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| Canonflex と SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm 1:1.8 Type-1 |
Canonflex はキヤノン初の一眼レフで、一部のレンジファインダー機と同じ底面トリガー巻き上げ式を採用したカメラだった。 シリーズで発売されたカメラは RP / R2000 / RM の様に、名称に「R」が付いているので、本当は Canonflex R と命名される機種だったのかも知れない...Rマウントだしね。
Canonflex
キヤノンは1959年に Canonflex で一眼レフ市場に参入したが、「底部トリガー130度回転による迅速巻き上げ」という使い難い巻き上げ方式を採用し、レンズマウントを「摺動面を持たないブリーチロック式という高級マウント」みたいな使い難いマウントを採用し、「SUPER-CANOMATIC」という妙な自動絞り方式を採用し、日本人は未だ知らない白黒パンダデザインを採用したカメラだった。 この時点でデザイン・操作性・将来性など、全て間違った製品開発を行ったと思う。 結局、生産期間・生産台数も多くはなかった様だ。
そもそも、製品名を「Canon R」とすれば良いのに、「Canonflex」と言い訳じみた製品名にしてしまい、既に定着していた「Canon」ロゴを「C A N O N」と間延びしたカッコ悪いロゴにしたところから間違っている。 当時の開発責任者は誰だっけ?
底部トリガー式巻き上げ
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| トリガー式巻き上げ |
巻き上げレバーは上面ではなく底面にあり、トリガー式と呼ばれていた。 レンジファインダー機の Canon VT や Canon VI T は底部トリガー式だったけど、Canon VI L や Canon P では操作性の良い上面レバーになっていたのに、一眼レフでも底部トリガー式を採用するとは驚きだ。 底面中央部にトリガーレバーがあるので、三脚ネジ穴は右端に配置されてしまい気持ち悪い。 「底部トリガー130度回転による迅速巻き上げ」と謳っていたけど、距離環を操作していた左手の指を大きく移動してトリガーレバーを押し込む操作は「迅速」じゃないと思う。 更に、三脚に据えると底面トリガー式巻き上げは操作し難いし、妙な違和感がある。
また、このカメラの巻き上げフィーリングは良いとは言えない。 トリガー巻き上げの最後に「ガチョッ」という嫌な感触があり、滑らかな巻き上げフィーリングではない。
よくある故障
巻き上げがジャムることがあり、その原因の多くはシャッター駆動カムが途中で止まってしまう事の様だ。 「東京カメラリペア」のWeb記事によると、カムにオイルが付着すると調子が悪くなるらしい。
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| カムが正規の位置にない |
底蓋を外して観察すると、この個体を見る限りカム周りにはオイル滲みなどの汚れは無いのに、十回ほどレリーズするとジャムる。 シャッター走行後にカムが収まる位置をよ~く観察すると、正規位置の手前でバラついて止まっていて、限界より手前で止まるとジャムる様だ。
色々と検討した結果、カムが当たるアームの規制バネ(写真の黄色枠内)の圧力が強すぎるらしく、経年で動きが少しでも渋くなるとカムが乗り越えられなくなる様だ。 バネ圧を少し軽減させてみたら、シャッター走行後にカムが正規の位置に安定して収まる様になった。 一応、巻き上げ系のギアにグリスをうっすらと塗布したので、巻き上げが少しスムースになったけど、最後の「ガチョッ」はどうしようもない。
なお、底蓋を外したら巻き戻しボタン系のパーツやワッシャなどが押さえが無い状態になるので、予め外してから原因調査を行った方が良い。 この個体は 三脚穴ワッシャ2枚 / 巻き戻しボタンスペーサー筒 / 巻き戻しボタンワッシャ3枚 / 長い巻き戻し系アーム / 巻き上げ軸ワッシャ / 巻き上げ軸スペーサー などが、底蓋で押さえられてるので、底蓋を外すと簡単にこぼれ落ちる。
ちなみに、このカメラのシャッター管制部は上側にあり、上カバーを外せばスローガバナーのメンテナンスなども簡単だ。 スローシャッターが不調になっても修理が楽なカメラである。
カメラ上面
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| カメラ上面 |
上面に巻き上げレバーが無いので、大型で回し易いシャッターダイヤルがある。 ダイヤル基部はギザギザのギアになっていて、外光式の外付け露出計を右肩前面に装着すればシャッターダイヤルと連動させられる。
レリーズボタン基部にはシャッター指標を兼ねたレリーズロックレバーがあり、時計回りに回せばレリーズ状態を保持できる。 この機能はバルブ撮影で露光状態をキープする為の機能で、誤ってレリーズしちゃうのを防止するものではない。 なので、レリーズロックしてもレリーズ出来て、レリーズボタンを押した状態が保持される。
