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Canon II S改(左) / Canon IV Sb改(中央) / Canon IV Sb(上) |
キヤノンのレンジファインダーカメラは、独自マウントの第一世代と、ライカスクリューマウントになった第二世代と、脱バルナック型となる第三世代に別けられる。 Canon IV Sb改 は第二世代の完成形と言える製品で、その特徴は Canon Camera Museum によると以下のとおりである。
IV Sb型の後継機種にふさわしい最高級の品位と精密感を備えていた。 シャッターのレリーズ後にも、使用しているシャッタースピード値がわかる中軸指標付きのシャッターダイアルとなり、シャッタースピードの段数がほぼ倍数系列化して使いやすくなった。そして、巻き上げノブ基部にはフィルムの装填枚数が記録できる手動セットによるメモ表地板が付いた。 先のIV型に始まるキヤノンの高級35mmカメラは、IV Sb型、IV Sb改型で頂点に達し、キヤノンカメラ(株)の黄金期を迎え、これらは、その前年に登場してきたニコンS型と共に日本のカメラ工業力を世に問う垂涎の最高級機であった。
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Canon IV Sb改 と IV Sb と II S改
バルナック型ライカを越えるカメラを作るために改良に改良を重ねて発売されたキヤノンの IV Sb改 は LEICA IIIf を凌ぐ素晴らしいカメラになっていたが、同年に発売された全く新しい LEICA M3 によって再び大きく溝を開けられることになった。 Canon IV Sb改 のベースとなった1952年発売の Canon IV Sb で既に LEICA IIIf に追いついていたし、IV Sb改 で最高峰のカメラになったと「ぬか喜び」していたであろう開発陣が奈落の底に突き落とされた姿が眼に浮かぶ。
さて、Canon IV Sb改型はどういうカメラだったかというと、IV型の改良型(S)の改良型(b)の改良型という事であり、ややこしいモデル名になっている。 また、Canon II S改 は 1955年に IV Sb改 の普及姉妹機として、最高シャッター速度を1/500秒に落として発売された。 この頃から小出し戦略がキヤノンの常套手段だった様だ。 とはいえ、カメラ製造の円熟期なので工作精度も高く、コストダウン優先になる前の第二世代カメラは各部の操作感がとても良いカメラである。
シャッターダイヤル周り
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シャッターダイヤル周り |
シャッターダイヤル / レリーズボタン / 巻き上げノブ / AR切換えレバーなどの配置はバルナック型ライカと同じで違和感はない。 シャッターダイヤルは旧態な2軸式のままだけど、シャッター速度が倍数系列の 1、1/2、1/4、1/8、1/15、1/30、1/60、1/125、1/250、1/500、1/1000(II S改は1/500まで) となり使い易くなった。 また、高速シャッターは回転式のままだけど、改型 では指標が付いたダイヤル中軸分離となり、レリーズ後でも設定シャッター速度が判る様になった。
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外付けセルフタイマー |
低速シャッターを使用する場合はカメラ上面の高速シャッターダイヤルを「30-1」にセットしたうえで、カメラ前面の低速シャッターダイヤルで所望のシャッター速度を1/30秒~1秒かT(タイム)を選択する。 なお、低速シャッターダイヤルには1/30秒部分にロックがあるので、それ以外を選択するときはロックボタンを押しながら1/30秒から外して回す必要がある。
また、LEICA IIIfは1954年生産品からセルフタイマーが搭載されたが、キヤノンの第二世代カメラでは最後までセルフタイマーは搭載されなかった。 外付けセルフタイマー装置を持ち歩くのは手間だったけど、逆にカメラを構えた時に右手中指などがセルフタイマーに当たらないのでホールドし易いというメリットもあった。
巻き上げノブ周り
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巻き上げノブ周り |
