い。 また、絞り環の数値にF11の記載がなくF8の次がF16となっていて、F8とF16の中間にF11のクリックだけが設けられているのも『チョットなぁ』と感じる。
別売フード
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別売の金属製フード |
レンズにはフードが付属してないけど、別売の角型フードが用意されている。 ただでさえファインダー視野がケラレるので、レンジファインダーカメラでフードを装着するのは躊躇してしまうが、専用フードの端には穴が開けられていてフードによるケラレ増加を最小限にしている。 とはいえ、レンジファインダーではレンズ本体によるケラレにより、被写界右下に何があるのか判らなくなる。
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ファインダーのケラレ |
このフードの装着はカブセ式ネジ締めタイプなので、鏡筒先端のキズやフードの落下に不安がある。 また、角型のカブセ式金属製キャップが付属していて、フードを装着したままフード先端にキャップを装着できるけど、これも落とさないか不安がある。 フィルター脱着時とか装着位置決めなどの面倒もあるので、専用フードなら外爪バヨネット式のフードにしてもらいたかった。
ピント調整機能
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ピント調整が可能 |
このレンズは開放値がF1.4と明るいので、狙った被写体に対するピントがとてもシビアだ。 距離計カムにある2本の止めネジを緩めて傾斜カムを円周方向に微妙に回すことで、カメラの連動距離計に対するピント調整が可能になっている。 ミラーレスデジタル一眼のライブビューによるピント合わせなら関係ないけど、レンジファインダーカメラの場合は事前に調整しておいた方が無難だろう。 ただし、LEICA M6 などのフィルムカメラではとっても厄介な調整になる。 なお、このレンズは傾斜カム方式なので、カメラによって(距離計微調整で連動コロが左右に動くカメラ)はピントが異なる場合がある。 実際に使用するカメラで調整した方が良いだろう。
描写性能
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レンズ構成 |
7Artisans 28mm F1.4 ASPH のレンズ構成は9群11枚で、特殊低分散(ED)ガラス2枚と高屈折低分散ガラス3枚と非球面レンズ1枚が使用されている。 距離計連動のMマウント互換レンズなので、最短撮影距離が0.7mと遠いのが難点だ。 このレンズは「FE-PLUS」なので、距離計連動は0.7mまでだととしても0.2mくらいまで近接(繰り出し)できる仕様にして貰いたかった。 なお、写真は全てソニーの24メガ機で撮影してある。
解像感描写
絞り:F1.4 |
絞り:F2 |
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り開放では柔らかめの描写だけど中央の解像感はとても良く、四隅を除く画面周辺でも我慢できる描写だと思う。 絞りをF2.8~F4に絞れば画面全域で良い描写となる。 風景写真を撮影するならF5.6~F8程度まで絞った方が良いだろう。 このレンズの収差特性は輪帯球面収差がアンダーになっているらしく、絞り開放に対してF2.8付近で微妙にピントが後ピン方向にシフト(背景側の深度が深くなる感じ)するので、ピント合わせは実撮影絞り状態で行うのが良いだろう。 レンジファインダーのフィルムカメラに対しては、絞りF2あたりでピント調整を施した方が良いけど、シフト量が微妙なので撮影したフィルムから判断するのは難しいと思う。 また、若干の色収差も認められるのでRAW現像時に補正処理すれば良いだろう。
点光源描写
絞り:F1.4 |
絞り:F2 |
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り開放でも中央は良い描写が得られるけど、画面周辺ではコマ収差が発生していて収差量もそれなりの大きさだ。 F2.8まで絞れば四隅以外の周辺描写が向上し、F5.6なら四隅も我慢できる描写になる。 コマフレアは淡いタイプなので日中の撮影では極端には目立たないけど、夜景などの点光源撮影ではハッキリと認められてしまう。 このレンズの一番の弱点は点光源描写と言えるかもしれない。
また、このレンズの絞りは円形絞りだけどF8あたりで26本の回折光芒がしっかりと発生してくれる。 ただし、光芒の長さが短いので拡大しないと気が付かない程度の出方だ。
周辺光量
