SONY ILCE-7M2 Modified Astro Camera

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このアンドロメダ銀河はEOSで撮影した写真
アンドロメダ銀河などは普通のデジタル一眼カメラでも意外と綺麗に写す事が出来るけど、赤く輝く水素の輝線スペクトルを含む散光星雲を鮮やかに写したい場合はカメラの改造が必要になる。 どんな改造かというと、カメラのセンサー直前に配置された赤外吸収フィルターを外すのだ。 もっとも、この様な改造をしなくても天体写真向けにフィルター特性を変更した専用機 EOS 20Da や EOS 60Da や Nikon D810a などが過去に発売されていた。

現在、僕の通常使用機材はソニー機だけど、天体写真機材はキヤノンのまま...というのは凄っく嫌なので、通常使用機材を SONY α9 の2台体制にしてから使う機会が殆ど無くなった SONY α7Ⅱ を天体写真用に改造してもらった。 オトナの事情や比較検討などは別として、キヤノンのデジタルカメラを使う事は無さそうだ。


透過波長域を改造した SONY α7Ⅱ

SONY α7Ⅱをアストロカメラに改造するのは、高感度特性が良いから...じゃなく、ただ単に余ったからなのだ。 とはいえ、改造に値するカメラなのかを確認しておく必要はある。

SONY α7Ⅱは天体写真撮影に向くのだろうか? SONY α7Ⅱにはボディー内手振れ防止機構が入っているので、センサーがガッチリ固定されていないため有利とは言えないし、SONY α7Ⅲなどの裏面照射方センサーの方が感度やノイズなどは絶対良いハズだ。 そこで、Photons to Photosでセンサーの素性をチェックしてみた。

Photographic Dynamic Range

ダイナミックレンジ 特性比較
天体写真は科学写真と同じ様に、暗部を持ち上げたり極端な補正を行うのでダイナミックレンジは広いほど助かる。 CANON EOS 20D、40D、60D と SONY α7Ⅱ とを比べると、発売年の差が現れていて SONY α7Ⅲ の優秀さが良く判る。 CANON EOS 20DのISO:800で使っていたDレンジは6.68段なので、SONY α7ⅡのISO:3200のと同等(6.78段)という結果だ。
裏面入射式センサーを搭載した最新機種には敵わないけど、僕の旧機材より遥かに良いので、SONY α7Ⅱでも使えそうだ。

Read Noise

読み出しノイズ 特性比較
SONY α7Ⅱもα7Ⅲも直線的なので、フォトトランジスタの読み出しノイズが支配的な様で、α7ⅢはISO:640以上で読み出しゲインを変えているらしい。 一方、古い EOS 20Dや EOS 40D や EOS 60D は曲線っぽいので、外付けA/Dコンバーターによる読み取りノイズが大きいと言えそうだ。 なお、EOS 20D が案外良さそうに見えるのはADが12ビットなので14ビットに対して2段分足せば納得できる値になる。

いやぁ、やっぱり SONY α7Ⅲ の高感度読み出しノイズは立派ですなぁ。
僕の改造した SONY α7Ⅱ を使う場合は慎重にノイズ除去処理を行う必要がありそうだ。


実際のダークノイズ

ダークノイズ比較 上:CANON EOS-1DX 下:SONY α7Ⅱ
α7Ⅱは露光中でも液晶点灯
SONY α7Ⅱの長時間露出によるダークノイズ特性を確認してみた。 設定条件は、長時間露出N/R:オフ、高感度N/R:標準、WB:太陽光、露出時間:4分、ISO:1600~12800 である。 レンズは装着しないでボディーキャップのみで、室内・常温・暗所での撮影です。

比較として、EOS-1DXも同じように撮影してみたのですが(EOSはタコですな)、圧倒的に SONY α7Ⅱ のダークノイズが少ない。 妙な補正がされている様に思われるけど、ダークノイズが少なければ星景写真などでは後処理が簡単になる。 後はホワイトスポットなどの固定パターンノイズを修正するプログラムを作っておけば何とかなるだろう。

そういえばビックリすることに、SONY α7Ⅱは長時間露光中に背面液晶を灯けている事だ。 無意味に電力を消費しているし、多少でもカメラ内温度が上昇するハズなので、なんともバカな仕様だと思う。