巻き上げノブを時計回りに回せばフィルム巻き上げとシャッターチャージが出来る。 巻き上げノブの基部には順算式フィルムカウンターがあり、フィルムを装填して2駒分空送りしてから再度巻き上げチャージした後にカウンター板を回して「1」に設定すれば撮影スタンバイとなる。 巻き上げノブ上面にはフィルム感度メモがあり、IV Sb改 や II S改 では巻き上げノブ基部に花弁型の装填フィルム駒数メモが追加された。 フィルム駒数メモをセットしておけば、カウンターが最終駒になった時に赤点が指標に来るので「駒数を数えなくても」視覚的に最終駒だと気付ける。
レリーズボタンの前方にA(Advance)R(Rewind)切換えレバーがあり、フィルム巻き戻し時以外はA(Advance)側に設定しておく。
巻き戻しノブ周り
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巻き戻しノブ周り |
フィルムを巻き戻すときはレリーズボタン側にあるAR切換えレバーをA⇒Rにして、巻き戻しノブを時計回りに回せばフィルムを巻き戻せる。 巻き戻しノブは引き上げる事が出来るので、引き上げれば巻き戻しが楽になる。 巻き戻し中はレリーズボタンがくるくる回り、フィルムがスプロケットから外れた事になる回転しなくなる。 念のため、もっと回してフィルムのベロを巻き込んでしまった方がシャッター幕に優しいだろう。
なお、巻き戻しノブの基部にファインダー倍率セレクターがあり、Fと1xと1.5xにファインダー倍率を切り換えられる。
フィルム装填
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フィルム装填 |
フィルム装填もバルナック型ライカと同じで、底蓋を外してスプールにフィルムベロを差し込んでからパトローネとスプールを一緒にフィルム溝に落とし組む。 スプールのフリクションが弱めなので、ちょっとズレたりすると上手く装填・巻き上げ出来ない事がある。 テレホンカードを差し込んでからフィルムを落とし込んだ方が確実だろう。 なお、テレホンカードはキヤノン純正品を使うべきだ。(大笑い)
ラピッドワインダー
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ラピッドワインダーを装着した Canon IV Sb改 |
カメラ底蓋をラピッドワインダーに交換することで、トリガーレバーで巻き上げ・チャージが行え、グリップも装着すれば「サクッ」と巻き上げ出来るので快感になる。 使用感は悪くないし速射性が上がるのだけれど、巻き上げのたびに左手をピント操作からトリガー操作へ切り替える必要があり、操作性という観点では右手巻き上げレバー式に軍配があがる。 なお、ラピッドワインダーを装着したままでも巻き上げノブでフィルム送りとシャッターチャージを行う事が出来る。
ちなみに、第三世代のカメラでは後付けのラピッドワインダーは無くなり、括り付けの Canon V T型 や Canon VI T型 等のトリガー式モデルが発売されていた。
シンクロレール
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Flash Unit model Y をシンクロレールに装着 |
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シンクロ接点アダプター |
Canon IV Sb からカメラ左側面に、X接点とFP接点の自動切換えが付いたシンクロレールが装備され、専用のフラッシュを使うことでシンクロケーブル無しにフラッシュ撮影が可能になった。 なお、レールにシンクロ接点アダプターを装着すれば従来通りシンクロケーブルを用いたフラッシュ撮影が可能で、DINソケットを持たない第二世代カメラには必須のアクセサリだと思う。 っていうか、DINソケットも装備しておくべきだと思うぞ。
ファインダー
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3段階の変倍率ファインダー |
Canon S II型 を除くキヤノンの第二世代レンジファインダーカメラの大きな特徴は、二重像合致式連動距離計と回転変倍式逆ガリレオファインダーを光路内に一体化したビューファインダーにある。 巻き戻しノブの基部に倍率切換えレバーがあり、3段階に変更できる。
切換え位置 |
ファインダー倍率 |
ファインダー視野 |
有効基線長 |
F位置 |
0.67倍 |
50mm |
約25mm? |
1x位置 |
1倍 |
100mm相当 |
約37mm? |
