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KONICA AUTOREFLEX T3(シルバー)と New T3(ブラック) |
コニカは明治6年創業の「小西屋六兵衛店」が始まりで、写真・印刷関連会社であった。 早くからカメラの製造も行っていて、技術的にも話題的にも優れたカメラを送り出していた。 コニカのレンズ交換式一眼レフは1960年に発売した高級機「KONICA F」が最初で、世界初の最高速1/2000秒縦走りシャッター搭載・外測式連動露出計搭載・交換式ファインダー搭載で、当時の高級機である NIKON F より高価なカメラだった。
1965年にマウントを自動露出対応のARマウント(正式名称はバヨネット式コニカマウントⅡ型で、先代と互換性が無い)に変更して外測露出計式シャッター速度優先AEカメラ KONICA AUTOREX を発売し、1968年にはTTL開放測光に対応する開放F値伝達ピンを追加してTTL開放測光になった KONICA FTA を発売した。
ちなみに、開放F値伝達ピンが無い初期(1965~1968年製造?)のコニカマウントⅡ型レンズに開放F値伝達ピンを追加する純正改造サービスがあった様だ。
KONICA AUTOREFLEX T3 / New T3
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ペンタ部の違い |
AUTOREFLEX T3 は1968年に発売された FTA の進化版で、New T3 は T3 のマイナーチェンジ機である。 New T3 になって「とんがりペンタ」の頂上が広がって現代的で優しい容姿になったと思う。 また、New T3 ではホットシューが括り付けになり、アイピースシャッターも搭載された。
シャッターは縦走りコパルスクエアSが継続搭載され、B・1~1/1000秒が使用できてシンクロ速度が1/125秒なのは FTA から続くシリーズ共通だ。 自動露出方式はシャッター速度優先AEで、レンズの絞り環をAE(もしくはEE)に合わせれば明るさに応じて絞りが自動調整されるのも同じである。
多重露出機能も搭載されていて、多重露光(M.E.)レバーを引きながら巻き上げるとフィルムは給送されないでシャッターチャージのみが行われる。 もちろん、チャージマークは赤●から緑●に変化する。
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T-3刻印の謎 |
「AUTOREFLEX T3」の説明書などには「AUTOREFLEX-T3(英語版)」とか「コニカT3(日本語版)」と記述されているけど、カメラの巻き戻しクランク部にはハイフンが付いた「T-3」という刻印がある。 しかしながら、カメラ正面の製品名や説明書などには「T-3」という表現はどこにも無いので、ここでは「AUTOREFLEX T3」あるいは「T3」と記述させてもらった。 メーカー内でもハイフンの使い方が統一されていなかったのだろう。 また、「AUTOREFLEX New T3」の説明書やカメラボディには「New」の表記は無いけど、カタログには「コニカニューT3」と記載されているので、新型と判る様に「AUTOREFLEX New T3」あるいは「New T3」と記述させてもらった。
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New T3 アクセサリカタログ |
ARマウントのフランジバックは40.5mmで、NIKON Fマウントの46.5mmや M42マウントの45.46mmなどと比べて極端に短く、クイックリターンミラーはしゃくり上げ方式にする事で大型のミラーが搭載可能になっている。 また、フランジバックの短さを活かして、エクザクタマウント や M42マウント や ニコンFマウント を装着できる、純正のマウントアダプターが提供されていた。
New T3 はコニカの大衆向け一眼レフとして完成度・高級感とも最高のカメラだったと思うけど、1972年に発売された Nikomat EL や1973年に発売された PENTAX ESⅡ /
Canon EF や1974年に発売された Minolta XE / FUJICA ST901 などの強力なライバル機が存在したので埋没気味だったし、コパルスクエアSシャッターの建築制限から大柄なままのカメラだった。 New T3 の次世代機である AUTOREFLEX TC(日本名 Acom-1)からはコパルスクエアFCシャッターを採用して小型になり、外装をプラスチックにして軽量化されたけど感触が安っぽくなったのは残念だ。
測光方式など
