LEICA IIIg - 1956年発売

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LEICA IIIg型
LEICA IIIg型
 既に LEICA M3 が市場投入(1954年発売)されていたので、バルナック型ライカの時代ではなくなっていたが、M型ライカの要素を取り入れた最後のバルナック型ライカとして発売された。 『M型に馴染めない保守層に媚びたライカ』という指摘もあるけど、実際に手に取ると、IIIg型よりIII型の様な古いライカの方が手に馴染む。 でも、美しいカメラなので飾っておいても良いだろう。

LEICA IIIg

 ライカの初期製品は黒塗りのカメラが殆どだったけど、LEICA III型あたりからシルバーモデルが多くなった。 どうやら「ぴかぴか」のカメラを訴求したのはライカだったらしく、高価な嗜好品であるカメラを精密工芸品としての要素を前面に出す戦略だったのだろう。
 この LEICA IIIg にはブラックボディーはなく「ぴかぴか」のボディーしか発売されていない。 生産は1956年から1960年までで、約41500台ほど製造されたらしい。 基本的な使い方は LEICA III型 から変わらないが、ファインダーにブライトフレームを採用したり、シャッター速度が倍数系列になったりと使い易くなっている。

カメラ背面

カメラ背面
カメラ背面
 背面に LEICA M3 と同様のフィルムインジケーターが付いたけど、フィルム装填を楽にするドアは付いていないので、フィルム装填時はテレホンカードのお世話になっている。
 ファインダー右横にはシンクロターミナル(写真ではキャップが付いている)があり、滅多にないけどストロボを使う場合にシンクロコードを差し込む。 僕のストロボはライカ純正ではなくOEM元のパナソニック製だ。

シャッターダイヤル周り

シャッターダイヤル周り
シャッターダイヤル周り
 バルナック型ライカでは上面には高速用シャッターダイヤルがあり、LEICA IIIg では1/100秒から1/60秒までのシャッター速度と⚡とバルブが選択できる。 高速シャッターダイヤルはレリーズやチャージで回転するので、シャッター速度の選択はシャッターがチャージされた状態で、ダイヤルを持ち上げながら回して所望のシャッター速度をアクセサリーシューに刻まれた指標に合わせて選択する。
 低速シャッターを利用する場合は、高速用シャッターダイヤルで「30-1」を選択したうえで、カメラ前面右上方の低速用シャッターダイヤルで1/30秒から1秒のシャッター速度を選択する。 2種類のダイヤル軸があるので面倒なのは旧式だから仕方ない。
 なお、シャッター速度は倍数系列の 1、1/2、1/4、1/8、1/15、1/30、1/60、1/125、1/250、1/500、1/1000 となり、最近のカメラや露出計と併用しても違和感なく使える。

巻き戻しノブ周り

巻き戻しノブ回り
巻き戻しノブ回り
 巻き戻し切換えレバーをA⇒R側にし、巻き戻しノブを時計回りに回せばフィルムを巻き戻せる。 巻き戻しノブは引き上げられるので、引き上げて回せば楽に巻き戻しができる。 巻き戻しが終わったら切換えレバーをR⇒A側に戻すことを忘れない様にしよう。
 なお、ノブの基部に視度調整レバーが付いているが、設定が変わり易いのは旧型と変わらない。

フィルム装填

フィルム装填
フィルム装填
 フィルム装填は底蓋を外して行う伝統方式なので、このカメラでもテレホンカードを差し込んでからフィルム装填している。 昔のコダック社フィルムはベロの細い部分が長いので引っ掛かり難かったけど、富士フィルムなどのベロの細い部分が短いフィルムはアパーチャ開口部に引っかかり易いのだ。 なので、事前にテレホンカードを差し込んでアパーチャ開口部を塞いでおけば引っかからない。 スプールはM3型ライカと兼用できる様になっていてるけど、操作は特に変わらない。 なお、底蓋の三脚ネジ穴は大径ネジの「ドイツネジ」のままなので、1/4インチアダプタを着けていないと三脚使用時にアセる事になる。

ファインダー視野

LEICA IIIg のビューファインダー視野
LEICA IIIg のビューファインダー視野
 レンジファインダーとビューファインダーが別れているのは従来のバルナック型ライカと同じだけど、ビューファインダーに50mmと90mmのブライトフレーム(90mmは四隅に▲印があるだけ)が搭載された。 これに伴い前面のファインダー窓に四角い小さな窓が追加され、ファインダーブロックの高さも増えてしまった。 ブライトフレームはパララックス補正されるので、50mmや90mmを使うならそのままフレーミングできる。 ただし、M型ライカの様にブライトフレームの選択はできなく、両方のフレームが表示されたままである。 従来のビューファインダーより見やすい気がするけど、まだまだアイポイントが近すぎる。