カメラの改造

赤外吸収・干渉フィルターをクリアガラスに交換した
カメラの改造は浅草にあるハヤタ・カメララボにお願いした。 この店の改造には以下の3通りの選択肢がある。

  • UV-IR改造(HKIR改造)
    センサーの直前に配置された赤外吸収フィルターを取り除き、ほぼ同じ厚さのUV-IRカットフィルターに置き換える。 一般的な天体写真向け改造で、水素の輝線スペクトル域まで透過波長を伸ばしてある。 このため、カメラのホワイトワランスが妙な発色になってしまうが、色調整フィルターを使えばオートホワイトバランスで撮影する事も可能になる。

  • ゴーストレス改造 (HKGL 改造)
    天体望遠鏡などにカメラを装着して撮影する場合、センサー面で反射した光がセンサーの直前に配置されたガラスで再反射してしまい、輝星の周囲にゴーストが発生するという問題があった。 ゴーストレス改造はセンサーの直前のフィルター類を全て取り覗いてしまうもので、天文台で使う様な専用機に近くなる。 ただし、センサーのカバーガラスが剥き出しなので、センサー面清掃などは慎重に行う必要がある。 また、入射する波長が紫外から赤外まだダダ漏れじょうたいなので、適切なバンドパスフィルターを装着しないと上手く撮影は出来ない。

  • クリア改造(HKC改造)
    UV-IR改造と似ているが、赤外吸収フィルターを置き換えるのはクリアフィルターである。 光路長などは非改造機やUV-IR改造機と同様で、受光特性はゴーストレス改造機並みである。 恐らく、ゴーストレス改造よりはゴーストの発生が多いのだろう。

僕のチョイスは天体写真以外に赤外線写真や紫外線写真などにも使えるクリア改造(HKC改造)を選んだ。 EOS 20Da とか EOS 60Da などは、望遠撮影で輝星周りに発生するゴーストが嫌だったので、ゴーストレス改造にしようか随分と悩んだ。 でも、ゴーストレス改造ではセンサー面がカバーガラスだけになるので、やっぱり不安だったのだ。

2017年1月19日の改造受付開始から2018年12月31日までのハヤタ・カメララボ改造実績によると、全558台のうちキヤノン機が308台と圧倒的に多く、なかでも標準的なUV-IR改造(HKIR改造)が一番多い様だ。 また、現在のところ改造依頼がとても多いそうで、僕が改造依頼に出してから手元に戻ってくるまで一か月を要した。 カメラメーカー製の中途半端な天体向けカメラじゃなく、ちゃんとした改造がマニア様に受け入れられているのが伺える。

ちなみに、ハヤタ・カメララボでは改造済みのカメラも販売しているので、興味のある人はチェックしてみると良いだろう。 なお、元に戻す「復元作業」も実施可能な様だ。


撮影波長の選択

Clip Filter を装着したマウント部
さて、僕の SONY α7Ⅱは「クリア改造」にしたので、CMOSセンサーに届く波長が紫外光から赤外光までダダ漏れ状態だ。 このままではレンズの色収差が盛大に出まくって使えたもんじゃないし、カラーバランスも整えられない。
そこで、カメラボディーのマウント内に装着する「Clip Filter」を撮影用途に応じて交換する事にした。
カメラボディー内に装着する変態 Clip Filter を選択したのは、超広角レンズなどにも対応できる大きなメリットがあるからだ。
取り寄せた Clip Filter は、UV-IR 615nm:一般撮影用Astro Multispectra:天体用光害カットAstro Nightscape:夜景用光害カットIR 590nm:赤外カラー撮影用 の4種類である。

STCから購入した4種類の光学フィルター特性
UV-IR 615nm
一般撮影用
Astro Multispectra
天体用光害カット
Astro Nightscape
夜景用光害カット
IR 590nm
赤外カラー撮影用
4種の STC Clip Filter
これらの「Clip Filter」は台湾のSTCが作っているフィルターで、レンズ先端にネジ込む通常タイプのフィルターもあるし、変態クリップフィルターまでも製品化している。