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測光説明囲 |
ファインダーアイピースの両脇に測光用CdSセンサーを配置しているのは他社機と同じだけど、センサーにフード的な部材を設けてピント板を睨んでいる。 センサーフードによりピント板の拡散具合で測光範囲が変わる様になっていて、装着するレンズの焦点距離によって変化する。 このカメラにはレンズの焦点距離をカメラに伝達する手段は無いけど、一般的に広角レンズは射出瞳距離が短く、望遠レンズは射出瞳距離が長い傾向にある事からピント板で拡散される光の方向が変わるので、広角レンズはスポット測光的で標準レンズは中央重点測光的で望遠レンズは平均測光的になる様にセンサーを配置している様だ。 他社の一般的な測光方式でも装着レンズで測光範囲具合が多少は変動するけど、このカメラは積極的に変化させていると思われる。 初心者向けに露出が失敗しない仕様を考えたのだろうけど、装着するレンズで測光範囲が変わるのは僕にとっては余計なお世話だ。 この測光システムは1968年発売の KONICA FTA から変わらないが、ピント板での光拡散具合はレンズの開放F値や周辺光量落ちでも変動するので、説明書通りの測光範囲じゃないと感じるし、説明書に記載されている理解し難い説明はあまり当てにならないと思う。
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New T3 の機構図 |
適正露出導出に関わるシャッター速度やフィルム感度や開放F値などのパラメーターはワイヤーとプーリーを介してメーター自体をメカ的に回転させる事で対応していて、測光用の電気回路は異常にシンプルな回路構成になっている。 レリーズボタンを押し込むとメーター指針がロックされるのでAEロック的に使え、メーター指針挟み込み式絞り値自動制御の欠点であった深~いレリーズストロークは先代の FTA に比べてかなり改善されている。 なお、この時代のカメラなので単独の露出補正機能は搭載されていない。
ファインダー表示
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ファインダー表示 |
ファインダー倍率は0.78倍で視野率は92%なので一般的な仕様だけど、実際の視野率はもっと低い気がする。 ピント板中央にマイクロダイヤプリズム(あるいはスプリットイメージ)距離計が備わっていて、フレネルは無いのでスッキリとした視野が見渡せる。 このカメラの良いところはファインダー内に絞りとシャッター速度の両方が表示される事だ。 AE撮影であればカメラをでんぐり返して絞り値を確認する必要は無いし、シャッター速度も視野外下部で確認できる。 視野外右に絞り指標があり、AE撮影の場合はメーター指針が示す絞り値に自動制御される。 絞り指標には装着レンズの開放F値に応じた開放側連動範囲を示す赤マークが変化して表示される様になっている。 絞り環をAE(もしくはEE)以外に設定すると絞り指標上部に隠されていた
Mマークが現れてAE露出モードではない事が判る。
この様に必要な情報がほぼ全て表示されるので、撮影時にファインダーから眼を離す必要が無い。 残念なのはマニュアル露出では設定絞りを確認するためにカメラをでんぐり返す必要があるし、三脚に据えた時は絞り環を覗き難いので難儀する。 絞り値追針(設定絞り伝達手段が無いけど)が搭載されていれば最高だった。 なお、New T3 にはアイピースシャッターが搭載されたので、セルフタイマー撮影などのファインダー逆入光がある状況でも安心だ。
電源スイッチ
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電源スイッチ |
レリーズボタン基部にレリーズロックを兼ねた露出計の電源スイッチがあり、OFFにすればレリーズがロックされて露出計の電源も切れる。 スイッチをOFF位置より更に反時計回りに回し込むとバッテリーチェックのスイッチがオンとなり、指を放せば自動的にOFFの位置に戻る。 なお、巻き上げレバーでフィルムを巻き上げると、巻き上げが突き当たった時に自動的にON位置へ復帰するので、撮影しない時は忘れずにOFF位置にする必要がある。 分割巻き上げ機能がない AUTOREFLEX T3 / New T3 では巻き上げ操作をすると必ずONになってしまう。 ちなみに、巻き上げると「勝手に」ONになる仕組みなので、電流が流れっ放しになってバッテリーの液漏れ事故を起こし易い。
電池問題
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MR44(H-C)型水銀電池 |