標準レンズ

Summicron f=5cm 1:2
Summicron f=5cm 1:2
 LEICA IIIg には標準レンズとして Elmar f=5cm 1:2.8 が用意されていたけど、僕は沈胴式の Summicron f=5cm 1:2 を使っている。 このレンズは6群7枚構成でドイツ人のマンドラー氏による設計で、今や伝説となった「空気レンズ」を採用した事は有名で、ライカの看板レンズとなった優秀なレンズである。 僕の個体は黄変しちゃうアトム玉で、初期の製品はトリウム酸化物を含む硝材が使われていた。 紫外線照射によるブラウニング対策は欠かせないけど、コーティングに紫外線ヤケが発生しても困るので程々にした方が良いだろう。
Summicron f=5cm 1:2 絞り:F2(開放)
絞り:F2
Summicron f=5cm 1:2 絞り:F2.8
絞り:F2.8
Summicron f=5cm 1:2 絞り:F5.6
絞り:F5.6
Summicron f=5cm 1:2 絞り:F2(開放)
絞り:F2
Summicron f=5cm 1:2 絞り:F5.6
絞り:F5.6
距離環1mでの遠景玉ボケ 絞り:F2(開放)
絞り:F2
Summicron f=5cm 1:2 絞り:F2(開放)
絞り:F2
Summicron f=5cm 1:2 絞り:F2(開放)
絞り:F2
6群7枚構成の Summicron f=5cm 1:2
レンズ構成
 絞り開放での画面周辺はちょっと残念な画質ではあるけど、画面中央の解像が異常なほどに高いので周辺画質の粗が目立ってしまう。 ゾナーは絞っても周辺画質がなかなか向上しないけどスミクロンは絞れば周辺画質が向上し、F5.6なら四隅の画質も実用的な画質になるのがゾナーとは違う特性だ。 中央は線が細くて容赦ない解像度のためピント合わせに気を使ってしまうが、合焦させた主題が浮き立つ様な感じに写ってくれる。 初めてこのレンズで撮った写真の描写を見た時の驚愕と感動を今でも覚えている。
 Summicron はライカの看板レンズとなったけど、同じ「Summicron」であっても世代ごとに設計変更されていて、分離面を平面化したり製造上のコストダウンが図られていた様だ。

ラウニング対策

紫外線照射
紫外線照射
 例によって数年に一度の紫外線照射祭りだ。 以前は冬に太陽光を当てていたけど、今は紫外線LEDによる照射が可能なので、室内で昼夜を問わず対処できる。 Summicron f=5cm 1:2 は第一レンズと第三レンズがアトム硝材なので、レンズ前方から紫外線照射するか分解して第一・三レンズだけに紫外線照射するのが良い。 グリスや潤滑油の揮発成分でレンズ内に曇りが発生している場合もあるので、分解清掃のついでに紫外線照射するのが効率的だろう。 なお、ヤワな前玉なので清掃の際は拭き過ぎに注意した方が良い。

近接撮影アダプター

近接撮影アダプター
近接撮影アダプター
 距離計連動式カメラは近接撮影能力が低いのが困りもの。 そもそも、距離計が無限遠から約1mまでした対応していないので、一歩踏み込むとピントが合わない事が多々ある。 そんな時に有効なのが LEICA IIIg 用近接撮影アダプターの ADVOO/16503 である。 接写レンズと補正レンズがセットになっていて、撮影レンズのフィルター枠に接写レンズを装着し、アクセサリーシューを使ってファインダー距離計前面に補正レンズを装着することで近接撮影を可能にするものだ。 これを着ければ距離計もパララックスも補正されるので持っていて損はないだろう。 ピントを合わせられる範囲は0.9mから0.5mで、遠景にはピントを合わせられなくなるけど「寄って撮る」のが判っている時は重宝する。 このアクセサリはアタッチメントサイズが同じ Elmar f=5cm 1:2.8 でも利用可能だ。

望遠レンズ

Elmar f=9cm 1:4 Type 5
Elmar f=9cm 1:4 Type 5
 LEICA IIIg に似合う望遠レンズはブライトフレームが対応している Elmar f=9cm 1:4 Type 5 だろう。 このレンズはM型ライカ用に発売されたレンズを後からスクリューマウントに変更して発売されたレンズで、LEICA IIIg の為に作った様なものだ。 生産本数は少ないらしいけど2本持っている。 というのも、Elmar f=9cm 1:4 はレンズ内が曇る癖があり、曇りを放置するとコーティングが劣化(特に凹レンズ裏)して綺麗には戻らなくなるので、念のために追加で入手してあった。
 ちなみに、Elmar といえば特許の影響でレンズ構成はTessar型なのに絞りが第一レンズ直後に配置されていたが、再設計された Elmar f=9cm 1:4 Type 4 から第二レンズ(凹レンズ)の直後に絞りが配置され、文字通りTessar型になっている。 また、Elmar f=9cm 1:4 Type 5 の後期生産品では銘板が ELMAR 1:4 / 90 という記載に変更されている。
Elmar f=9cm 1:4 Type 5 絞り:F4(開放)
絞り:F4
Elmar f=9cm 1:4 Type 5 絞り:F4(開放)
絞り:F4
3群4枚構成の Elmar f=9cm 1:4 Type 5
レンズ構成
 開放絞りがF4と暗めなので、絞り開放から安心して使用できる。 最近の高級レンズの様にキレる様なシャープさではなく、柔らかいけどシャープな描写が特徴だ。 ボケも素直で画面周辺でも滑らかにボケてくれるので優等生レンズといった感じである。 分解してみると、『げげっ、こんな所にこんな黒リングがある!』という様な手間とコストを掛けている事が判る。 なお、レンズ内の曇りを放置するとコーティングが劣化(特に凹レンズ裏)して綺麗には戻らなくなるのが残念だ。

あとがき

LEICA IIIg + CANON 28mm F2.8
LEICA IIIg + CANON 28mm F2.8
 LEICA IIIg は『ファインダーブロックが大きくてエレガントじゃなくなったので LEICA IIIf の方が良い』という意見もあるけど、僕にとっては LEICA IIIg は充分エレガントだし最も使い易いバルナック型ライカだと思っている。 このカメラを抱きながら寝てスミクロンの放射線を浴びても悔いはない。
 ライカには標準レンズや広角レンズで撮影するのが粋な使い方だけど、残念ながらLeitzの広角レンズは高価すぎて買えないのでキヤノンの 28mm F2.8 をビューファインダーとセットで愛用している。 絞り開放での画面周辺は盛大にコマフレアが出るけど、F5.6まで絞れば周辺でも実用的な描写になるのでコスパが高くてお勧めレンズである。

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