HASSELBLAD 1000F - 1953年発売

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HASSELBLAD 1000F Tiffen Series 7 角型フードを装着
HASSELBLAD 1000F Tiffen Series 7 角型フードを装着
 HASSELBLAD 1000F は1949年に発売された HASSELBLAD 1600F の後継機で、1600F では1/1600秒のシャッター最高速を実現するシャッターの生産が滞り、なかなか出荷できなかった。 そこで、シャッター最高速を1/1000秒にスペックダウンした 1000F が1952年に発表された。

HASSELBLAD 1000F

ステンレススチール製のシャッター幕 右側のギヤはフィルム巻き上げ駆動用ギア
シャッター幕
 コルゲーション(波形)加工された14/1000mm厚のステンレススチール幕を使用したフォーカルプレーンシャッターを搭載し、シンクロスピードは1/25秒だった。 1/25秒でシャッター全開と仮定して、大雑把に換算すると1/1000秒ではスリット幅が1.5mmという事になる。 1/1600秒から1/1000秒へスペックダウンしたとはいえ、シャッター幕の走行開始時と走行完了時とで1.5mmのスリット幅(1/1600秒なら0.94mm)を維持するのは随分と難しいだろう。 更にシャッター幕走行速度は走行開始時と走行完了時とで変化するので、スリット幅も相応に変化させなければならず、露出ムラを排除するのは至難の業だったと思う。 なお、1600Fの総生産数は2859台で、1000F の総生産数は10,395台だったらしい。
 ハッセルのボディーとマガジンは製造番号の先頭アルファベット2桁から製造年が判り、アルファベットを次の対応表で数字に変換すればよい。 僕の1000Fは製造番号先頭2文字が「CT」なので「56」と変換でき、500C 発売前年の 1956年製造だという事が判る。
アルファベット文字VHPICTURES
対応変換数字1234567890

巻き上げノブ周り

巻き上げノブ周り
巻き上げノブ周り
 フィルム巻き上げ・シャッターチャージはノブを時計回りに1回転させて行う。 また、巻き上げノブがシャッターダイヤルを兼ねていて、ノブを外側に引っ張りながら時計回りに回せばシャッター速度を選択できる。 シャッター速度は1/1000s・1/500s・1/250s・1/100s・1/50s・1/25s・1/10s・1/5s・1/2s・1s・Bulbが選択できる。 反時計回りには回せないので、所望のシャッター速度を越えちゃったらもう一周回して設定し直す必要がある。 本当かどうか判らないけど、シャッター速度を変更する場合はシャッターをチャージした状態で行わないとカメラを壊す恐れがある...かも知れない。

レリーズボタン

レリーズボタン周り(ソケット蓋とソケットアダプタとケーブルレリーズ)
レリーズボタン周り
 レリーズボタンにはケーブルレリーズ用のソケットが無く、カメラ右サイドに特殊規格のソケットが設けられている。 ソケットが特殊規格なので、専用ケーブルレリーズを紛失しない様に気をつけよう。 一応、一般規格のケーブルレリーズを装着出来る様にする変換アダプタもある。 なお、500C になってからはレリーズボタンにソケット穴が設けられたけど、ケーブルレリーズがレンズと干渉しがちで使い難い。 この 1000F 方式のままで一般規格のソケットにして貰った方が良かったと思うなぁ。

シンクロ接点

シンクロ接点とアダプター類
シンクロ接点
 カメラ左サイドに専用のシンクロ接点レールがあり、別売で一般的なシンクロターミナルターミナル変換ソケットが用意されていた。 このレールはスポーツファインダーの取り付け用にもなっていて、シンクロターミナルターミナル付きのスポーツファインダーが用意されていた。 シンクロ速度は1/25秒と遅いので、外光に対してフラッシュ光量比が高くないとブレ写真の原因になってしまう。 ちなみに、僕はシンクロターミナルターミナルを使った記憶が無い。

交換式ファインダー

交換式ファインダー
交換式ファインダー
 ファインダーは交換式で標準装備のウェストレベルファインダーの他に煙突型ファインダーなどが用意されていて、500C の時代に登場したプリズムファインダーなども装着可能だ。 ファインダーを交換するにはフィルムマガジンを外してから、後ろ側へ引き抜いて交換する。
 なお、1000F のフォーカシングスクリーンがかなり黄色っぽいけど、経年劣化で黄色くなったと想像している。 勿論、撮影写真が黄色く写る訳じゃないけど、ファインダーを覗いていると違和感がありすぎる。

