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| SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm 1:1.8 Type-2/3(左) と Type-1(右) |
キヤノン初の一眼レフである Canonflex 用の標準レンズとして用意されたレンズで、自動絞り機能が搭載されていた。 ただ、翌年には構成を大きく変えた II型 にモデルチェンジされている。 ここでは I型 を Type-1、II型 を Type-2、III型 を Type-3 と表現させて頂きます。
SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm 1:1.8
キヤノンカメラミュージアムによると、SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm 1:1.8 は3モデルあるらしい。 Type-1 は1959年から1年ほど生産されて、すぐに Type-2 に切り換わっている。 更に1963年には Type-3 へ切り換わった様だ。 自分のレンズが Type-2 なのか Type-3 なのか判らないので、Type-2/3 と記述します。
レンズ構成 Type-1 1959年発売
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| レンズ構成 Type-1 |
4群6枚構成だけどダブルガウス型ではない。 絞りより前側の構成が典型的なガウスタイプと異なり、先頭に貼り合わせレンズを配置した形式なので、ヘリアー形とガウス型のハイブリット的な感じだ。この Type-1 は対称性を崩した構成でバックフォーカスを確保したのだろう。 他のメーカーでも似た構成を見た記憶があるけど、キヤノンの一眼レフ用標準レンズではこの1機種だけだと思う。 なお、Type-1 はレンズの透過光が随分と黄色いのが気になる。 ちなみに
MAMIYA Prismat NP 向けに少数生産された CANON LENS O M 50mm 1:1.9 も同様のレンズ構成だったらしい。 なお、Type-1 は評判が悪かったことから、翌年には4群6枚構成の典型的なダブルガウス型を採用した Type-2 へ変更されたので、Type-1 の生産本数は多くなかったと思われる。
レンズ構成 Type-2/3 1960年/1963年発売
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| レンズ構成 |
Type-1 では非対称だったレンズ構成が、Type-2/3では対称性のある4群6枚構成の典型的なダブルガウス型に変更された。 Type-2/3 の方が非点収差や歪曲収差の補正に有利だが、Type-1 が非対称な構成にしたのは 50mm F1.8 という仕様でバックフォーカスを確保するため、前群に負パワー持たせてレトロフォーカスっぽくしたのだろう。 Type-2/3 では高屈折率硝材を用いる事で、典型的なダブルガウス型でバックフォーカスを確保できたらしい。
なお、巷ではType-2/3 は酸化トリウム含有硝材を使用したアトムレンズだとの噂もあるけど、僕の個体の黄変具合はそんなに酷くはない。 Type-1 と Type-2/3 とを比べると、Type-1 の透過光の方が黄色いくらいなので、Type-2/3 がアトムレンズであるという確証はない。 放射線測定器でも買ってみようかなぁ。
Type-1/2/3の見分け方
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| レンズ面反射の違い |
Type-1 と Type-2/3 との見分け方は以下の様な感じだけど、途中で細かな仕様が変更されているらしい。 外観をちょっと見ただけでは判り難いけど、銘板に「MADE IN JAPAN」があるかどうかで判別できるし、自動絞り環にチックマーク(白線)があれば確実に Type-1 だろう。
第1レンズが貼り合わせかどうかは分解すれば簡単に判るけど、両レンズを前面側の斜め45度くらいから見比べると、構成の違いにより中玉からの反射光に違いが出る。 Type-1 にはアンバー色で大きく広がって反射する角度があるけど、Type-2/3 にはその様な反射は現れない。
| 項 目 | Type-1 | Type-2 | Type-3 |
| 発売年 | 1959年 | 1960年 | 1963年
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| レンズ構成 | 4群6枚 | 4群6枚 | 4群6枚 |
| 第1レンズ | 凹凸貼り合わせ | 凸単レンズ | 凸単レンズ |
| 銘板刻印 | Japan 製造番号 | 1:1.8 製造番号 MADE IN JAPAN
| 1:1.8 製造番号 MADE IN JAPAN |
| 絞り環 | チックマークあり (末期にはない?) | チックマークなし | チックマークなし |
| 絞り環間隔 | 2環の間隔が狭いが 途中で広くなった | 2環の間隔が広い | 2環の間隔が広い |
僕の Canonflex にセットの Type-1 レンズは自動絞り環にチックマークがあり、自動絞り環と実絞り環の間隔が広くなったモデルで、Type-1 の中期か末期の様だ。 一方、Canonflex RM とセットのレンズは Type-2 の生産末期か Type-3 なのではないかと思っている。
Type-1/2/3 ともフィルター径はΦ58mmで、専用フードの設定はなかったけど、R 58mm 1:1.2 で使うクランプオンタイプの S-60 フードが使えそうだ。 ただし、S-60 フードを装着すると絞りの白点指標が見えなく(フードの止めビスで代用)なるし、絞り環が操作し難くなるので、Series XIII フィルターを挟まないならΦ58mmのネジ込み式フードが良いだろう。
アトムレンズなのか?
