Arsenal Kiev 88(Киев 88) - 1978年発売

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Kiev 88(Киев 88)
Kiev 88(Киев 88)
  ロシアがウクライナへ軍事侵攻した事によりウクライナへの関心が強くなり、ウクライナ製の中古カメラを買ってみた。 以前からハッセル互換の露出計内蔵ファインダーを持っていたけど、カメラ本体を入手するのは初めてだった。 購入したのが去年の12月だったので超円安で高い買い物だったし、船便による到着も1ヶ月近く掛かった。 ちなみに、8月24日はソビエトからの独立を宣言した記念日だ。

Kiev 88(Киев 88)

Kiev 88(ウェストレベルファインダー)
Kiev 88
 この中版一眼レフカメラはウクライナ・キーウ(当時はソ連)にあるアーセナル社の工場で生産されたカメラで、1957年に HASSELBLAD 1000F のコピー機?として発売された「Salyut」の後継機だ。 1000F のコピー機なので、レンズマウントはロック付きスクリュー式で、他に互換のあるカメラシステムは存在しない。 1972年には自動絞り機構を追加した「Salyut S」へと進化し、「Kiev 80」を経て1978年頃に「Kiev 88」が発売された様だ。 このカメラには異なるブランドや細かなバリエーション変化がある様だけど詳しいことは判らない。

Kiev 88 と HASSELBLAD 1000F
Kiev 88 と 1000F
 1999年にはレンズが豊富なペンタコンシックスマウント(バヨネット)へ変更された「Kiev 88 CM」に移行したので、スクリューマウントの 1600F/1000F とレンズ互換?があるのは「Kiev 88」までである。 コンタックスコピー機やライカコピー機はソ連による戦後の「接収」によりウクライナのアーセナル工場で生産して外貨を稼いでいたようだ。 『接収した品物にあったカメラ』と言うが、HASSELBLAD 1600F は戦後に発売されたスウェーデンのカメラなので、本当は盗作したのだと思う。 だけど「後継機」と謳っていた様なので何か事情があったのかも知れない。

 実は HASSELBLAD 1000F コピー機といっても、ちゃんとした互換がある訳では無い。 試したところ、ファインダーは相互に互換があるけどフィルムマガジンは微妙に装着出来なかった。 また、レンズマウントもKievレンズはHASSELBLADには微妙に装着出来ないし、HASSELBLADレンズはKievに装着出来てもフランジバックが若干違うので無限遠にピントが合わないし、ロックピン動作位置ではレンズがガタガタ状態だ。 従って、容姿がそっくりな別物カメラと言うのが本当のところだ。 何故アーセナルはちゃんとコピーしなかったのだろう?

巻き上げノブ周り

シャッター速度設定ダイヤル 兼 巻き上げノブ
巻き上げノブ周り
 フィルム巻き上げ・シャッターチャージはノブを時計回りに1回転させて行う。 また、巻き上げノブがシャッターダイヤルを兼ねていて、ノブを外側に引っ張りながら時計回りに回せばシャッター速度を選択できる。 シャッター速度は1/1000s・1/500s・1/250s・1/125s・1/60s・1/30s・1/15s・1/8s・1/4s・1/2s・Bulbが選択できる。 シャッター速度ダイヤルを反時計回りに回すのは厳禁なので、所望のシャッター速度を越えちゃったらもう一周回して設定し直す必要がある。

 フィルムを装填しないで巻き上げると感触は悪くないのだけれど、フィルムを装填した状態で巻き上げるとノブ回転後半の感触が異常に悪い...表現が難しいけど『壊れた?』という感触なのだ。 なお、本当かどうか判らないけど、シャッター速度を変更する場合はシャッターをチャージした状態で行わないとカメラを壊す恐れがあるので、説明書の手順通りに操作しよう。

ミラーボックス

ミラーボックス ミラーはしゃくり上げ方式
ミラーボックス
 Kiev 88 のミラーは長めになっていて、しゃくり上げ方式を採用している。 これは HASSELBLAD 1600F/1000F と同様で、ミラー先端とレンズ後端とを干渉させないで長めのミラーをアップする事ができる。 HASSELBLAD 500C ではしゃくり上げ方式にしなかったので、ミラーが短くて150mm程度の中望遠レンズでも画面上方がケラレて暗くなる。 Kiev 88 用の望遠レンズは持っていないけど、接写リングなどで射出瞳距離を伸ばしてもミラー切れの兆候は無かった。

自動絞り駆動板

自動絞り駆動板
自動絞り駆動板
 マウント内には『後から着けました!』という感じで円弧状の絞り込み駆動板が鎮座している。 PENTAX SP などのM42プラクチカマウントでは撮影時にレンズ側のピンを押して絞り込まれる方式だけど、Kiev 88 では押していたピンを撮影時に解放するという逆パターンになっている。 この絞り込み駆動板の位置精度がいい加減っぽく、僕の Kiev 88 ではレンズのピンを押切れていなかった(絞りが完全開放にならない)ので、調整しておいた。

