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Konica AUTOREFLEX T4 + HEXANON AR 50mm F1.7 |
コニカは明治6年創業の「小西屋六兵衛店」が始まりで、写真・印刷関連会社であった。 早くからカメラの製造も行っていて、技術的にも話題的にも優れたカメラを送り出していた。 コニカのレンズ交換式一眼レフは1960年に発売した高級機「KONICA F」が最初で、世界初の最高速1/2000秒縦走りシャッター搭載・外測式連動露出計搭載・交換式ファインダー搭載で、当時の高級機である NIKON F より高価なカメラだった。
1965年にマウントを自動露出対応のARマウント(正式名称はバヨネット式コニカマウント2型)に変更して外測露出計式シャッター速度優先AEカメラ KONICA AUTOREX を発売した。 AUTOREX はライカ判とハーフ判とをフィルム装填後でも切換え可能なギミックを搭載していた。
1968年にTTL開放測光に対応する開放F値伝達ピンを追加してTTL開放測光になった KONICA FTA(輸出機名 AUTOREFLEX T)を発売し、1973年の
KONICA AUTOREFLEX T3 へと続き HEXANON AR レンズ群も充実していった。
1979年には世界初のワインダー内蔵一眼レフ Konica FS-1 を発売するなど最後までARマウントを継承し続けた。 ちなみに、開放F値伝達ピンが無い初期(1965~1968年製造?)のコニカマウント2型レンズに開放F値伝達ピンを追加する純正改造サービスがあった様だ。
Konica AUTOREFLEX T4
1977年発売の Konica AUTOREFLEX T4 は1976年に発売された「愛情コニカ」Acom-1 (輸出名称 AUTOREFLEX TC)の上位機種で、Acom-1 に低速シャッター・多重露光機能・プレビュー機能・ワインダー装着対応などが施された輸出専用機である。 AUTOREFLEX T4 という名称が示す通り、正統な AUTOREFLEX T3 後継機だけど日本で発売しなかった理由は不明だ。 ところが米国市場では1977年に T4 を発売した3年後の1980年になってから TC(日本名称 Acom-1)を下位機種として発売しているので、米国市場では AUTOREFLEX T4 が主力機だった様だ。 ちなみに、T3 / New T3 ではカメラ右肩の機種ロゴは「AUTOREFLEX T3」だったのが、このカメラの機種ロゴは「AUTOREFLEX T4」となり「4」も赤色大文字に変更されている。
先代までのシャッターユニットはコパルスクエアS型で、このユニットを採用したカメラは他社機も含めて大柄なカメラだった。 AUTOREFLEX T4 が小型化を可能にしたシャッターユニットは縦走りコパル製CCS-M型で、メカ制御のシャッター速度はB・1~1/1000秒(Acom-1はB・1/8~1/1000秒)が使用でき、シンクロ速度が1/125秒という機能的仕様は先代と同じである。 自動露出方式はシャッター速度優先AEで、絞り環をAEに合わせれば明るさに応じて絞りが自動調整されのも先代と同じだ。
AUTOREFLEX New T3 と AUTOREFLEX T4 の大きさ・重さ比較 |
機種 | 横幅 | 高さ | 厚み | 重量 |
AUTOREFLEX New T3 | 150mm | 96mm | 45mm | 740g |
AUTOREFLEX T4 | 136mm | 91mm | 46mm | 530g |
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KONICA T3 と Konica T4 |
ボディーが先代より小型・軽量化されたけどトップカバーがプラスチック化されて少しチープな触感だ。 全体的な容姿は悪くはないのだけれど、ペンタ部正面のロゴがこれまでの「
KONICA」ロゴからが
1サイズ小さな「Konica」ロゴになったことで妙な違和感がある。 1976年発売の Acom-1 は「
KONICA」ロゴだったけど、1978年発売の Acom-1 AutoDate は大き目な「
Konica」ロゴになっているので、1977年製品から「
Konica」ロゴへ変更されたらしいが、小さい「
