SONY α9Ⅲ(ILCE-9M3)の実戦レビュー:

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実戦投入した SONY α9Ⅲ(ILCE-9M3) nepiaアイスアリーナ
実戦投入した SONY α9Ⅲ(ILCE-9M3) nepiaアイスアリーナ
 2023年11月16日10時に予約した SONY α9Ⅲ(ILCE-9M3)の製品版実機がようやく届いた。 今回はソニーストアではなく〇ップカメ△から予約購入してみた。 冬季国スポの取材へ行く前日に届いたので、そのまま冬季国スポから実戦投入することとし、比較のためにこれまで使っている初代の SONY α9Ⅰ(ILCE-9)も一緒に持って行った。

SONY ILCE-9M3 の実戦レビュー

 2017年から使い続けた SONY ILCE-9 に対してどれだけ進化したのか楽しみである。 僕が現役エンジニアの頃からグローバルシャッター方式のC-MOSセンサーの画質には難点がある事を知っていたし、事前に試した高感度特性も褒められる画質ではなかった。 このカメラが僕の実戦環境で使えるのか心配していたのである。 この記事は ILCE-9M3 を使い込んだ訳じゃないので勘違いなどもある事をご容赦願いたい。

基本機能について

 カメラの設定メニューが ILCE-9 とは全く変わってしまっているので、僕が使えるカメラにするまで時間が掛かってしまった。 最低限の個人用設定は実施したけど、設定メニューなどは「慣れ」の問題なので「今は」置いといて、カメラとしての基本機能・性能を今まで使っていた ILCE-9 と比較してみた。

撮影バッファの開放時間

 ILCE-9 は SDXC UHS-II のスロット1と SDXC のスロット2とのデュアルスロットだったけど、UHS-II スロットを使っても大して高速とは言えない性能だった。 バッファに沢山残っていると次の選手の演技開始までに開放されないので、新たなフォルダ作成ができなくて次の選手も同じフォルダで撮影を継続したり、撮影した写真のセレクト操作が出来ないまま次の選手の撮影開始となったりしていた。 ILCE-9M3 では SDXC UHS-II カード でも CFexpress Type A でも装填できるデュアルスロットとなり、撮影バッファの開放がとても速くなった...というか、バッファに溜まる事が殆ど無い。 ILCE-9ではバッファ開放までの時間が長いので連写Hは使わないで連写Mを使っていたけど、ILCE-9M3 では必要に応じて高速連写も使用出来るのはありがたい...でも、撮れ過ぎるので僕は15駒/秒で充分だ。

PCへの取り込みが速くなった
初代より速い取り込み
 また、SDXC UHS-II カードを装填した場合でも ILCE-9 よりバッファが速く開放されるので、これまで使っていた SDXC UHS-II カードを捨てなくても良さそうだ。 今回利用した CFexpress Type A カードは Lexar Professional CFexpress Type A SILVER VPG 200 カードなので、超高速&高価な VPG 400 カードではないけれど、僕の静止画撮影条件なら全く問題ないと感じた。 ちなみに、これまでは1競技(30人程度)が 64GB に収まっていたので、撮影駒数を同じにするなら 160GB の CFexpress Type A カードで2競技は撮影できることになる。(実際には1競技を1カードという運用になるけれど)

 さすがに120駒/秒でRAW連写するとアッという間にバッファフルになってしまう。 カワセミのダイビングの瞬間撮影とかなら最高に効果的だろうけど、僕のスポーツ撮影では15~20駒/秒程度で充分だ。 逆に120駒/秒を有効に使える撮影をしてみたいものだ。

 国スポ初日の取材を終えてみると、ご祝儀レリーズってのもあるので 新記録の4.7万駒/日も撮影してしまった。 全日程分はノートPCのSSDには入りきらないので1Tバイトの外付けメディアに保存する羽目になった。 なんとかしなきゃならないので、明確な差を感じられないことからJPEG画質を「X.FINE」ではなく「FINE」で運用する事にした。

