ASAHI OPT. Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35

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Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35
 旭光学のM42(プラクチカ)マウント用35mmで、F2.8より明るいタクマーレンズは大別して4種類存在する...他にも存在するかも。

レンズ名称発売年レンズ構成フィルター径重量
Auto-Takumar 1:2.3/351959-635群6枚62mm310g
Super-Takumar 1:2/351963-677群8枚67mm398g
Super-Takumar 1:2/351967-717群8枚49mm242g
Super-Multi-Coated
TAKUMAR 1:2/35
1971-757群8枚49mm240g

Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35

 アンジェニュー社の製品から始まったレトロフォーカス型広角レンズを、旭光学のF2.8より明るい製品で妄想してみよう。 ちなみに、Super-Multi-Coated TAKUMAR レンズと SMC TAKUMAR レンズとを混同している人がいるけど、両者は別製品なので記述には注意しましょう。

P.Angenieux RETROFOCUS TYPE R1 35mm F2.5

P.Angenieux RETROFOCUS TYPE R1 35mm F2.5 構成図
RETROFOCUS TYPE R1 構成図
 フランスのアンジェニュー社が1950年代に発売した広角レンズ「RETROFOCUS TYPE R1 35mm F2.5」が一眼レフ用広角レンズの主流になり、各社とも同様のレンズを開発・設計していた。 また、商品名だった「RETROFOCUS」が凹凸レンズ組合せ構成の逆望遠型レンズを表す名称になってしまった。 この古典的レトロフォーカス型は3群4枚のテッサー型マスターレンズ(水色)の前方に2群2枚の凹レンズと凸レンズから成るワイドコンバーター(黄色)を装着した構成になっている。 凹レンズと凸レンズの間隔を大きく空ける事で主点位置を後ろ側へ移動させる事が可能で、一眼レフにも使えるバックフォーカスを確保するアイデアだけど、周辺コマ収差が多いなどの問題もあったハズだ。 加えて、当時のコーティングでは外光フレアも多く、ベール越しの様な写真になる様だ。

Auto-Takumar 1:2.3/35

PENTAX Auto-Takumar 1:2.3/35 構成図
Auto-Takumar 構成図
 旭光学は1959年にアンジェニュー社と同じ5群6枚構成で第1凹メニスカスレンズを更に前方へ離した古典的レトロフォーカス型レンズ Auto-Takumar 1:2.3/35 を発売した。 第1・2レンズの間隔が長大なので望遠レンズの様な大きさで、周辺コマ収差が多いという問題は同じだった。 コンパクトカメラにコンバーターレンズを装着すると望遠レンズの容姿になるけど、このレンズは本当にコンバーターを装着した様な容姿だった。 当然ながらコマフレアも豊富だった様で、絞り開放ではコントラストが低い古典的レトロフォーカス型らしい描写を楽しめるという。

Super-Takumar 1:2/35(FATタイプ)

PENTAX Super-Takumar 1:2/35 構成図
Super-Takumar 構成図
 1963年発売の Super-Takumar 1:2/35 は7群8枚構成で、マスターレンズ系を拡張ダブルガウス型にしてF2の明るさと周辺性能の改善を図ったものだ。 離れて配置される前群はアンジェニュー社の TYPE R11 と同じ様に凸凹の2枚の構成になっている。 鏡筒外観は太い寸胴構造なので、コンバーター然とはしていないけど、中望遠レンズみたいに威風堂々とした風貌で Super-Takumar FATタイプと呼ばれている。

Super-Takumar 1:2/35(SLIMタイプ)

PENTAX 新 Super-Takumar 1:2/35 構成図
新 Super-Takumar 構成図
 1967年には構成を古典的レトロフォーカスより進んだツァイスのディスタゴン風に変更した7群8枚構成の Super-Takumar 1:2/35 を投入した。 このレンズはフレアが抑えられて周辺性能もだいぷ改善されたけど、酸化トリウム硝材が使われている事から経年でブラウニング現象により黄変してしまう欠点がある。 ブラウニング現象による黄変は紫外線照射により軽減できる。 なお、マウント側から入射した光線は前玉付近に結像するので、太陽光による日光浴で対処する場合は絞りを最小絞りにして前玉側へ届く太陽光を最小にしないと、太陽光の熱でレンズを破損する可能性があるので注意が必要だ。 Super-Takumar 1:2/35 は前玉側からとマウント側からの2方向から日光浴させる必要がある。 分解して黄変しているガラス玉を取り出して紫外線照射した方が安全・確実だ。

Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35

ブラウニング対策効果 未処置品(左)と処置済み品(右)
ブラウニング対処効果
 1971年に、Super-Takumar 1:2/35(SLIMタイプ)を開放測光に対応してマルチコート化された Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 となって抜けの良い描写になったけど、描写特性が古典的ではないのとレンズが黄変しているので市場での人気はあまり高くない様だ。 中古市場では豊富な残存収差により Auto-Takumar 1:2.3/35 や Super-Takumar 1:2/35(FATタイプ)に人気がある。 当時の設計者は全く意図していなかっただろうけど、古いタクマーほど現代のレンズでは得られないエモい写真が撮れるのは確かだ。
 実は Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 を2本持っていて、ブラウニング対処して使っていたレンズと未処置のまま寝かしていたレンズとをライトボックスの透過光で比較してみると「えげつない」ほど差がある事が判る。 ちなみに『黄変したレンズでもデジカメで撮影するならオートホワイトバランスでちゃんと写る』と思っている人もいるけど、黄色味や赤味が強い映像はカメラが「夕景」とか「タングステン光」と判断して「赤味残しアルゴリズム」が働くので、意図した様な色彩表現にならない事が多い。 オデジカメ撮影でもブラウニング対策はするべきなのだ。

実写サンプル画像(Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35)

Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2.8
絞り:F2.8
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F5.6
絞り:F5.6
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F5.6
絞り:F5.6
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2(接写リング併用)
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2
絞り:F2
Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 絞り:F2.8(接写リング併用)
絞り:F2.8
 開放F2と明るいのに古典的レトロフォーカス型と違って絞り開放でも画面中央のフレアが少なく解像感がある。 画面周辺ほど描写が低下し、メリディオナルコマがあるので古典的レトロフォーカス感がある。 F2.8だと画面中央のフレアが消えるけど、画面隅の描写は開放と変わらない。 F4に絞ると画面周辺での描写がかなり向上し、F5.6だと画面隅でも充分な描写となる。 酸化トリウムレンズの黄変対策を施しておけば色乗りも良く、絞り込めば充分にシャープなレンズだ。

 後ボケがリングボケっぽい事と周辺がレモン型ボケである事からグルグルボケになり易いので、シーンによっては画面周辺が騒々しくなる。 でも、これはオールドレンズとして楽しむべき「癖」と受け止めよう。 また、至近端での描写性能は悪くないけど、ヘリコイドアダプターを使って絞り開放で接写撮影すると、被写界深度の浅さも相まってホワホワな描写が得られるがF2.8に絞ると引き締まった描写になる。

角型フードを装着
角型フードを装着
 マルチコートのおかげで抜けの良い写真が撮れるけど、念のためフードを装着した方が外光フレアは軽減できる。 純正の角型フードはネジ込み式だけど、しっかりとネジ込んだ後に180度摺動回転させられるので、画面に合わせて長手方向が真横になる様にセットしよう。 なお、この純正フードには「Takumar 1:2 35mm 1:3.5 35mm」と刻印された面と「ASAHI OPT. CO. JAPAN 49Φ」と刻印された面がある。 僕の Super-Multi-Coated TAKUMAR 1:2/35 はフードをネジ込むと「ASAHI OPT. CO. JAPAN 49Φ」が上になる様にしかセットできなかったので、銘板とフィルター枠を外し、フィルター枠を120度(3本ビス止めなので)回して再組立てして「Takumar 1:2 35mm 1:3.5 35mm」が上になる様にしておいた。

あとがき

 1960年代の旭光学製標準レンズや中望遠レンズは優秀なレンズが多くあったけど、広角レンズには素晴らしいレンズは少なかったと思う...個人的感想だけど。 ところが、1970年代入ると優秀な広角レンズが製品化され始めたので社内的に何かあったと思っている。 1972年にカールツァイスとメガネレンズ事業で合弁会社を設立しているけど、カールツァイスからカメラ事業でも提携の打診があった様だ。 この時、水面下で光学設計技術の提携があり、旭光学のレンズ製品に反映されていたのだと想像している。

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