フォーカルプレーンシャッター

ピカピカに光る金属膜フォーカルプレーンシャッター
シャッター
 HASSELBLAD 1000F のシャッター幕は黒色のステンレス幕だったけど、Kiev 88 のシャッター幕は表面も裏面もピカピカな銅色に光る金属製で、どう考えても画面内高輝度部の影響を受けそうな感じだ。 後の Kiev 88CM では黒い布幕シャッターに変更されたと記憶している。 Kiev 88 のシャッターは精度的に問題がある個体が多いらしいけど、僕の Kiev 88 では最長の1/2秒でも問題ないし最高速の 1/1000秒でも露出ムラも無く問題ない。 心配なのは低速側ガバナーがギア式ではなく風車式なので、潤滑油の劣化などで風車の動きが悪くなったら低速はアウトだろう。

フィルムマガジン

交換式フィルムマガジン
フィルムマガジン
 フィルムマガジンは HASSELBLAD 1000F の「12」フィルムマガジン同等品で、作法も同じである。 フィルムをセットした中枠を外枠に装填・ロックしたら、マガジン背面の丸蓋を開けて覗き穴にフィルム裏紙の❝1❞が出るまでマガジンの巻き上げキーを時計方向にグルグル回して巻き上げる。 覗き穴に❝1❞が出たら丸蓋を閉じて、巻き上げキーを反時計方向に回してフィルムカウンターを❝1❞にリセットすれば準備完了である。 なお、フィルムカウンターは中枠を取り出しても自動リセットされないので、忘れずにカウンターを❝1❞にリセットしよう。 また、カメラがチャージされた状態でマガジンを装着しないと1駒無駄にしてしまう。

 ちなみに、実写してみたら光線漏れがある事が判った。💦 遮光用のマガジンスライドの隙間から漏れている様なので光線漏れ防止用の黒色マイラーフィルムを交換しなきゃならないなぁ。 デジタルカメラは多少の光線漏れがあっても、NDフィルターによる昼間の長時間露光(動体を消すヤツ)などをしない限り発覚しないけど、アナログカメラは少しの漏れでも確実に感光しちゃうので面倒だ。

原産国

ボディーの原産国表示は CCCP である
原産国表示
 外観は HASSELBLAD 1000F とほぼ同じで、使い方も同じだ。 レンズやファインダーやフィルムバックなどには互換(実は怪しい)があり、時代に合わせてホットシューが追加されている。 当時はソ連だった事もあり、僕の Kiev 88 側面には小さな「CCCP」というキリル文字のシールが貼ってある。 個体によっては「MADE IN USSR」と記載された個体もある様なので、この個体はソ連国内向けだったのかも知れない。 ちなみに、初代の「Salyut」が1957年に発売された当時のソ連国内価格は400ルーブルだったらしく、ソ連の一般的国民の6ケ月分の給料に相当したそうだ。

プリズムファインダー

プリズムファインダー
プリズムファインダー
 ファインダーは交換式でウェストレベルファインダーやプリズムファインダーや露出計内蔵プリズムファインダーなどが用意されていた。 ウェストレベルファインダーの意匠はハッセルとはかなり異なっているけど機能的には同じだし、どちらにも交換して装着できる。
プリズムファインダーの原産国表示
原産国表示
 プリズムファインダーはハッセルのNC-2と見た目も同じなので、言われなければハッセル製かアーセナル製か判らない程そっくりである。 よくみれば原産国表示が「MADE IN UKRAINE」となっているのでで、アーセナル製と判る。 ちなみに、このプリズムファインダーはウクライナ独立後の製品だと思われる。

露出計内蔵ファインダー

TTL SPOT Prism Finder
TTL SPOT Prism Finder
 僕の露出計内蔵ファインダーはスポット測光機能付きのモデルで、装着した容姿は最新カメラの様な感じになる。 ファインダーの見え具合はアイポイントが短めだけど、ハッセル純正のプリズムファインダーより歪みが少なくてイイ感じだ。 このファインダーは Kiev 88CM の時代に生産されたもので、Kiev 88 の時代に発売されていた やぼったいデザインの露出計内蔵ファインダーよりず~っとカッコ良い。

スポット測光 中央重点測光 切換えボタン
スポット・中重切換え
 この TTL SPOT Prism Finder では右側面のダイヤルにレンズの開放F値とフィルム感度を設定し、カメラを被写体に向けてダイヤルを回してファインダー内のの両LEDが点灯すれば適正露出となり、その時にシャッター速度と絞り値の組み合わせをダイヤルから読み取る方式である。 右側面前方のボタンを押せば露出計が一定時間起動し、露出計起動中にボタンを押せばスポット測光と中央重点測光とが切り換えられる。 スポット測光範囲はプリズム内に蒸着で[ ]マークが表示されている。 [ ]マークの位置は画面中央ではなく、カメラを振らなくても人物の顔が来る位置に[ ]マークがあるので、ポートレイト撮影には便利だ。 恐らく、フォーカシングスクリーンのマイクロプリズム部と被るのでオフセットしたのだと思われる。