Konica」ロゴは AUTOREFLEX T4 だけの様だ...デザイン的に失敗だと気付いたのだろう。 なお、金属製だった Acom-1 の底板が、Acom-1 AutoDate では底板もプラ製に変更されたけど、AUTOREFLEX T4 の底板はワインダー脱着の兼ね合いもあるのか金属製のままだった。 ちなみに、レンズの銘板は最後まで「
KONICA」が継続使用された。
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縮んでカッコ悪い張革 |
それから、貼革の素材を厚めでスポンジ的な材質に変更したため、殆どの個体は経年劣化により貼革が縮んでしまっている。 僕の AUTOREFLEX T4 も大人が子供のTシャツを着ているみたいでカッコ悪いし縮んだ部分の糊に埃が付着して汚いので、サードパーティー製の黒色貼革を米国から取り寄せて貼り換えてある。 貼り換えた張革の感触はオリジナルと異なるけど、個人的に悪くない感触だと思っている。
測光方式など
基本的な測光方式は KONICA FTA から続く測光システムで、T3 / New T3 では説明書に理解し難い測光システムの説明があったけれど、Acom-1以降の説明書では省かれて「可変測光方式」と記載があるだけで、測光範囲を明示する絵図などは記載されていない。
また、シャッター速度やフィルム感度などに関するパラメーターは、従来のシャッターダイヤルの回転をワイヤーとプーリーを介して露出メーターを物理的に回転させる方式から、シャッターダイヤルの回転を沢山の接点に接続された固定抵抗を選択する方式に改められている。 レリーズボタン半押しでAEロックされるメーター指針挟み込み式絞り値自動制御も従来通りで、基本的な電気回路も従来通りシンプルなもので旧態然としている。 なお、開放F値補正方式は従来通りの様で、赤い低輝度連動範囲指標と共にメーターを物理的に回転させる補正方式になっている。
ファインダー表示
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ファインダー表示 |
ファインダー表示は T3 や New T3 とほぼ同じだけど、シャッター速度表示が削除されて、New T3 には装備されていたアイピースシャッターも削除されている。 また、セットレンズに合わせて絞り指標にF1.7表記が追加され、F1.4は●(ドット)だけの表記になっている。 絞り指標には装着レンズの開放F値に応じて変化する赤い低輝度警告マークは健在で、絞りの連動範囲が判る様になっているのは同じだ。 なお、バッテリーチェックが独立したのでバッテリーチェック用の定点マークは無くなり、T3 / New T3 では絞り指標の上部にあったマニュアル露出を示す「M」マークは無くなり、画面左上方に赤いベロが出て来るようになった。 赤いベロはチョットうっとおしいけど、この方が確実にマニュアル露出であることを認識できるのは確かだ。
ファインダー下部にシャッター速度が表示されなくなったのは非常に残念だ。 T3 / New T3 ではシャッター速度ダイヤルの回転をペンタプリズム下部を通るワイヤーで露出メーター部に伝達していたので、シャッター速度を表示する事が可能だった。 T4 では電気的な伝達に変わったため、物理的にシャッター速度を表示する機能はコスト的・スペース的に無理だったのだろう。
なお、ファインダー中央にスプリットマイクロプリズムが装備され、以前の様にカメラ購入時にマイクロプリズムかスプリットプリズムかを選ぶことは出来ない。
電源スイッチ
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巻き上げレバー兼スイッチ |
AUTOREFLEX T3 / New T3 ではレリーズボタン基部にあったレリーズロック兼電源スイッチが無くなり、巻き上げレバーを引き出すことで測光用電源スイッチがオンになり、背面のOFFボタンを押せば巻き上げレバーが格納され、測光用電源スイッチがオフになりレリーズボタンもロックされる。 従って、撮影する時は必ず巻き上げレバーを引き出した状態にする必要がある。 また、
巻き上げレバーはOFFボタンでしか格納できないので、巻き上げレバーを無理矢理格納位置に戻そうとするとカメラを壊してしまうので注意が必要だ...何だかなぁ...