レリーズロックレバーのファインダー寄りにエラく小さい丸窓の駒数カウンターがある。 凸レンズが付いているけど、数字が奥まっているのと、凸レンズに外光が反射して非常に見難い。 しかも、数値は偶数駒だけなので、奇数駒だと更に判り難い。 上面が広いのだからカウンター窓はもっと大きくするべきだった。
巻き戻しクランク基部にはフィルムインジケーターが装備されている。 巻き戻しクランクを引き上げた状態で、装填フィルムの感度とフィルム種別をセットできる。 ただし、露出計内蔵カメラじゃないので、これは単なる備忘機能である。
セルフタイマー
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| セルフタイマー |
レンジファインダー機ではレバー式のセルフタイマーを採用していたが、Canonflex では背蓋開閉キーの様な部材が採用された。 キーを起こして回転させるとセルフタイマーがセットされるが、セルフタイマーとしての動作状態が視認し難い。 従来とは異なる事をしたかったのかも知れないけど、カメラを構えるときに右手中指に当たってとても痛いので、標準的な操作系を敢えて変更する必要は無かったと思う。 何でこんな仕様にしたのか訳が判らない。
交換式ファインダー
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| 交換式ファインダー |
エプロン左側上部にある黒いスライドボタンを下側へスライドして、ペンタプリズムを後ろへスライドすれば取り外すことができ、剛性感があるスライド式なのは好感が持てる。 ただ、ペンタカバーをエプロン幅に合わせたらしく、前面投影面積が異様に大きい。 また、スライドのクリアランスを確保するためか、本体側とファインダー側との隙間が大き目なのが少し気になる。 なお、交換ファインダーとして密閉タイプで4倍拡大のウェストレベルファインダーがあったらしい。
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| ファインダー視野 |
Canonflex のフォーカシングスクリーンは固定式で、フレネル付きマット面の中央部Φ9mmの範囲にはフレネルが無く、中央部Φ5mmにはスプリットが組込まれている。 このスプリットは上下2つの大きなプリズムではなく、上下で向きが異なる20本/mmの細かなプリズムの集合体でエシェレット格子と呼ばれるものだ。 ファインダー中央をよ~く見るとスプリット部に沢山の縦線があるのを確認でき、思わず『へぇぇぇぇ!』と唸ってしまう。 レンズの絞り値がF4.5ほどでカゲリが発生するので、かなり明るいレンズを想定した設計だと感じる。
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| エシェレット格子 |
恐らく、この時代では見え味を損なわない様に精度よく20本/mmの細かなプリズムを成型するのは大変だったと想像でき、製造コストも高かったと思われる。 なお、フレネルのピッチは公開されていないけど、中央のエシェレット格子に比べてピッチが荒い(恐らく8本/mmほど)ので、少し渦が気になってしまう。
視野率は上下が92%で左右が94%と100%ではなく、四隅を大きく丸めているのでブラウン管TV画面の様で感じが悪い。 ちなみに、
NIKON F は視野率100%を実現していたし、フォーカシングスクリーンも交換式だったし、スクリーン隅の角を丸めてなかった。
ブリーチロック式レンズマウント
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| R マウント |
レンズマウントはブリーチロック式のスピゴットマウントで、マウント装着部の仕様は後のFL・FDレンズと同じだけど、SUPER-CANOMATIC LENS R と命名された自動絞り機能はFL・FDマウントの仕様とは異なる。 SUPER-CANOMATIC LENS R には「絞り開放バネ」と、自動絞りチャージレバーによりバネをチャージする必要がある「絞り込みバネ」とがあり、カメラの巻き上げ操作に連動してカメラがレンズの「絞り込みバネ」をチャージする。 また、チャージレバーの横に瞬間絞り込みを行う「絞り駆動ピン」が設けられていて、レリーズ時に「絞り込みバネ」の緊締を解除する事で瞬間絞り込みが行われる。
いくら「1/15秒の最高速」と謳われても、チャージレバーと絞り駆動ピンがあるなんて、古臭い自動プリセット絞り方式の様で、シンプルな
NIKON F の自動絞り機構と比較したら無駄があると感じてしまう。
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| FDレンズを装着可能 |
また、Rマウントには絞り値を伝達する機構が無いし、絞りリングはレンズ先端にあるので、外付け露出計はシャッターダイヤル(当初の Canon-METER は1/1000秒までだったが、R2000の発売に合わせて1/2000秒までに改められている)にしか連動できない。
NIKON F の様にマウント付近に絞り環があれば違った展開も考えられるけど、ブリーチロック式の締め付けリングが仕様拡張の足カセになっただろう。
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| FDレンズは実絞りで使用 |