デュアルカードスロット

SDXC UHS-II カード でも CFexpress Type A でも装填できるデュアルスロット
デュアルスロット
 ILCE-9もデュアルカードスロットだったけど、SDXC UHS-ⅡとSDXC UHS-Ⅰとのデュアルスロットだったので、スロット1と2との性能に差が(差をあまり感じなかったけど)あった。 ILCE-9M3では CFexpress Type AでもSDXC UHS-Ⅱでも装填可能なスロットが二つあるので、書き込みスロットが換わった場合でも同じ性能で読み書きが出来る様になった。 また、CFexpress Type A で撮影すれば、画像をPCに取り込む速度も格段に速くなり非常に快適だ。

 ちなみに、1競技は160GBの CFexpress Type A カードに充分納まるので、スロット2には予備としてSDXC UHS-Ⅱカードを装填してみた。 万が一、スロット1が満杯になってもスロット2で撮影続行できるし、先にも書いた様に SDXC UHS-Ⅱカードに記録してもストレスなく撮影ができる。 ILCE-9 の SDXC UHS-Ⅱ対応って何だったんだ?

カメラの応答性

カメラでセレクトした方が効率良く作業できる
カメラでセレクトが快適
 最新機種なので当然だけど、画像再生などの応答性が良いのでパソコンで写真のセレクトを行うよりカメラでセレクトした方が効率良く作業できる。 老眼なのでファインダーを覗きながらセレクト・レーティング付加作業を行っているとカメラの熱気で眠くなってしまうのが難点だ。 僕の撮影設定(JPEG FINE)ではバッファに画像が溜まる事がないので、撮影後に 設定変更・新フォルダ作成・レーティング設定・FTP転送 などの一連の処理がストレスなく行える。 また、静止画撮影途中で動画撮影に切換えるのも待ち時間なく行えた。

AFの動き出しが遅い事がある
認識するまで動かないAF
 シャッター半押し操作や AF-ONボタン操作などに対する応答性は初代より向上しているけど、「AF時の被写体認識」を「入」にすると、カメラが被写体を認識するまで合焦動作してくれない場合がある。 また、トラッキング枠が出ていてもAFが動かない場合もある。 画面に認識対象被写体がある場合や明らかに認識対象が無い場合はストレスなく掴んでくれるけど、認識対象が見つからないとAF駆動開始まで長い間が発生する。 僕の対象は人物スポーツ撮影なので「認識対象」は「人物」にしているけど、フィギュアスケートでは後ろ向きの状態からAF開始する場合が多いので、カメラが一瞬固まってからあらぬ物にフォーカスしちゃう事が多々ある。 ILCE-9 では顔が無ければ直ちに設定フォーカスフレームにピントを合わせてくれたけど、ILCE-9M3 は「ぼ~」っと待った挙句に妙な物にピントを合わせちゃう。 「AF時の被写体認識」を「切」にすれば応答性は速いけど、トラッキングが「おっぺけぺぇ」になってしまう。 これは完全にチューニング不足と思われ、「人物」の認識に機械学習が足りていないのだろう。 ちなみに、後ろ向きを含む人体頭部認識の機械学習は意外と難しくて誤認識が多い....自作アプリで実験済み。

 困ったことに応答性が向上した事により、瞬時に誤った被写体やトラッキングに移ってしまう事が多い。 選手がくるくる回り始めると、顔をトラッキングしていたのに、簡単に手や足にトラッキングが写ってしまう。 あるいは、顔をトラッキングしていたのに黄色い手すりをトラッキングし始めてしまう。

AF特性

ILCE-9M3 FE 200-600mm ISO:5000 Tv:1/1250s F:6.3
ILCE-9M3 FE 200-600mm ISO:5000 Tv:1/1250s F:6.3
 ILCE-9 との比較では、ピント精度は格段に向上していると実感できる。 『ピントが甘くて使えないなぁ』という駒はほとんどない。