絞り:F1.4 |
絞り:F2 |
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
F1.4ではそれなりの周辺光量落ちがあるけど、F2.8まで絞ればコサイン則による光量落ちのみまでに改善される。 絞り開放でも嫌らしい周辺光量落ちじゃないので、主被写体を強調する様なノスタルジックで素敵な写真が撮れるし、後処理で簡単に補正できる。 欠点と言えば欠点だけど、個人的には「素敵な」周辺減光だと思う。
ディストーション
カメラの自動補正が効かないレンズだけど、ディストーションは良く補正されているので普通に使う分にはディストーションは全く気にならない。 最近のデジカメ用レンズはデジタル補正を前提とした光学設計が多いので、この性能は素晴らしい。
玉ボケ具合
13枚の絞り羽根があり、多少絞っても円形が保持されている。 開放では周辺がレモン型のボケになるけど、一段絞れば気にならなくなる。 また、非球面での波面乱れによる影響でオニオンリングが確認できるけど極端に目立つほどではない。 なお、上の写真はレンズ本来の至近端での撮影なので、大きな玉ボケは得られないけどヘリコイドアダプタを用いれば大きな玉ボケが得られる。
ボケ味
ボケはじめがチョット騒がしいけど、後ボケも前ボケも滑らかにボケてくれるので安心して使える。 被写体にグッと近付いて背景を大きくボカしてあげれば、滑らかで素敵なボケ味を堪能できる。 なお、絞り開放では画面周辺がレモン型の玉ボケなので、シーンによってはグルグルボケになるかも知れない。
近接描写(ヘリコイドアダプタ併用)
ヘリコイドアダプターを用いて近接撮影してみると、描写の劣化は思ったほどではなかった。 平面接写などでは周辺描写の劣化が顕著になるけど、被写体以外をボカす様な一般的な寄り写真であればそこそこ使える。 レンズ本体の最短撮影距離が0.7mなのがなおさら惜しまれる。 トーゼンだけど LEICA M6 では近接撮影は楽しめない。
光芒の出方とゴースト
絞り:F1.4 |
絞り:F2.8 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り:F11 |
絞り:F16 |
円形絞りなので太陽を入れ込んで絞っても派手な光芒(サンスター)が出にくい。 一方、ゴーストはちゃんと発生するけど、妙なゴーストじゃないので作画上の効果として利用できるだろう。 なお、夜景点光源などではゴーストの存在は判別出来なかった。
お勧め度:
7Artisans 28mm F1.4 ASPH FE-PLUS の利点は
- ライカ純正よりべらぼうに安い
- 実用的な描写性能
- 開放F1.4で滑らかなボケ味
- 高級感があり操作感が良い
一方、欠点といえるのは
- 最短撮影距離が遠い
- 画面周辺のコマ収差が大きめ
- 絞り値により若干ピントが動く
価格の安さで評価を★4個にしてしまった。 ライカ純正の Leica Summilux-M 28 mm f/1.4 ASPH. は価格が¥1,111,000円(Leica STORE Japan)と超高額なので庶民には手が出せないけど、7Artisans 28mm F1.4 ASPH FE-PLUS はたったの¥70,000円(焦点工房Amazon)だ。 この品質で価格が純正の約1/16なので、多少の欠点は気にならない。 現代的な無収差レンズという訳ではないけれど、日中なら充分に使える描写だし発色も良いし嫌味の無いボケ味などは僕の好みに合うレンズだ。
あとがき
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フード付きでバッグに入った |
このレンズは「FE-PLUS」なので、マウントアダプターを介してソニーαで楽しむのが本来の使い方なんだろう。 ヘリコイドタイプのマウントアダプターを用いれば近接撮影も含めて素敵な描写を堪能できる。 でも、LEICA M マウントなので、やはりレンジファインダーフィルムカメラで楽しみたい。
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電池蓋の塗膜剥がれ |
このレンズを使ってみて 価格・質感・鏡筒の作り・描写性能など、中国メーカーの実力が高くなっている事を実感させらされる製品だ。
ところで、暫くぶりに LEICA M6 に電池を入れようと思い、電池室蓋を一生懸命「指で」回していたら黒い塗膜がボロッと取れた! LEICA の塗装ってこんなに弱かったっけ? 最悪だぁ....
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