Canonflex にはFDレンズを装着できる。 ただし、自動絞り機構は働かないので、そのまま装着すると絞り開放だけになってしまう。 FDレンズを使って手動絞り込み撮影を行うには、レンズの絞り駆動レバーを絞り込み状態にロックしてから装着する必要がある。 また、FLレンズを使う場合はプリセットリングかA/Mリングで絞り込めばよい。 なお、レンズによっては絞り込み状態にロック出来ないレンズもあるし、全てのFL・FDレンズを装着できるのかは知らない。
交換レンズ
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| 標準レンズの構成 |
標準レンズとして用意されたのは、キヤノン初の一眼レフ用標準レンズ SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm 1:1.8 Type-1(I型)である。 4群6枚構成だけどダブルガウス型ではない。 絞りより前側の構成が典型的なガウスタイプと異なり、先頭に貼り合わせレンズを配置した形式なので、ヘリアー形とガウス型のハイブリット的な感じだ。 キヤノンの Type-1 は対称性を崩した構成でバックフォーカスを確保したのだろう。 キヤノンでこんな構成の標準レンズは Type-1 だけだったと思う。 なお、Type-1 はレンズの透過光が随分と黄色いけど、恐らく先頭の凹レンズに酸化鉛を多く含む重フリントガラスでも使って黄色くなったのだろう...と思っていたけど、
分解して第1貼り合わせレンズの裏から線量率を測定したらアトムレンズでした。 ちなみに
MAMIYA Prismat NP 向けに少数生産された CANON LENS O M 50mm 1:1.9 も同様のレンズ構成だったらしい。
なお、Type-1 は評判が悪かったことから、翌年には4群6枚構成の典型的なダブルガウス型を採用した Type-2 へ変更されたので、Type-1 の生産本数は多くなかったと思われる。
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| 二つの絞り環 |
SUPER-CANOMATIC レンズには2つの絞り環があり、先端側にあるのがクリック付きの自動絞り環で、距離環側にあるのがクリック無しの実絞り環である。 実絞り環を絞り込むと絞り羽根が出て来るが、自動絞り環の方が小絞りであれば、撮影時に自動絞り値まで絞られ、露光後に開放ではなく実絞り値まで戻る。 普通の撮影では実絞り環は開放にしておいて、自動絞り環で絞り値を設定する。 なお、ブリーチロック式の締め付けリングに小さな赤点の指標が付いているけど、小さすぎて視認性が非常に悪い。 Type-2 からは赤点指標が少し大きくなっている。
Canonflex のカタログには SUPER-CANOMATIC レンズは 50mm F1.8 だけで、実絞り方式のRマウントレンズは 135mm F3.5 のみだし、85mm F1.9 / 100mm F2 / 100mm F3.5 はフォーカシングアダプタRA/RBを介してL39マウント製品を装着する様になっていた。 また、200mm F3.5 ~ 1000mm F11 まではL39マウント製品用のレフボックスをテレカプラーRに着け換えて装着できた。 この様に SUPER-CANOMATIC の利点を活かせる有効な交換レンズ群が用意出来ていなかった。
後に SUPER-CANOMATIC 仕様のレンズも増え、1962年には 58mm F1.2 も製品化されたが、広角レンズは1960年発売の SUPER-CANOMATIC LENS R 35mm 1:2.5 だけだった。
あとがき
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| Canonflex と NIKON F |
同じ1959年にニコンが
NIKON F を発売し、Canonflex より断然魅力があるシステムカメラであった事から、プロ・報道用市場ではニコンが90%ほどのシェアを奪った。 惨敗の結果、Canonflex シリーズは Canonflex:1959年 / Canonflex RP:1960年 / Canonflex R2000:1960年 / Canonflex RM:1962年 の4機種を発売しただけで幕を閉じる黒歴史の製品シリーズになった。 当然ながら僕も若い頃には
NIKON F を愛用していた。
結局、キヤノンは「SUPER-CANOMATIC」という妙な自動絞り方式と「摺動面を持たないブリーチロック式という高級マウント」を採用してしまったので、5年後のFLレンズで絞り駆動方式を一新し、12年後のFDレンズでは随分と複雑な信号伝達機構を搭載せざる負えなくなり、20年後のNew FDレンズではバヨネット風を実現するために、レンズ内に摺動面を設ける羽目になったのよねぇ。
話が変わるけど、前世紀に「キヤノxxx」という名称の製品が他にもあったのを覚えているだろうか? カメラでは「キヤノマチック」とか「キヤノネット」があったし、電卓では「キヤノーラ」なんてのがあった。 その後に製品名規定が制定され、「キヤノxxx」の様なフレンドリーな名称は使用禁止になったのであった。 キヤノンフレックスはセーフなのかNGなのか?
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