トラッキングミス:背景にピントが飛ぶ
トラッキングミス
 一方、選手を追尾していると背景の看板などにピントが飛んでしまう事が多々ある。 選手がくるくる回るフィギュアスケートでは背景の黄色い手すりに乗り移ってトラッキングしてしまう事が多く、黄色い(肌色っぽい)ものに引っ張られるのは困りものだ。 この傾向は ILCE-9 と同じで、あまり改善されていない。 背景にピントが行ってしまった状態から、被写体にピントを合わせ直そうと再AFさせても被写体にピントが来ない場合が多い。
トラッキングミス:背景に惑わされる
トラッキングミス
 この写真はExif情報によると人物を認識して「Human Eye Tracking」に移行しているけど、背景にピントを合わせちゃっている。 撮影中に『そこじゃねぇ!』って叫んじゃいそうになる。 初代のILCE-9(Ver 6.00)では被写体と背景が近いと背景にピントが移る事はあったけど、こんなに酷いトラッキングミスは無かったなぁ。 撮影初日から『あれれれれぇ?』と感じたので、このカメラのAFにOKを出したプロのテスターは誰なのか知りたいものだ。 まだ使い始めだけど SONY ILCE-9M3 のAF精度だけ素晴らしいと思うけど、被写体認識・トラッキングに関するチューニングが足りていないと感じる。
ILCE-9 は男顔が大好きだ
男好きな顔検出特性
 今回、確認できていないのが「カメラの男好き」が治ったかである。 ILCE-9 をペア競技の撮影で使っていると、女性顔を追尾していても男性顔に移り易い(男性顔から女性顔には移り難い)という厄介な問題がある。 ペア競技でのピントは女性選手優先なので、男性選手に移っちゃうと非常に困るのだ。 多分女性顔パターンの機械学習が不足していると想像しているけれど、今回の試合にはペア競技がないので ILCE-9M3 の特性がどうなったのか判らない。
 男顔を見つけたら乗り移ってトラッキングするのではなく、最初にAF開始させた顔(大抵は女顔)を優先する(その顔に戻ってくる)という設計になっているのかが気になるところだ。 距離差にもよるけど、大抵は女性の顔の方が小さいので、大きな男性顔に引っ張られるのかも知れない。 できれば「女優先/男優先」の設定を搭載して欲しい。

でんぐり返し顔は顔として認識してくれない
でんぐり返し顔
 そうそう、体が柔らかい女性選手は上体を大きく反らして顔がでんぐり返しになる事があり、こんな場合は顔トラッキングしてくれない。 一般的なシーンでは滅多にないけれど、体操やフィギュアスケートなどのスポーツシーンでは良くある。 どうやら、±135度までの角度ならカメラが顔を検出できる様なので、180度(完全でんぐり返し)の女性顔も顔検出AIに学習させておいて欲しい。

静止画の画質

ILCE-9 FE 200-600mm ISO:5000 Tv:1/800s F:6.3
ILCE-9
ILCE-9M3 FE 200-600mm ISO:5000 Tv:1/800s F:6.3
ILCE-9M3
ISO:5000でのノイズ感比較
ISO:5000 ノイズ比較
 肝心のカメラJPEG画質だけれど、ILCE-9 と ILCE-9M3 とを同じ条件で撮影してみると、JPG画質は明らかに ILCE-9 より ILCE-9M3 の方がノイズ感が悪い。 今回は ILCE-9 との比較だけど、他社機のノイズ感と比較しても大きく劣っているし、Dレンジも狭いのは確かだ。 レンズの開放値がF2.8などの明るいレンズでないと撮影した画像をそのまま使うのには無理がある。 ソニーさん、いい加減に「ノイズリダクション:強い」という設定を設けても良いんじゃないか思う。 女の子の首筋にポツポツと髭があるのは嫌なので、ノイズ感が向上されていない事が惜しまれる。