現代では1.35VのMR44(H-C)型水銀電池は絶滅しているので、サイズが同じだけど1.5Vのアルカリマンガン電池LR44か1.55Vの酸化銀電池SR44を使わなければならない。 残念ながら AUTOREFLEX T3 の測光回路は電圧に依存する回路なので、高電圧の電池だとメーターが振れ過ぎて随分と露出アンダーの写真になってしまう。 対応策としては電圧降下機能がある高価な電池アダプター(酸化銀電池SR41用)を2個も使う必要があり、随分と出費を強いられる。
標準レンズ HEXANON AR 50mm F1.4
ARマウント(バヨネット式コニカマウントⅡ型)の標準レンズは様々な種類・変遷があり、焦点距離は 50mm / 52mm / 57mm があり開放F値は F1.2 / F1.4 / F1.7 / F1.8 の標準レンズが存在(他にもあるかも)する。
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レンズ構成 |
このカメラに装着している標準レンズは HEXANON AR 50mm F1.4 で、50/1.4としては中期タイプの鏡筒である。 レンズ構成は6群7枚構成の拡張ダブルガウス型で、前群の凸凹貼り合わせレンズを分離し、後群の最終凸レンズ2枚に高屈折率硝材(ピンクのレンズ)を用いる事で高性能化を図ったらしく、Zeiss の Rollei PLANAR 50/1.4 HFT などと同じ構成になっている。 先代の HEXANON AR 57mm F1.4 が5群6枚構成だったので、更にコストを掛けて HEXANON AR 57mm F1.2 と同じ構成の設計にしたのはコニカ・ヘキサノンとしての描写性能への拘りがあったのだろう。
ARレンズは最小絞りF16の外側にAEポジションがあり、AEポジションにするとロックが掛かる。 それはそれで良いのだけれど、何気なく開放側から最小絞りに回してゆくと意図せずAEに入っちゃうので、AEポジションにする時にもロックが欲しいと思う。 なお、このレンズの絞りクリックは0.5段ステップだけど、後期タイプのレンズは1段ステップになっているらしい。
ちなみに同じレンズ構成の HEXANON AR 57mm F1.2 は酸化トリウム硝材の使用により黄変が進んでいるけど、HEXANON AR 50mm F1.4 はランタン硝材による極弱い黄変(そもそも硝材が黄色い)なので紫外線照射で透明化はできない。
レンズの分解・清掃
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分解中の AR 50mm F1.4 |
HEXANON AR 50mm F1.4 にはレンズ面の汚れやキズやカビがあるので、分解・清掃しておいた。 分解は前玉側から実施するのが正解で、距離環ゴムリング下の穴からフィルター枠止めネジにアクセス(∞端で)してネジを抜けばフィルター枠を外すことが出来る。 この段階で銘板環を外す必要はないけど、組み直す場合は銘板環をゴムで締める必要がある。
フィルター枠を外したら銀色アルミ製のカニ目になっている内筒押さえ環を回して外せば光学ユニットを抜くことができる。 内筒押さえ環はアクセスし難いので、先に第1レンズ押さえ枠を外した方がアクセスし易い。 なお、光学ユニット挿抜する時は絞り設定をAEにしてから行えば楽に位置合わせができる。 絞りユニットごと外れた光学ユニットから前群・後群とも外して分解すればレンズの各面を清掃出来るが、押さえ環などには少しだけ接着剤が付いているので、エタノールを浸潤させてからゴムで回せば簡単に緩められる。 この個体はヘリコイドが少し重めだけど「僕の」許容範囲なので、グリス交換はしない事にした。
絞りクリックの調整
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絞りクリックの調整 |
6枚の絞り羽根は綺麗だし絞り駆動系にも問題は無いので絞りユニットは分解・清掃しなかったけど、0.5段ステップのクリックが
ガチガチに硬過ぎて僕の好みではない。 そこで、マウントを外してイモネジの下にある絞りクリック用コイルスプリングを2/3程度に切断し、イモネジの締め込み具合で好みのクリック感になる様に調整しておいた。 ちなみに、1段ステップのクリックが好みなら、スプリングを切断したうえで2か所あるコイルプリングの絞り駆動レバー側(写真では緑の矢印)のイモネジをクリックしない位置まで緩めておけば半段クリックが無効になるし、イモネジを締め込めば好みの硬さの半段クリックが復活する。 それから、絞り駆動レバーのポジションが悪く、F1.4開放にしても少しだけ羽根が出ている状態なので、駆動レバーにネジ止めされている白色樹脂の受け部品(写真では黄色の矢印)を調整して「正確な」絞り開放になる様にしておいた。
