研削非球面を使った高価な FD 85mm F1.2 S.S.C. ASPHERICAL が有名だが、FD 85mm F1.8 は一般人でも購入できる価格で、ポートレイト用の神レンズとして買っちゃう人も多かったと思う。
レンズ構成
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レンズ構成 |
パワー配置的には凸凸凹凸で4群6枚構成のエルノスター型だけど、2枚の貼り合わせレンズを用いているので拡張エルノスター型とも言えるだろう。 鏡筒の作りはしっかりしていて、オールドレンズらしい適度な重量感が心地よい。 最短撮影距離は0.9mで、この時の撮影倍率は0.114倍である。 僕が大好きな ZUIKO AUTO-MACRO 90mm F2 に慣れてしまうと、0.9mという最短殺意距離は遥か彼方の様に遠く感じてしまう。
鏡筒のサイズはΦ67mm×57mmで、FD 100mm F2.8 S.S.C. と全くサイズだけど、重量は425gなので 100mm F2.8 より65gほど重い。 これは前玉系の口径が大きいためで、ガラスが詰まっているという重量感が物欲を満足させてくれる。
レンズ脱着時に落下し難い様にレンズをマウント面を押し当てるとレンズの締め付けリングがスルッと回ってカメラ側の爪をくわえ込む様になっている。 FDレンズはNew FDとは違って良質な道具だと感じさせてくれるレンズだ。 とはいえ、やはりスピゴットマウントはレンズ交換時に落下させ易いのは事実で、ヒヤっとした事が何度もある。
描写特性
遠景描写
以下の遠景描写の写真はRAW現像時にホワイトバランスを6000°Kに設定し、Dレンジオプティマイザーをオフにして現像しています。
絞り:F1.8 |
絞り:F2.2? |
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り開放の画面中央はハイライトぶがフレアでホワホワな描写だけど、そこそこ解像感はあるので良く出来たソフトフォーカスレンズの様な雰囲気がある。 一方、画面周辺はビネッティングの影響でフレア感が少ないので『あれぇ?』と思う事もある。 F2.2?(1.8と2.8の間)に絞ると少しソフトだけど画面全域が均質で良い描写となる。 F2.8に絞ると画面四隅を除いて更に良い描写となり、F4に絞れば画面四隅でも充分な描写となる。
素敵な周辺光量落ちがあるので効果として使えるけど、絞り開放以外では効果が少なく、絞りF5.6で完全に解消される。
夜景描写
以下の遠景描写の写真はRAW現像時にホワイトバランスを白色蛍光灯に設定して、Dレンジオプティマイザーをオンにして現像しています。
(どん曇りの夜なので空が明るいです)
絞り開放では高輝度部にコマフレアが発生してベール越しの様になるが解像感はあり、画面周辺のコマフレアも酷くはない。 F2.8に絞るとスッキリした描写に変り、四隅以外は良い描写となる。 F4まで絞れば画面全域で夜景撮影でも充分な描写になる。
玉ボケ描写
以下の玉ボケ描写の写真は距離環を2mに設定して、RAW現像時にホワイトバランスを白色蛍光灯に設定し、Dレンジオプティマイザーをオンにして現像しています。
(どん曇りの夜なので空が明るいです)
絞り開放でも玉ボケの周りのエッジは目立たない方で、画面周辺はレモン型のボケになる。 F2.8に絞っても多角形感は少ない玉ボケ感が得られ、画面四隅のボケはラグビーボール風になる。 F4まで絞ると8角形の多角形感がでてしまうが、画面全域で形の揃ったボケ像になる。
一般撮影
以下の遠景描写の写真はRAW現像時にオートホワイトバランスに設定し、周辺光量落ちが判り易い様にDレンジオプティマイザーをオフにして現像しています。
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F5.6 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F5.6 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り:F1.8 |
絞り開放では高輝度部にフレアが目立つが、低~中輝度部分は適度にソフトな描写で、女性ポートレイト撮影にはちょうど良い感じで、画面周辺に主被写体を置いてもピントを合わせた部分の解像感はそこそこある。 また、少し絞ればシャープ感も増して画面周辺でも素晴らしい描写になる。
ボケ味にクセが出易いエルノスター型だけど、本レンズのボケ味は悪くなく、前ボケも後ボケもスムースにボケてくれる。 ただし、小デフォーカスの画面周辺後ボケが「ランドルフ環」の様な「C」字になる場合がある。 また、高輝度被写体の前後ボケ周囲に発生する紫や緑の「色ボケ」は絞り開放では気が付くこともあるが、今世紀に発売された明るい85mmレンズ並みだと思う。
カメラのオートホワイトバランス性能にもよるけど、発色は悪くないし他のFDレンズ(FD 35mm F2 アトムを除く)とも発色に差異は無いので、FDレンズ群を使う人はレンズごとの発色差を気にする必要は無いと思う。
開放がF1.8と明るい中望遠レンズだけど、絞り開放でも充分に使える描写だ。 少し絞れば画面隅までスッキリとしたシャープな描写が得られる優れたレンズである。
あとがき
人間の思い込みは不思議なもので、『オールド85mmなら旭光学の
Super-Multi-Coated TAKUMAR 85mm F1.8 が素晴らしい』と思っちゃったら、よほどの事が無い限り他レンズの良さが見えてこない。 この CANON FD 85mm F1.8 S.S.C. は1970年代の中望遠オールドレンズとしては侮れない描写性能で、『こっちの方がイイ』と感じさせる魅力的なレンズだと思う。
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