ILCE-9 FE 200-600mm ISO:12800 Tv:1/800s F:6.3 WB:5600K M3
ILCE-9
ILCE-9M3 FE 200-600mm ISO:12800 Tv:1/800s F:6.3 WB:5600K M3
ILCE-9M3
ISO:12800でのノイズ感比較 FE 200-600mm ISO:12800 Tv:1/800s F:6.3 WB:5600K M3
ISO:12800 ノイズ比較
 僕の常用ISO感度である12800まで上げるとノイズ感の違いが良く判るようになる。 衣装部分のノイズが目立ち後処理でノイズリダクションしないと使える写真にならない。 それから、ホワイトバランス・露出を同じに設定しても ILCE-9 より発色があっさりしているし、ILCE-9 では丁度良くても ILCE-9M3 ではG成分がちょっと多い感じになる。 全体の色味と肌色再現のバランスが難しくなったと思う...些細な事かも知れないけど気になる。
 なお、ISO:12800のノイズ比較画像の右端は僕の自作全自動補正アプリで ILCE-9M3 画像の色味を補正してN/R処理させたものである。 ILCE-9M3 によるISO:12800のノイズは自作アプリでは手に負えないレベルだ。

プリ撮影機能

プリ撮影機能を使った連写駒一覧
プリ撮影機能を使った連写駒一覧
 数十人の撮影が続いて「集中力」が切れて来ると体力的・精神的にレリーズする反応が悪くなってしまい、選手のベストな演技タイミングを逃す事がある。 上記の例は集中力があるときだったのでプリ撮影駒は不要な棄て駒になったけれど「プリ撮影機能」を使えば撮り逃がす心配が少なくなる。 さすがに最長の1秒は長すぎるので0.5秒に設定してあるけど、このプリ撮影機能はとても有効だった。 ただ、捨て駒が大量に増えるのが難点なので、失敗できない選手の時だけとか、集中力が切れた時だけ有効にするのが良さそうだ。

 プリ撮影機能をオンにしてシャッター半押しすると連写中と同じ状態なので、ファインダーがフリッカを軽減しないで実撮影モード表示となるので蛍光灯などの環境下ではファインダー画面が明滅してしまう。 グローバルシャッターなので、フリッカー縞ではなく画面全体の輝度が変化する。 困ったことに、プリ撮影機能をオンにすると「フリッカーレス撮影機能」が無効になってしまうのだ。 フリッカーが発生するアリーナではプリ撮影機能は使えないという事になるので、プリ撮影機能とフリッカーレス撮影とを両立できる様に改善して欲しい

 ちなみに、連写記録開始駒には「☆」レーティングを付け、本レリーズ開始駒には「☆☆」レーティングを付けて判別し易い様に設定しているけど、レーティング付きの駒が沢山増えるのが悩ましい。

 なお、PCに取り込んだ画像の撮影シーケンス番号を確認すると、妙な番号から始まっていたりするのが判る。 多分、プリAFが更新されて記録開始シーケンス番号が大きな数になっているのだろうけど、実際に記録する画像は従来通りゼロから始まってた方が気持ち良い...普通の人は知る術がないだろうけど。

カメラのバグ

 さて、ILCE-9M3 のファームウェアバージョンは1.00だけど、いろいろとバグが潜んでいる様だ。 もっとも困るのは試合撮影中に『あれ?AFしない!』っと思ったら「カメラがフリーズ→画面真っ白→IBISガッコン音→勝手にリブート」する現象で、有力選手の撮影中なら僕自身がフリーズして卒倒しちゃうかもしれない。 撮影7日間で1回の発生だったけど、非常に怖いバグなので、早急に対処して欲しい。 また、被写体を認識するまでAFが動かないとか、背景にピントが持っていかれるとか、電光掲示板にピントが合わない とかも設計バグだと言えるので、ちゃんと設計・チューニングして欲しい。