Type-2/3 が酸化トリウム含有硝材を使っているのかを確かめるために、β線/γ線/X線を検出できる LifeBasis放射線測定器 を買ってみた。 v放射線測定器の本体サイズは 5.2cm x 11.2cm x 1.96cm と手の平サイズなので、小型のガイガーミュラー管だと精度が悪そうだけど、LifeBasisは「高精度」と謳っている。 まっ、モニタリングポストじゃないので、相対的な線量率がある程度判れば良しとしよう。
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| 線量率測定の様子 |
LifeBasis放射線測定器のガイガーミュラー管が何処に配置されているのか判らないけど、測定器の配置を変えてみると右側面の感度が高い様なので、簡易な台座に載せてレンズの光軸を測定器右側面に合わせて、約1cm離して測定してみた。 なお、この状態でレンズ無しのLifeBasis放射線測定器による机上の空間線量率は0.06μSv/hだった。 この条件で R 50/1.8 Type-1 と R 50/1.8 Type-2/3 に加えて、アトムレンズである FL 58/1.2 Type-1 及び、ノーマルレンズの FD 50/1.4 S.S.C. Type-1 のレンズ前面側とレンズ後面側から測定した結果は以下の通りだった。
| レンズ | 製造番号 | 判定 | 前面側線量 | 後面側線量 |
| レンズなし(空間線量率) |
| | 0.06μSv/h |
| フィリピン バナナ |
| 🍌 | 0.17μSv/h |
| CANON FD 50mm 1:1.4 S.S.C. Type-1 | 402803 | 〇 | 0.14μSv/h | 0.13μSv/h |
| CANON FL 58mm 1:1.2 Type-1 | 45201 | ☢ | 0.65μSv/h | 3.27μSv/h |
| CANON R 50mm 1:1.8 Type-2/3 | 122345 | ☢ | 0.21μSv/h | 2.31μSv/h |
CANON R 50mm 1:1.8 Type-1 分解して第1群の裏面側から測定 | 27151 | ☢ | 0.71μSv/h 2.64μSv/h | 0.51μSv/h |
線量率測定の結果、FL 58/1.2 は測定器のデフォルト設定だとアラームが鳴って高い線量値を示すので正真正銘のアトムレンズだと確認できた。 問題の R 50/1.8 Type-2/3 は後面側の線量が高いので、アトムレンズで間違いない。
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| 第1群の裏面側から測定 |
一方、R 50/1.8 Type-1 は前面側も後面側も線量率が中途半端に高めなのが気になった。 前群が酷く黄変しているのは、ひょっとしたら前群内の凸レンズに酸化トリウム含有硝材が使われていて、前玉面がフィルター枠の奥にあるので測定距離が長いのと、鉛含有硝材によりγ線がかなり遮蔽されているのかも知れない。 ...という事で、前群系を分解して第1群の裏面側から測定してみたら、高い線量率を示すので、間違いなくアトムレンズであった。
他のレンズも線量率を測定してみたので、気になる人は
アトムレンズの線量率測定を参照してください。 なお、ノーマルレンズでも空間線量率より少し高いのは、カリウム含有硝材に混ざってしまうカリウム同位体(β線・γ線を放出する)の影響と思われ、カリウムが豊富なバナナ(およそ0.1μSv)だと思えばこんなものでしょう。 ちなみに、環境省によると一般的な空間線量率は0.02~0.1μSv/h とされている。