なお、OFFボタンは多重露光ボタンも兼ねていて、OFFボタンを押しながら巻き上げればシャッターのみがチャージされる。 ただし、OFFボタンを押しながら巻き上げているので、巻き上げ完了時に巻き上げレバーを離すと格納位置に戻ってしまい、レリーズロックになってしまう。 OFF機能(とレリーズロック機能)は格納位置で充分なので、ボタンによるOFF機能は廃止して多重露光機能だけにして貰いたかった。
AUTO WINDER AR
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AUTO WINDER AR を装着 |
2年後の1979年に一眼レフで世界初となるワインダー内蔵の Konica FS-1 が発売されるのだけど、既に競合他社がワインダーを装着して「
連写」を謳う様になっていたので、コニカもワインダーの投入が急務だった。 AUTOREFLEX T4 用のワインダーは CANON AE-1 や CONTAX RTS や YASHICA FR のワインダーと同じでグリップもレリーズボタンも無い自動巻き上げ機能に徹した製品で、1/60秒より高速シャッターなら1.8駒/秒の連写が可能だ。
通常のストラップ環とは別にカメラ右側上方とワインダー右側面に長穴ストラップ環があり、ワインダー専用のリストストラップを装着できる。 ただし、グリップが無いワインダーなのでレリーズはカメラのシャッターボタンを利用するため、人差し指だけはリストストラップに通さないでレリーズボタンに載せる事になり、「リストストラップ」と言うより「フィンガーストラップ」という感じになるのでホールド感・操作感が非常に悪い。 また、ワインダー上方外周の貼革も縮んしまったので、長手方向に少し伸ばして貼り直してある。
なお、ワインダーの底面が広いのでカメラを安定して置くことができるけど、単三乾電池を6本も装填するので T4 の小型・軽量がスポイルされてしまう。 モータードライブを装着したプロ用カメラみたいな容姿はカッコ良いけど、やはりペンタ部正面の小さな「Konica」ロゴはヘナチョコみたいで違和感がある。
露出計電池
AUTOREFLEX T3 で使っていた1.35VのMR44(H-C)型水銀電池からMR9(H-D)型水銀電池に変更されたけど『Other battery of identical size may fit but will not give correct exposures』とカメラ底面に注意書きが貼ってあるが、現代では水銀電池が絶滅しているので問題がある。 MRB625空気電池やLR9マンガン電池を使ってASA感度で補正する手もあるけど、測光輝度に応じた振れ具合は補正出来ないと思う。 一応、手元に「関東カメサ」の1.55Vの酸化銀電池SR43が使える電圧降下型アダプターを複数個持っているので、ほぼ正確な測光値で利用する事は可能だ。
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バッテリーチェック |
AUTOREFLEX T4 には独立したバッテリーチェックボタンが搭載され、赤いLEDが点灯すれば電池電圧が低下していない事が判る様になったけど、電圧が高すぎる事は判らない。 なお、電池室の蓋がプラスチック製のチープな蓋になってしまったのは残念だけど、凸凹成型されているので指の腹で回すことが出来るのは便利だ。 ただし、無理な力を加えれば破損しそうなので注意が必要だ。
標準レンズ HEXANON AR 50mm F1.7
ARマウント(バヨネット式コニカマウント2型)の標準レンズは様々な種類・変遷があり、焦点距離は 50mm / 52mm / 57mm があり開放F値は F1.2 / F1.4 / F1.7 / F1.8 の標準レンズが存在(他にもあるかも)する。
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レンズ構成 |
このカメラに装着している標準レンズは HEXANON AR 50mm F1.7 で、50/1.7としては後期タイプの鏡筒である。 レンズ構成は5群6枚構成の拡張ダブルガウス型で、ガウス型の前群凸凹貼り合わせレンズを分離した構成である。 この時代のF1.8クラスの標準レンズとしては一般的な構成なので、描写性能は悪くないが、前期型では0.45mだった最短撮影距離が後期型では0.55mに遠ざかってしまったのは残念だ。 銘板のプラ化も含めてコストダウンによる仕様変更なのだろう。