ワイヤレス送信速度

ポケットルーター経由のFTP転送も速くなった
FTP転送も速い
 試合後に撮影した写真をPCに取り込むのだけれど、撮影中にセレクトした写真をPCにFTP転送する事もある。 ILCE-9 のWi-Fiは2.4GHz帯だけだったし、FTP送信速度は当時の他機種と比較しても遅いカメラだった。 ILCE-9M3 のWi-Fiは2x2 MIMO対応と5GHz帯が使える様になったので FTP送信速度は他社製品なみに高速化された感じだ。

 僕が使っているポケットWi-Fiルーターは¥1,200円で買った中古の「Speed Wi-Fi NEXT W06」で、2.4GHz帯か5GHz帯かのどちらかを選択する旧タイプなのが辛い。 ILCE-9は2.4GHz帯しか使えないし ILCE-9M3 はより高速な5GHz帯が使えるので両方同時に送受信できるルーターが便利だ。 それに観客が多いアリーナでは2.4GHz帯の電波が飛び難くなるんだよねぇ。

消費電力

 これまではグリップ内のNP-FZ100電池2個で何とか1日は持ったけど、ILCE-9M3 ではびっくりするほど電池の消費が速い。 撮影しちゃう駒数も数倍に増えたとはいえ、競技途中の電池交換は面倒だ。 初代は電池が1個づつ消費していたので、空になった電池1個を交換する事で撮影中のバッテリー切れを防いでいた。 ILCE-9M3 はグリップ内の両方の電池が同じ様に減って行くので、電池交換タイミングを逸するとバッテリー切れになってしまう危険がある。 電池を1個づつ消費する従来モードがあっても良かったのではないかと思う。

 僕は撮影現場にパソコン用の大型モバイルバッテリーを持ち込んでいるので、ILCE-9M3 の大食漢対策としてパソコンと並行してカメラにもUSBから給電しながら撮影してみた。 バッテリーは減らないので安心して撮影できるけど、撮影ポジションを変更する時はUSBコネクタを抜かなきゃならないので注意が必要だし面倒だ。 また、良く判らないけどUSBから給電中はカメラがスリープしないのでボディーがホッカホカに暖かくなる。 カメラの電源スイッチはオンのままでUSB給電中にもスリープさせる様にするにはどういたら良いのか判らない。

操作性:レリーズタイムラグ

レリーズタイムラグ設定
レリーズタイムラグ設定
 ILCE-9 を使っていると、『あれぇ?』と思うくらいレリーズタイムラグが遅い事があったけど、ILCE-9M3 ではレリーズタイムラグを選択できる様になった。 「最速レリーズ」や「安定レリーズ」を選択すると最初の1駒目はブラックアウトするけど、タイミングが合わない事態を最小限に防ぐ事が出来る...と思われる。 僕はウィンクの様なブラックアウトが気に喰わないので従来通りの「自動」のままにしてあるけど、そのうち差を確かめてみたい。

操作性:AF-ONボタンでスリープ解除

 ILCE-9 ではカメラがスリープ状態に移行すると、カメラを撮影状態に戻すためにはシャッター半押しする必要があった。 ILCE-9M3 では AF-ONボタン操作 でカメラが撮影状態に復帰してくれる。 ILCE-9 ではスリープ解除できるボタンはシャッターボタン・再生ボタン・メニューボタンだけだったので快適に使える様になった。 欲を言えば AELボタン操作 でも復帰してくれたらなぁ。

 残念なのはカスタムボタンがロールオーバーしてくれない仕様のままだった事だ。 AELボタンに「押す間カスタム設定呼び出し」を割り当てて高速連写にしているけど、シャッター半押し状態でAELボタンを押しても無視されるのでAELボタンを押してからシャッター半押しする必要がある。 カメラがスリープ状態の場合は「シャッター半押し→シャッター放す→AELボタンを押す→シャッター半押し」という面倒な手順が必要だ。 シャッター半押し中にAELボタン押しを受け付けてくれれば、常にシャッター半押し状態で被写体を狙い続けられる。 単なるAEロックは受け付けてくれるのに残念な仕様だ。