日本では以前から IDAS が光害カットフィルター LPS-P シリーズ などを販売していたけど、仕様や製法・蒸着窯などを日本から導入したのかも知れない。


STCのホームページにフィルターの着脱ビデオがあるので、見て頂きたい。 怖いと感じる方は Clip Filter に手を出さない方が良いだろう。




Clip Filter を装着したテスト写真

とりあえず、どんな発色特性になっているのかテスト撮影してみた。 天体写真・星景写真は現場へ出向かないと何ともいえないけど、おおよその雰囲気は判る。

次に気になるのは偽色やモアレだ。 ローパスフィルタも撤去されているハズなので、偽色やモアレが発生する確率が高いハズなので心配だ。

なお、Astro Nightscape Clip Filter と Astro Multispectrae Clip Filter の実写テスト実施はまた今度ね。

UV-IR 615nm Clip Filter

UV-IR615nmを使えば普通に写真が撮れる
UV-IR 615nm を装着したα7Ⅱa と ノーマルα9 との比較
α7ⅡaでAWB α9でAWB α7ⅡaでDayLight α9でDayLight
通常撮影が出来る様に UV-IR 615nm という Clip Filter を用意したので、装着して撮影してみた。 結果はご覧の様に案外とちゃんと撮影出来る。 光路長が伸びる方向なので、無限遠撮影は出来るし、大きな問題は無さそうだ。 SONY α9 と比較してみると、カラーバランスも大きく崩れていない。
ちなみに、このフィルターを装着すると水素輝線スペクトルに対する感度は大幅に少なくなり、散光星雲撮影には向かない。 あくまでも、一般撮影で大きな問題を無くするだけのものだ。 個人的にはUV-IR615nmでの色味は嫌いじゃないなぁ。

IR 590nm Clip Filter

赤外域主体の画像を特殊現像すれば不思議の国だ
このフィルターは、赤域および赤外域を透過するフィルターで、植物を疑似的な黄金色に表現出来るフィルターである。 いわゆる赤外線写真なら IR-Pass720nm とか IR-Pass850nm とかを使って白黒写真にするんだけど、違った雰囲気のカラー写真を撮ってみたかったのだ。 まだ最適な現像設定を見つけられていないけど、これで撮った写真は、異次元空間とか異世界空間に迷い込んだ感じの写真になる。

ホワイトバランスを太陽光にセットして、紫外域から赤外域までダダ漏れ状態のα7Ⅱaで撮影した場合と、UV-IR615nmフィルターを装着した場合と、IR590nmフィルターを装着した場合での写真を比べてみた。 α7Ⅱaそのままで普通の写真は撮れないのが良くわかる。 一方、IR590nmを装着して特殊現像した写真は緑の葉っぱが金色になって面白い表現が出来る。
素通しα7Ⅱaと UV-IR 615nm装着と IR590nm装着と 特殊現像との比較
Aα7Ⅱaそのまま α7Ⅱa+UV-IR615nm α7Ⅱa+IR590nm 特殊現像処理

Astro Nightscape Clip Filter ※実写画像を追加

夜景用・星景用光害カットフィルター Astro Nightscape
夜景用・星景用光害カットフィルターがこれだ。 水銀灯やナトリウムランプなどによるカブリを低減してくれる...けど、比較撮影していないので、効果は良くわからない。 それから、ホワイトバランス設定をどうするか、これからの検討課題だ。


まとめ

僕の用済み SONY α7Ⅱの「クリア改造」は、送料・税込みで39,730円だった。 一方、台湾のSTCから購入した4種のフィルターは、合計US$622.00だったので、改造費よりもフィルターの方が ず~っと高くついたけど、昔よりも気軽に特殊スペクトル写真を楽しめる時代になった。

ところで、気になるのは最近の各社RAWファイルへの化粧である。 僕の眼が黒かったうちは「RAW」は「生」の事だから、RAWへの化粧は最低限であるべきだと主張していた。 ニコンさんは昔からRAWへ厚化粧している事は判っていたけど、ソニー機の長秒画像はリアルタイムスポットノイズ除去(微光星が消える場合があるので嫌)以外に、何か妙な事をやっている感じがするなぁ。

とにかく、実戦撮影してみるのが楽しみだ ... え~っと、そういえば赤道儀 EM-200 の再稼働準備が全然出来ていないし、フルサイズのカメラで問題なく使える写真鏡も用意出来ていなかった...どうしよう...

また撮りに行きたい南十字
バラ星雲を撮るのは季節的に暫くお預けだ

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