フォーカシングスクリーン

明るいフォーカシングスクリーン
フォーカシングスクリーン
 フォーカシングスクリーンは HASSELBLAD 1000F より明るいし、色付きもないので大変見易いスクリーンである。 中央にはスプリット&マイクロプリズムがあるので、ピント合わせもやり易いし、フレネルピッチが荒めだけど方眼線が入っているので構図設定もやり易い優れたフォーカシングスクリーンだと思う。 スプリット部はF5.6より暗いと陰りが生じるけど、開放F3.5なら魚眼レンズでも全く問題なくピント合わせが出来る。

交換レンズ

ZODIAK-8 30mm F3.5(装着)と MC VOLNA-3 80mm F2.8
ZODIAK-8 30mm F3.5(装着)と MC VOLNA-3 80mm F2.8
 Kiev 88 を使う最大のメリットはシステムが安価である事だ。 HASSELBLAD の ZEISSレンズ群はとても魅力的だけど、安価に入手できるKiev用のレンズにも充分に使えるレンズ群が存在した。 時代的にシャッター速度が1/500秒までの HASSELBLAD 500C より1/1000秒が使える Kiev 88 の方が安価にシステムを組むことが出来たし、日中の屋外で絞りを開けたい時の1/1000秒は効果的だっただろう。

MC VOLNA-3 80mm F2.8

MC VOLNA-3 80mm F2.8 絞り:F2.8 Tv:1/1000s Film:Kodak E100G
MC VOLNA-3 80mm F2.8 絞り:F2.8 Tv:1/1000s Film:Kodak E100G
VOLNA-3 80mm F2.8 レンズ構成
レンズ構成
 標準レンズは拡張ダブルガウス型(ウルトロン型)の MC VOLNA-3 80mm F2.8 である。 絞り開放では柔らかい描写だけど、絞れば充分にシャープな描写になる。 後ボケが二線ボケの傾向があるので、シーンによっては背景がザワツク場合がある。 ただし、背景へのデフォーカス差が大きい場合は滑らかで嫌味の無いボケ表現が出来る。
 初代である「Salyut」時代の標準レンズはテッサー型の Industar-29 80mm F2.8 だったらしい。 MC VOLNA-3 80mm F2.8 は逆光には弱めだけど普通に良く写るレンズという印象で、特徴のあるクラシックレンズという描写ではない。 開放ではフレアがかった柔らかい描写だけど、ちょっと絞ればシャープな描写になる。 ちなみに、専用の樹脂製角型フードの質感がチープ過ぎるので塗装しちゃおうかと考えている。
 VOLNA-3 は「Carl Zeiss Biometar successor」と謳って発売されていたのでビオメター型(クセノター型)だと思っている人もいるけど、「Biometar後継」というだけでレンズ構成は拡張ダブルガウス型(ウルトロン型)である。 とうしてもビオメター型で遊びたい人は VEGA-28(120mm F2.8)というレンズを使うと良いだろう。 

ZODIAK-8 30mm F3.5(Arsat 30mm F3.5)

ZODIAK-8 30mm F3.5 絞り:F8 Tv:1/125s Film:Kodak E100G
ZODIAK-8 30mm F3.5 絞り:F8 Tv:1/125s Film:Kodak E100G
ZODIAK-8 30mm F3.5 レンズ構成
レンズ構成
 これは対角魚眼レンズで、製造が面倒な3枚張り合わせレンズを2組も使っている。 また、その描写性能も価格の割に悪くないと思う。 絞り開放では画面隅の描写が少し低下するけど、深度を稼ぐためにF8程度で写すことが多くなるので、シャープ感に不満は無い。
 画面中央は絞り開放でもシャープなので、主被写体にググッと寄って撮影する場合は絞りを開けて周辺をボカせば画面中央のシャープさが活きて来る。
 このレンズを使うためにKievを購入する人も多かったと聞いている。 このレンズは F-DISTAGON より圧倒的に安価だし性能的にも悪くないと思う。 そもそも、出番が少ない魚眼レンズにZEISS製品の様な超高額製品を購入できるカメラマンは少なかったのだろう。

あとがき

取り扱い説明書
説明書
 第二次世界大戦後、元々軍需工場だったアーセナル工場でカメラの生産を開始した。 接収したコンタックスの製造設備を使い、連行したドイツ人技術者に指導させて製造されたカメラを「Киев(Kiev)」と名付けた。 なので、コンタックスコピー機も「Киев(Kiev)」という名称だった。 また、1955年からはアーセナル工場でレンズの製造も開始された。
僕のお気に入りフィルムは Kodak E100
お気に入りフィルム
 Kiev 88 は HASSELBLAD 1000F のコピー機なので基本的な品質は高くないし、使い方を間違えると壊れやすいのも同じだ。 Kiev 88 を使い人は少なくとも説明書を熟読して作法を間違えない様にしよう。 ちなみに、Kiev 88 CM ではシャッターが設計変更されて信頼性が増しているらしい。 それにしてもフィルムの価格が高すぎて、銀塩カメラは気軽に楽しめるモノではなくなってしまった。

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