操作性:C5ボタン

C5ボタン
C5ボタン
 ILCE-9M3 にはマウントとグリップの間にC5ボタンが新設された。 とりあえず ILCE-9 との併用を考慮して ILCE-9M3 固有の機能である「プリ撮影機能」のON/OFF設定を割当て、このボタンを押したら機能が切り換わるという設定にしてみた。 実際にC5ボタンを使ってみて、カメラボディー側のC5ボタンの位置とグリップ側のC5ボタンの位置が微妙に異なるので、横位置・縦位置で握り替えると中指がC5ボタンを探してウロウロしてしまう。 グリップのC5ボタンは押し易いけどボディー本体のC5ボタンはレンズマウントが近いので押し難い。

プレ撮影状態アイコン
プリ撮影状態アイコン
 先にも書いたけど、常時プリ撮影機能を有効にすると大量の捨て駒に悩まされるし、異常に電力を消費する様だ。 ファインダー内に全情報を表示する設定であればファインダー内にプリ撮影アイコンも常時表示される。 全情報が表示されるファインダーはウザいので、通常はシンプルな表示するのでプリ撮影アイコンがすぐに消えてしまうのは困りものだ。 ファインダーから眼を離したりするとファインダー内にプリ撮影アイコンが短時間だけ表示されるけど、現在のプリ撮影機能状態が判る様にアイコンだけは常時表示させる設定が欲しい。 プリ撮影機能状態を頻繁に切り換える撮影者ならではの悩みである。

操作性:ドライブモードダイヤル

ドライブモードダイヤル
ドライブモードダイヤル
 ILCE-9 では「押してる間切換え」によりドライブモードを瞬時に切り換える事ができたけど、メカダイヤル表示とカメラの状態とが乖離する事からボタンを押し続けなければならなかった。 ILCE-9M3 にはFnメニューやカスタムボタンによりドライブモードが切り換えられる「」モードが追加された。 これにより「押してる間」だけ有効になるだけでなく、「押したら切換え」が可能になった。

高速連写モードに切換えたいシーン
高速連写したいシーン例
 僕は ILCE-9 でAELボタンを押してる間は「押す間カスタム設定呼び出し」を使って高速連写する様に設定してあったので、ILCE-9M3 の「」モードは使わないで従来通りの使い方になると思う。 ちなみに、AF-ONボタンではダイヤル設定(大抵は連写M)通りのドライブモードとなっていて、親指が押すボタンによって連写モードを変えている。 高速連写に切換えたいシーンの瞬間は演技している選手の所作から感じ取れるので、普段は中速連写で充分なのだ。 ただし、選手が回転するジャンプシーンなどでは顔がアレなのでレリーズすることは殆ど無い...僕はね。

操作性:撮影モードダイヤル

撮影モードダイヤル
撮影モードダイヤル
 撮影モードダイヤル上から「動画」と「S&Q」が無くなり、撮影モードダイヤルの基部に独立して「静止画/動画/S&Q」切換えダイヤルが設けられた。 撮影中に「静止画」と「動画」とを切り換える事があるので、独立してくれたのは嬉しい。
 なお、「静止画」と「動画」と「S&Q」とでシャッター速度等を独立して設定できる(同一設定にもできる)のは褒めたいけど、AF設定は独立して設定出来ない。 静止画と動画とでAF設定が同じハズはないので、この機能は使えそうで使えない。 それから、静止画⇒S&Qにした時に警告画面が出るのも余計なお世話だ。

操作性:携帯性(大きさ)