交換式フィルムマガジン

交換式フィルムマガジン
交換式フィルムマガジン
 僕の1000Fに装着されているフィルムマガジンは「12」フィルムマガジンで、120フィルムで12駒の撮影ができる。 作法が500シリーズ用の「A12」とはちょっと違うので、「A12」しか知らない人は戸惑うかも知れない。
 中枠へのフィルムのセット方法は「A12」と同じだけど、スタートマーク合わせは必要ない。 フィルムをセットした中枠を外枠に装填・ロックしたら、マガジン背面の丸蓋を開けて覗き穴にフィルム裏紙の❝1❞が出るまでマガジンの巻き上げキーを時計方向にグルグル回して巻き上げる。 覗き穴に❝1❞が出たら丸蓋を閉じて、巻き上げキーを反時計方向に回してフィルムカウンターを❝1❞にリセットすれば準備完了である。 なお、フィルムカウンターは中枠を取り出しても自動リセットされないので、忘れずにカウンターを❝1❞にリセットしよう。 また、カメラがチャージされた状態でマガジンを装着しないと1駒無駄にしてしまう。
 ちなみに、この「12」フィルムマガジンは 1600F / 1000F 専用で、500C には利用できない。 逆に 500C 用の「A12」フィルムマガジンは 1000F でも使用可能だ...試した事はないけど。

ミラーボックス

ミラーボックス
ミラーボックス
 1000F のミラーは長めになっていて、しゃくり上げ方式を採用する事でレンズ後端と干渉しないでミラーアップする事ができる。 これにより、自社では供給していない(サードパーティーが供給した)焦点距離350mmとか500mmでもファインダー画面上側がケラレにくい様に配慮されている。 後の 500C ではしゃくり上げ方式を採用しなかったので、150mm程度の望遠レンズでも画面上方がケラレて暗くなる 。 なお、ミラーボックス内を覗くと臓物がチョット見えていたりする。

撮影の作法

HASSELBLAD 1000F 説明書
HASSELBLAD 1000F 説明書
 1600F / 1000F のカメラはクイックリターンミラーじゃないので、レリーズするとミラーが上がりっ放しでファインダーが暗転したままとなる。 巻き上げ操作によりフィルム巻き上げとシャッターチャージと同時にミラーが降りてきてファインダー像が復帰する仕様だった。
 レンズも自動絞り方式ではなく、プリセット絞り方式である。 プリセット絞りは絞り環を操作して絞り値をセットしただけでは開放絞りのままで、撮影直前にレンズの絞り込みリングを回せば所望の絞り値まで絞り込まれる方式で、撮影後は絞り込みリングを戻して絞りを開放に戻す必要がある。 慣れないと絞り込むのを忘れて『しまったぁ!』という事もあるし、撮影後に絞り込みレバーを戻し忘れて『なんだか暗いなぁ』という思いをする。 その点、ハッセルコピー機の「Kiev 88」なら自動絞り機構を搭載(ただし、クイックリターンミラーではない)しているので、コピー機を越えた後継機といえるカメラに進化している。

交換レンズ

KALIGAR 52mm F3.5(装着)と Carl Zeiss Tessar 80mm F2.8(右)
交換レンズ
 1600F / 1000F のマウントはスクリュー式だけど、荒いピッチなので脱着は90°回すだけだし、ロックも付いているのでバヨネット式マウントの感覚である。 標準レンズは Carl Zeiss Tessar 80mm F2.8 だったけど、1600F 発売時は Kodak Ektar 80mm F2.8 であった。 中古市場では Kodak Ektar 80mm F2.8 が異常な人気で高額で取引されている。
手放した Carl Zeiss Sonnar 250mm F5.6
Carl Zeiss Sonnar 250mm F5.6
 結局、ハッセルから発売された交換レンズは Ektar 80mm F2.8 / Ektar 135mm F3.5 / Distagon 60mm F5.6 / Tessar 80mm F2.8 / Sonnar 135mm F3.5 / Sonnar 250mm F5.6 / Sonnar 250mm F4 だけだった様だ。 望遠レンズが楽しめる中版一眼レフカメラなので Carl Zeiss Sonnar 250mm F5.6 を持っていたけど『もう1000Fは使わないなぁ』という事で随分前に手放してしまった。