描写特性
SUPER-CANOMATIC R レンズには自動絞り環と実絞り環があり、マウントアダプターで撮影する場合は実絞り環で絞り込んで撮影する。 ただし、自動絞り環には1段ごとにクリックがあるのに、実絞り環にはクリックが無いので所望の絞り値に設定したつもりでもズレているかも知れません。
遠景描写 Type-1
以下の写真は SONY ILCE-9 で撮影したRAW画像をIE Edit Ver.4.0.00.10311 にて、ホワイトバランスは太陽光に設定し、Dレンジオプティマイザーはオフに設定して現像してあります。
Type-1 絞り:F1.8 |
Type-1 絞り:F2.8 |
Type-1 絞り:F4 |
Type-1 絞り:F5.6 |
Type-1 絞り:F8 |
Type-1 絞り:F11 |
絞り開放では全体的にフレアがかったベール越しの様な描写で、画面隅は解像していない。 F2.8に絞ると画面中央付近はフレアが取れてシャープな描写になるが、画面周辺ではフレアが残っていて、画面隅は解像が悪いままだ。 F4に絞れば画面中央から周辺にかけて良い描写になるが、画面隅はボヤけている。 F5.6に絞れば画面中央から周辺にかけて素晴らしい描写になるが、画面隅はボヤけ感が残っている。 画面隅はF8まで絞れば我慢できる描写になる。
素敵な周辺光量落ちがあり、F4で目立たなくなり、F5.6で解消されてしまう。 また、Type-1 レンズは前群系が黄色いので、Type-2/3 レンズに比べると発色が暖色系というより黄緑色っぽい発色で、シーンによってはオートホワイトバランスがコケそうだ。
なお、Type-1 レンズの後玉コーティングが酷く劣化しているので、フレア具合・コントラスト具合は勘案して観て下さい。
遠景描写 Type-2/3
以下の写真は SONY ILCE-9 で撮影したRAW画像をIE Edit Ver.4.0.00.10311 にて、ホワイトバランスは太陽光に設定し、Dレンジオプティマイザーはオフに設定して現像してあります。
Type-2/3 絞り:F1.8 |
Type-2/3 絞り:F2.8 |
Type-2/3 絞り:F4 |
Type-2/3 絞り:F5.6 |
Type-2/3 絞り:F8 |
Type-2/3 絞り:F11 |
絞り開放では全体的にソフトな描写で、画面周辺は収差フレアがある。 F2.8に絞ると画面中央付近は素晴らしい描写になるが、画面周辺7割付近の収差フレアが多く残っている感じだ。 恐らく、ビネッティング具合とコマ収差の膨らみ具合が最悪の場所なのだろう。 F4に絞れば画面周辺も良い描写となり、F5.6に絞れば画面隅も含めて画面全域で素晴らしい描写になる。 Type-2/3 は Type-1 レンズより高性能化されていて、画面周辺から隅の描写は雲泥の差がある。
Type-1 レンズより少し多めで素敵な周辺光量落ちがあり、F4で目立たなくなり、F5.6で解消されてしまう。 また、発色は暖色系な感じだけど、Type-1 レンズに比べるとニュートラルで色乗りも悪くなく、安心してオートホワイトバランスが利用出来そうだ。
Type-1 と Type-2/3 とを比べると、周辺光量落ちや発色や描写特性の違いの他に歪曲収差が微妙に異なるのが判る。 レンズ構成の対称性の違いが現れているのだろう。
Type-1 と Type-2/3 との比較 絞り:F1.8 WB:太陽光
一般描写 Type-1 と Type-2/3