ぎりぎりバッグには納まった
バッグには納まった
 残念な事に ILCE-9 よりちょっと大きくなってしまった。 メカシャッターが無い(遮光幕はある)のに大きくなっているのはバリアングルモニターとグリップ関連だろうか? 昔、ILCE-9 を使い始めた時は右手中指に「α9ダコ」が出来てしまったけど、ILCE-9M3 のグリップはタコが出来にくそうだ。 ただし、僕の手は ILCE-9 に最適化されているので、ILCE-9 の方が手に馴染んでいる。 なお、ILCE-9 で使っていたカメラバッグには「ぎりぎり」収まったけど、PCなども詰め込むとバッグがはち切れそうだ。

 カメラ本体も大きくなったけど、新しい専用グリップ VG-C5 も大きくなった。 困るのはグリップの底面が妙にラウンドしていてグリップ付きカメラを机上に置いた時に不安定で倒れやすい事だ。 机に置いて不安定なカメラって嫌だなぁ...僕が部長なら却下するな。

グローバル電子シャッターによるメリット

ローリングシャッター歪みレス

 ILCE-9 は高速な電子ローリングシャッターになっていたけど、大昔の入門用カメラのメカシャッター幕並みのスキャン速度だったので、選手を追いながら撮影していると、背景の看板や柱が少しだけ斜めに歪むのが困りものだった。
ILCE-9 FE 200-600mm ISO:12800 Tv:1/800s F:6.3
ILCE-9 での撮影例
  ILCE-9M3 FE 200-600mm ISO:12800 Tv:1/800s F:6.3
ILCE-9M3 での撮影例
 選手とスポンサー看板とを入れ込む撮影ではローリングシャッター歪みが気になっちゃうのである。 ILCE-9M3 はグローバル電子シャッターになったおかげで気になるローリングシャッター歪みから完全に解き放たれた

フリッカーレス

 ILCE-9 にはフリッカーレス撮影機能が無かったので、大阪の 臨海アイススケートアリーナ とか前橋の ALSOKぐんまアイスアリーナ などではフリッカーによる輝度ムラが発生した写真を自作アプリで修正していたけど、グローバル電子シャッターを搭載した ILCE-9M3 ではその心配はなさそうだ。(ALSOKぐんまアイスアリーナはフリッカーが発生しない照明に改修されていた:2024年1月7日に確認)

ILCE-9 ではフリッカーに悩まされた
フリッカー画像例 ILCE-9 ISO:10000 FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS 自作アプリで自動フリッカー補正を実施 自作アプリによるフリッカー自動補正の比較 ILCE-9 ISO:12800 FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS
ILCE-9フリッカー例 自作Appで自動補正 自作Appで自動補正
 ただし、フリッカーに同期して最大輝度時に露光して貰わないと撮影駒ごとに露出ムラになってしまうので、フリッカー同期撮影機能がどうなっているのか気になる。 ちなみに、ILCE-9M2 などではフリッカーレス撮影時はメカシャッター撮影となるっていたので、被写体検出サイクルが極端に低くなってしまい追尾性能やAF性能が大きく低下していた。

 残念ながら、今回の撮影会場は ILCE-9 でもフリッカーが発生しない照明環境なので、フリッカー対応の検証は出来なかった。 原理的に画面内輝度ムラ(バンディング)は発生しないけど、説明書きによると『光源の点滅周期が100Hzか120Hzの場合にフリッカーを検知して...』と記載されているので、LED照明・LEDスポットライトによる高周波フリッカーではピーク輝度のタイミングに合わせて撮影する機能は無い様だ。 つまり、縞々にはならないけど、撮影駒ごとに露出ムラの写真になるという事だろう。 えらく残念な仕様だけど、全体的な露出変動なら従来の縞々写真より補正は簡単そうだし、高速連写すれば補正無しで使える駒があるかも知れない。