実写サンプル画像
絞り:F1.4 |
絞り:F2 |
絞り:F2.8 |
絞り:F1.4 |
絞り:F2.8 |
絞り:F1.4 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F2.8 |
遠景の絞り開放では全体的にフレア掛かっていてベール越しに撮影した様なコントラストが低い描写だけど、像面湾曲が良く補正されているので画面全体に解像感はある。 F2では画面中央のフレアがはなり少なくなりコントラストがグッと向上する。 F2.8だと画面周辺でもコントラストのあるメリハリが効いた描写になり、F4だと画面隅も含めて全域で充分な描写になる。 絞り開放では周辺光量落ちによるノスタルジックな雰囲気が出せるけど、F4~F5.6まで絞るとノスタルジックな効果は無くなる。 フレアによりコントラストが弱めの為か、色乗りはあっさりしている感じだ。 また、ランタン硝材の影響で黄色っぽい発色になるので太陽光などのWB固定では補正が必要だろう。
ボケ具合は輪帯球面収差がアンダーらしく絞り開放での後ボケはエッジが立ち気味だけど、前ボケはとても滑らかだ。 絞り開放で中庸なボケ具合にするとシャポン玉ボケ風な演出も可能だ。 接写の様に大きくボケるシーンでは後ボケも嫌味なく滑らかにボケてくれる。 ただ、円形絞りではないので開放以外では玉ボケが6角形ボケになってしまう。 なお、樽型のディストーションがあるけど目立つほどではない。
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角型フードを装着 |
ヘキサノンのコーティングはイマイチなので、逆光条件では外光フレアが発生してコントラストが低下するので「効果」として使いたくなければフードは必須だ。 また、日中(曇天でも)で空などの高輝度部が画面に入るシーンでF11以上に絞ると画面中央に淡い紫色のフレアが発生してしまう。 このフードは被せ式で金属ベルトで締め付ける方式なので、極薄い樹脂シートを挟んで金属同士が擦れない様に工夫・加工しておいた。
コニカ標準レンズ用のネジ込み式円型フードは効果が低そう(終末期のフードは40/50/85mm兼用)なので、内面に静電植毛された35mm用角型フードの方が効果的に外光をカットできそうだ。
開放ではオールドレンズらしいコマフレアが楽しめて、少し絞ればコントラストがある描写に豹変するレンズだ。 キレッキレという訳じゃないけど充分な解像感がある優秀なオールドレンズだと思う。 開放での後ボケがもっと滑らかだったら銘玉と判定したかも知れない。
あとがき
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サクラカラーフィルム |
1873年に創業した小西屋六兵衛店から始まって、総合写真関連メーカーとなった老舗の小西六写真工業株式会社は、1960年代までは写真用フィルムである「サクラカラー」の販売も好調で「フジカラー」を凌いでいた。 しかし、1970年代からは富士フイルムの猛攻によりフィルムシェアを落として行った。 また、写真機では セミ版スプリングカメラ Pearl シリーズや コンパクトカメラ KONICA C35 シリーズなどの人気製品を販売していたが、一眼レフ市場では
Canon AE-1 などには太刀打ちできないまま1985年発売の KONICA TC-X を最後に一眼レフ市場から撤退し、「現場監督」などのコンパクトカメラ事業のみになった。 1999年の世紀末に LEICA M マウント互換の名機 HEXAR RF を発売したがデジタル化の波には勝てなかった。 2003年にはミノルタ株式会社により完全子会社化され「コニカミノルタホールディングス株式会社」となってしまったが、負け組同士の合併感は否めない。
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フィルムブランドのシール |
更に、2006年にフィルム・感材を含めたDPE事業を大日本印刷に譲渡してこの事業から撤退し、同年にミノルタ系デジタル一眼レフカメラ関連事業をソニー株式会社へ事業譲渡してフィルム・印画紙・カメラなどの写真関連事業は幕を閉じた。 残ったコニカミノルタには光学設計部門は残されていた様で、光学設計を受託して優秀なレンズを設計・提供していたが、2024年現在もコニカミノルタのリストラは続いている様だ。 カメラの背蓋裏に貼られてある「Sakura COLOR FILM」のブランドシールが哀愁をそそる。
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