以下の写真は SONY ILCE-9 で撮影したRAW画像をIE Edit Ver.4.0.00.10311 にて、ホワイトバランスは「Daylight:太陽光」か「Daylight Fluorescent:昼光色蛍光灯」か「Neutral White Fluorescent:昼白色蛍光灯」に設定し、Dレンジオプティマイザーはオートに設定して現像してあります。 なお、記載の絞り値などはボケ老人の「記憶」に頼っているので間違っているかも知れません。 また、Type-1 レンズの後玉コーティングが酷く劣化しているので、フレア具合・コントラスト具合は差し引いて観て下さい。
Type-1 F:1.8 WB:NWF |
Type-1 F:1.8 WB:NWF |
Type-1 F:1.8 WB:NWF |
Type-2/3 F:1.8 WB:NWF |
Type-2/3 F:1.8 WB:NWF |
Type-2/3 F:1.8 WB:NWF |
Type-1 F:1.8 WB:D |
Type-1 F:1.8 WB:D |
Type-1 F:5.6 WB:D |
Type-2/3 F:1.8 WB:D |
Type-2/3 F:1.8 WB:D |
Type-2/3 F:5.6 WB:D |
Type-1 F:1.8 WB:NWF |
Type-1 F:1.8 WB:NWF |
Type-1 F:5.6 WB:NWF |
Type-2/3 F:1.8 WB:NWF |
Type-2/3 F:1.8 WB:NWF |
Type-2/3 F:5.6 WB:NWF |
Type-1 F:2.8 WB:D |
Type-1 F:4 WB:D |
Type-1 F:1.8 WB:D |
Type-2/3 F:2.8 WB:D |
Type-2/3 F:4 WB:D |
Type-2/3 F:1.8 WB:D |
Type-1 の絞り開放では薄いベール越しの様な描写で、1950年代初頭のオールドレンズみたいに感じる。 一方、Type-2/3 の絞り開放は若干ソフトだけど意外にしっかりした描写でだ。 風景写真を Type-1 で撮れば絞り込んでも画面隅に不満があるけど、Type-2/3 ならF5.6まで絞れば画面全域で素晴らしい描写になる。 Type-1 は画面左右が切られるプリント写真ならOKという感じだ。
両レンズとも後ボケに二線ボケの傾向があるけど、Type-1 の方が二線ボケ傾向が強いので、Type-2/3 より補正過剰な特性なのだろう。 このため、シーンによっては Type-1 の後ボケはガサツに感じることもある。 逆に Type-2/3 は周辺光量とビネッティング形状の影響なのか、周辺ぐるぐるボケになり易いというクセがあるので、現代のぐるぐるボケマニアにウケるかも知れない。
比較撮影の結果として Type-1 は開放での収差フレアが多いし、画面隅の描写は絞ってもあまり改善しないし、一眼レフ用じゃないけど1951年発売の S 50mm 1:1.8(L39マウント) より劣っているのはチョットねぇ。 なお、Type-1 の方が発色が黄色くてオールドレンズらしいとも言えるけど、これは利点という訳ではない。 一方、Type-2/3 はぐるぐるボケのクセがあるけど、良く写るオールドレンズだと思う。 撮り比べてみると、Type-1 から Type-2 へ急いで切換えた理由が垣間見える結果だった。
あとがき
当時の雑誌評価を読んだ事はないけど、現代と違って広告掲載会社の顔色を見る事はなかったので、Type-1 レンズは酷評されたに違いない。 この Type-1 レンズの描写性能を見ると、当時のキヤノンは NIKON F 発売情報に焦っていて、社内で充分に検証されないまま製品化したのだろうと妄想している。 何れにしても Type-1 はキヤノン一眼レフの黒歴史を代表するレンズだと思う。
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