1.5x位置 |
1.5倍 |
135mm相当 |
約55mm? |
光学系を90度づつ回転させる事でガリレオ式 / 素通し / 逆ガリレオ式を切り換えるもので、よく考えられたアイデアである。 ただし、F位置の状態では標準レンズの開放絞りに対しては測距精度的にピント合わせに神経を使うので、倍率を上げてピント合わせした方が確実だろう。
また、1xと1.5xではファインダーマスクが明確ではない(というか、マスクが無い)ので、距離計枠が視野の中央になる様に眼の位置を調整し、その時に見える範囲が対応焦点距離の範囲らしい。 でも、眼をずらすと焦点距離に対応する視野より随分と外側まで見えてしまうので、かなりアバウトなビューファインダーといえる。
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ユニバーサルファインダー |
広角レンズなどを装着した場合は外付けビューファインダーのお世話になるのだけれど、交換レンズごとにビューファインダーも付け換えるのが手間なので、レンズ交換が億劫になってしまう。 ロシア製の 2.8cm/3.5cm/5cm/8.5cm/13.5cm の複数に対応した外付けビューファインダーを持っていて、覗き易くて見え味も悪くないし28mm対応で便利なのだけれど、カメラの容姿が得体の知れない怪物の様になるので装着を中慮しちゃう。
交換レンズ
第一世代のころは日本工学にレンズを供給して貰っていたが、第二世代からは自社製の SERENAR ブランドレンズを装着する様になった。 利益率がカメラ本体より遥に高い交換レンズを自社生産にする意義は非常に大きかったハズだ。
なお、以下のサンプル写真は SONY ILCE-9 にマウントアダプタ経由で装着して撮影している。
SERENAR f:1.9 50mm
1949年に発売された4群6枚構成のダブルガウス型で、鏡筒内反射があるのでフード無しの日中撮影では霞がかった写りになり易い。 開放絞りでは高輝度部が滲むけど画面中央の解像感は良い感じで、F4~F5.6まで絞れば周辺部も実用画質になる。 二線ボケの傾向はあるけど、ハレーション対策を施せば思った以上にシャキッと写ってくれる。 撮影前に沈胴を引き出す儀式がクラシカルで楽しいレンズだけど、ミラーレスデジカメに装着して沈胴させるとセンサーカバーガラスを傷つけるかも知れないので気を付けよう。
CANON LENS 50mm f:1.8 I
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近接撮影アダプター |
SERENAR 50/1.8専用の近接撮影アダプター「Canon AUTO-UP」があり、装着すると約1mから約0.5mの範囲でピントが合うようになる。 ライカの近接アダプターと違うのは接写レンズと補正レンズがアームで連結されていることで、二つのパーツに分かれていないので脱着は楽である。 装着はレンズ前枠に締め付け式で装着し、距離計は問題なく補正されているけど、ビューファインダー視野は全域をカバーしていないので『なんだかなぁ...』と感じてしまう。
CANON LENS 50mm f:1.5
SERENAR f:2.8 35mm
SERENAR f:3.5 28mm
CANON LENS 28mm 1:2.8
あとがき
スクリューマウントのままだけど、1956年に脱バルナックコピー型となる第三世代のVシリーズを発売し、シャッターダイヤルが1軸となったVI型の発売は1958年と遅れているうちに、時代は一眼レフに移行してしまい、一眼レフでも先行他社に後れを取ってしまった。 その後、レンズ交換式レンジファインダーカメラは1965年に発売された Canon 7s まで粘ったが、それを最後に撤退する事となった。
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破損したシャッター幕 |
実は、記事を書くために Canon IV Sb を引っ張り出してシャッターを切ってみたら、その音が...『ぬんっ!?』...シャッター幕が破損しました。 シャッター幕が硬くなっていた様で、レリーズしたら先幕がくしゃくしゃになってしまった。 今のところ Canon IV Sb改 も Canon II S改 も元気なので、放っておこうか修理はしようか...シャッター幕作成・交換・調整って手間なんだよなぁ...どうしましょう。
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