 先にも書いたけど、プリ撮影機能をオンにすると「フリッカーレス撮影機能」が無効になってしまう。 なので、蛍光灯照明下ではシャッター半押しやAFオン状態にするとファインダーが明滅状態になる。 通常はフリッカーが生じないタイミングでファインダー表示画像を生成している様だけれど、フリッカーレス撮影機能が実行されると実撮影画像を使う様で、フリッカーの縞は出ないけど画面全体が明滅状態になってしまう。 早急にプリ撮影機能とフリッカーレス撮影とを両立できる様に改善して欲しい。

高速ストロボ同調

 スポーツ撮影でストロボを使うのは表彰式くらいなので、僕には高速同調のメリットはあまりない。 一応、手持ちのGODOX製ストロボで試してみると、シンクロ速度は1/500秒に制限される様だけど、ILCE-9の1/250秒(メカシャッター)よりは1段高速になっている。 ストロボをハイスピードシンクロに設定すれば1/80000秒でもグローバルシャッターが同調しているので、ストロボのエネルギーが無駄になるけど使えないことなない様だ。

 そういえば、アメリカのアイスホッケーではオフィシャルカメラマンが天井に据えた大型ストロボを使って撮影していたけど、カメラの高感度性能が向上したのでストロボ撮影は廃止された様だ。(困った事に、レリーズタイミングがオフィシャルと同期すると露出オーバーになるのよぉ)

お勧め度:

 スポーツ撮影では撮影距離の関係からどうしてもトリミングが必要になることがあるけど ILCE-9M3 は24Mピクセルのままだしノイズが多いのでトリミング耐性は高くない。(下品なエッジ処理ではないのが救いだ) ISO感度が12800程度まで使うカメラマンでグローバル電子シャッター機能が必須でないなら ILCE-1 をチョイスした方が良いと思う。 僕はILCE-9M3 を買っちゃったので仕方ないけどねぇ。

良い点 
  • AF精度がすこぶる優秀
  • ローリングシャッター歪みが無い
  • バッファ開放が速くなった
  • FTP転送速度が速くなった
  • フリッカーレス撮影が出来る(多分)
  • グリップのホールド感が良くなった  
悪い点 
  • AFトラッキング・認識に問題が残っている
  • 高感度画質がイマイチ
  • 画素数が24Mは少ない 
  • 最低感度がISO:250と高い(拡張でISO:125)
  • メカシャッターが無いのに販売価格が高い
  • 電池持ちが悪くなった 
 僕の感じでは★3個といった評価だけど、ファームウェア修正で解決できるトラッキングや被写体認識は別として、高感度ノイズ特性が良ければ★を1個増やしてあげただろう。 それでも ILCE-9M3 のAF精度を体感しちゃうと ILCE-9 には戻れないほどAF精度素晴らしいと思う。

あとがき

長野では珍しく結構な積雪となった
長野では珍しく結構な積雪となった
 苫小牧の国スポから長野の全中と転戦し、ILCE-9M3 を使ってきたが、長野では結構な積雪に見舞われた。 何年もこの時期に長野へ来ているけど、こんなに雪が降ったのは初めてだ。 まだ ILCE-9M3 を使い込んだ訳じゃないけど、撮影機材としての基礎体力は充分に高いことが判った反面、知的な画質に関してはちょっと残念に思う。 銀座のソニーストアに怒鳴り込んでカメラを投げつける...ほど酷くはないので誰に文句を言ったら良いか困っている。

 思えば2017年に発売された当初の ILCE-9 のAFは酷いもので、納品する写真を撮るのに非常に苦労した。 色々考えながら撮影しないといけないので、年寄りがボケ防止に使うには丁度良い機材ではあった。 2019年3月にリリースされた Version 5.00 で、それまでのファームウェア担当者をクビにしたのではないかと思うくらい劇的に良くなった。 Version 5.00 より前のファームウェアで納品可能な写真を得るには「たくさん撮るしかない」ので、撮影後に徹夜でセレクト作業したのが懐かしい思い出だ。

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