なお、このレンズは後期型なので絞りクリック構造が変更され、1段ステップの少しマイルドなクリック感になっているが、何気なく開放側から最小絞り側に回してゆくと意図せずAEに入っちゃう仕様はそのままだ。
実写サンプル画像
絞り:F1.7 |
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
絞り:F1.7 |
絞り:F4 |
絞り:F1.7 |
絞り:F1.7 |
絞り:F1.7 |
絞り:F1.7 |
絞り:F1.7 |
絞り:F1.7 |
絞り:F8 |
絞り:F1.7 |
絞り:F1.7 |
絞り:F2.8 |
絞り:F1.7 |
絞り:F1.7 |
絞り:F2.8 |
遠景の絞り開放では全体的にフレア掛かっていてベール越しに撮影した様なコントラストが低い描写だけど中央の解像感はある。 また、若干アンダーの像面湾曲があるので画面隅ほど描写が落ちる。 F2.8では画面中央のフレアが減ってコントラストがグッと向上する。 F4だと画面周辺で充分な描写になり、F5.6だと画面隅も含めて全域が充分な描写になる。
絞り開放で背景が大きくボケる場合は問題ないけど、デフォーカスが小さなボケの場合はリングボケとコマ収差が混ざって汚いボケになるので夜の街では使いたくない。 ただし、F2.8に絞ればデフォーカスが小さなボケでも素直なボケになるし、フレアがも減るので使い易くなる。
なお、HEXANON AR 50mm F1.7 に限った事ではないけど、フレアが多いレンズでは
ソフトレンズの様にピント合わせが難しく、テキトーにピントを合わせるとフレア掛かっていて解像も悪いピンボケ写真になるので注意が必要だ。 コントラストが最大になる様にピントを合わせるのではなく、解像感が最大となる様にピントを合わせればフレアのヴェールを纏った様な描写になってくれる。
ヘキサノンが逆光に弱いのは伝統なので、内面に静電植毛された純正35mm用角型フードを装着すれば外光フレアの影響を効果的に排除できる。 フード無しの逆光条件では素敵な円形フレアやゴーストが発生するので70年代のオールドレンズ描写を楽しめるし、少し絞ればシャープな描写も楽しめる。 このレンズはフツーに良く写るレンズだけど HEXANON AR 50mm F1.4 の方が僕好みの描写だなぁ。
あとがき
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サクラカラーフィルム |
1873年に創業した小西屋六兵衛店から始まって、総合写真関連メーカーとなった老舗の小西六写真工業株式会社は、1960年代までは写真用フィルムである「サクラカラー」の販売も好調で「フジカラー」を凌いでいた。 しかし、1970年代からは富士フイルムの猛攻によりフィルムシェアを落として行った。 また、写真機では セミ版スプリングカメラ Pearl シリーズや コンパクトカメラ KONICA C35 シリーズなどの人気製品を販売していたが、一眼レフ市場では
Canon AE-1 などには太刀打ちできないまま1985年発売の Konica TC-X を最後に一眼レフ市場から撤退し、「現場監督」などのコンパクトカメラ事業のみになった。 1999年の世紀末に LEICA M マウント互換の名機 HEXAR RF を発売したがデジタル化の波には勝てなかった。 2003年にはミノルタ株式会社により完全子会社化され「コニカミノルタホールディングス株式会社」となってしまったが、負け組同士の合併感は否めない。
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フィルムブランドのシール |
更に、2006年にフィルム・感材を含めたDPE事業を大日本印刷に譲渡してこの事業から撤退し、同年にミノルタ系デジタル一眼レフカメラ関連事業をソニー株式会社へ事業譲渡してフィルム・印画紙・カメラなどの写真関連事業は幕を閉じた。 残ったコニカミノルタには光学設計部門は残されていた様で、光学設計を受託して優秀なレンズを設計・提供していたが、2024年現在もコニカミノルタのリストラは続いている様だ。 カメラの背蓋裏に貼られてある「Sakura COLOR FILM」のブランドシールが哀愁をそそる。 このブランドシールは専用ワインダーの内側にも貼ってある。
コニカブランド最後の一眼レフカメラは1985年に発売された異常にチープで手巻きの Konica TC-X だったけど、ちゃんとしたコニカ最後の一眼レフカメラは1983年発売の Konica FT-1 だったと思っている。
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