 ちなみに、初期のテッサーは Zeiss Opton Tessar 80mm F2.8 という呼称だった。 大戦後は東西ドイツに分かれたので、東ドイツの「Carl Zeiss Jena」に対して西ドイツの「Carl Zeiss Oberkochen」は❝Carl Zeiss Jena❞を使えないので、自社を❝OPTON❞と呼んでいたらしい。 なので、戦後の過渡期の製品には「Zeiss-Opton」という呼称が存在する。 そのうち、Jena 抜きの「Carl Zeiss」が呼称として定着したようだ。

Carl Zeiss Tessar 80mm F2.8

Carl Zeiss Tessar 80mm F2.8 絞り:F4 Kodak E100G
Carl Zeiss Tessar 80mm F2.8 絞り:F4 Kodak E100G
 3群4枚構成のテッサーらしい描写特性で、絞り開放の中心はまずまずだけど周辺画質には不満がある。 絞れば中心は非常にシャープになるけど周辺画質の向上はちょっと鈍い。 ポートレート撮影の様に中央付近に主被写体を配置する場合はイイ感じで写ってくれるけど、遠景撮影では絞った方が良い。 また、0.5mまで寄れるレンズなので近接撮影にも強いし、接写リングと組み合わせても充分楽しめるレンズだ。 フードはこのレンズに良く似合う Tiffen Series 7 角型フードを愛用していた。

 ちなみに、1600F時代の標準レンズ Ektar 80mm F2.8 は3群5枚構成のヘリアー型で『絞り開放から3段絞っても繊細なフレアーが出て、女性の肌などに独特な表現力がある』と良いんだか悪いんだか判らない評価だった。 巷での評判が異常に高い Kodak Ektar 80mm F2.8 は死ぬまでに試してみたいレンズの1本ではある。

KALIGAR H.C. 52mm F3.5

KALIGAR H.C. 52mm F3.5 絞り:F5.6 Kodak E100G
KALIGAR H.C. 52mm F3.5 絞り:F5.6 Kodak E100G
 これは藤田光学工業製の「FUJITA 66」用レンズで、1000F変換アダプタを介して装着して使っていた。 レンズ前枠は大柄なΦ72mm径なのだけど前玉以降の鏡筒が細身で中版レンズっぽくないのは、FUJITA 66 のマウント径が小径なM44であるためだ。 このレンズを初めて見た時は『ちゃんと6x6cm版をカバーするのか?』と不安になったのを覚えている。 なお、本当かどうか判らないけど、中版レンズで初めてレトロフォーカス型を採用したレンズらしい。
 周辺光量落ちがそれなりにあるけど想像以上に良く写るレンズで、この時代の中版一眼レフ用広角レンズとして侮れない描写性能だと思う。 最短撮影距離が約0.6mまでなので散歩に使うと『もっと寄りたい!』と思う事が多々あったけど、純正広角レンズは Distagon 60mm F5.6 だけだった(多分)ので、藤田さんにお世話になった人も結構いたんじゃないかなぁ。

あとがき

フィルターやエクステンションチューブ等のアクセサリ
フィルター等のアクセサリ
 1970年代以降のハッセル製品は張革が縮むし糊がベタベタになるのが困りものだけど、それ以前に発売された 1000F の張革は殆ど縮まないし糊がべたつく事も無い。 何故このような品質を後のハッセル製品で維持してくれなかったのか非常に残念だ。 製品を製造していると、接着剤やゴム系部材に含まれる化学物質の関係で調達不能になる事がある。 安易に「代替品」を採用すると経年劣化などが著しく劣っている場合があるので、充分な検証が必要だ。 品質を維持できる最良の「代替品」を探すべきだし、場合によっては化学メーカーに新部材開発を依頼する事も選択すべきだ。

 体が自動絞りに慣れてしまったので、撮影時に絞り込むのを「ついつい」忘れてしまう。 あるいは、絞り込んだままなのに忘れて露出を測って開放のつもりで撮影してしまうミスが多々ある。 気温38度のせいでボ~っとしているのかも知れないが、頭がボケ始めているのだろう...悲しい。

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