CANON FD 400mm F4.5 S.S.C. - 中距離ミサイル

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CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C.
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C.
 このレンズは 400mm F4.5 という仕様にしては軽いレンズだった。 インナーフォーカス式なのでレンズ全長が変わらないし、軽くフォーカシングできる。

CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. - 1975年発売

レンズ構成

CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. レンズ構成
レンズ構成
 5群6枚構成のテレフォト型レンズで、常用のリアフィルターも含めれば6群7枚構成である。 人口蛍石や特殊低分散硝材などは使われていないので、色収差の懸念がある。
 フォーカシングはインナーフォーカス式(キヤノンカメラミュージアムではリアフォーカス式と記載)で、後ろ側の負パワーの第5群を移動させている。 距離環を至近方向へ回転させると第5群がカメラ側へ移動するので、「繰り出す」のではなく「繰り込む」という表現が正しいだろう。

フォーカス方式

 テレフォト型としての最終凹レンズをフォーカス用レンズとしているが、パワーが弱いので、フォーカスによる移動量が多くなる。 そこで、フォーカスレンズ群の移動方法はヘリコイドではなく、カムによって移動させる方式とし、カムカーブを無限側と至近側とで傾きが変化するバリピッチフォーカスシステムになっている。 これにより遠距離側では敏感度を下げ、近距離側では敏感度を上げる事で、全距離域でピントが合わせ易くなっている...と謳っていた。 最短撮影距離は4mなので通常は充分だけど、ちょっと寄り足りないと感じる事がある...というか、離れられない事があるのだ。 フォーカス郡のパワーを強くすれば寄れたかも知れないけど、収差変動が大き過ぎるのだろう。
 ちなみに、キヤノンカメラミュージアムにある本レンズの説明では『.....リアフォーカスとは、絞りより後部のレンズ群をフォーカス群として移動させて焦点調節を行う方式で.....』と記述されているけど、このレンズは絞りより前部の貼り合わせレンズがフォーカス郡になっているので、このレンズの説明としては訳が判らない事になっている。

レンズ重量

 先代の CANON FL 400mm 1:5.6 はフォーカシングユニット込みで3,890gもあった。 また、競合する Nikkor-Q Auto 400mm F4.5 はフォーカシングユニット込みで4,300gもあり、0.6段暗い Nikkor-Q Auto 400mm F5.6 でも1,400gの重量があった。 FD 400mm 1:4.5 S.S.C. の重量は1,300gなので、当時の 400mm F4.5 という仕様にしては随分と軽いレンズになった。 ただし、3枚構成の大きな前玉が重いので、カメラを装着してもフロントヘビー気味になるけど、左手にレンズ三脚座を載せて距離環を親指と人差し指&中指でつまんで軽くフォーカシングが出来た。

三脚座

手持ち撮影で操作し易くなる三脚座(縦位置の状態)
手持ち撮影が楽な三脚座
 三脚座には片側に垂直な壁が付いていて、手持ち撮影時に横位置・縦位置を切換えても三脚座と同じ感触で手の平に納まる様に工夫されている。 各個人の縦位置の構え方によって壁を左右どちらにするか決めれば良いだろう。 一方、FD 85-300mm F4.5 S.S.C. の三脚座はほぼ同じだけど「壁」は付いていないので、重量的・バランス的に手持ち撮影は想定しなかったのだろう。 事実、FD 85-300の手持ち撮影では三脚座が低すぎるし、距離環まで遠すぎて役に立たない。 ただし、両レンズで三脚座の互換はあるので、相互に着け換えられる。

ドロップインフィルター

34mm Drop In Filter
34mm Drop In Filter
 フィルターは34mm径のリアフィルター方式で、「REGULAR 1x」が標準付属している。 このフィルターは FD 300mm 1:2.8 S.S.C. FLUORITE などと共通のもので、34mm Drop In Filter として REGULAR 1x / UV 1x / Y3 2x / R1 6x / ND 4x などがあったらしい。 フィルターホルダー上部中央の銀ボタンを押しながら、フィルター枠の両端を摘まんで持ち上げればフィルターを外す事が出来る。

内蔵フード

スライド式内蔵フード
スライド式内蔵フード
 内壁が植毛タイプになっているフードが組み込まれていて、深さが少し足りない気がするけど、効果はあるだろう。 欲を言えばフードを引き出した状態で「ひねれば」ロックされる構造だったら有難かった。 鏡筒デザイン的には存在感がある大きな前枠と、細身で長いフォーカシング部がミサイルの様で悪くはない。 少なくとも人に見られて“恥ずかしい”と隠れる必要はない。

エクステンダー対応

僕の個体にはマウント開口が狭くて FD 1.4x-A が入らない
FD 1.4x-A が入らない
 焦点距離を伸ばすエクステンダーに対応していて、FD 2x-A を装着すれば 800mm F9 となる。 FD 1.4x-A にも対応しているハズだけど、僕の FD 400mm 1:4.5 S.S.C. はレンズマウント部の遮光板が邪魔して FD 1.4x-A を装着出来ない。 市場には、遮光板が丸穴風になって FD 1.4x-A を装着出来る FD 400mm 1:4.5 S.S.C. もあるので、FD 1.4x-A が1981年に市場投入する事が決まってから「こっそり」メカ変更したのだろう。 つまり、僕の個体は旧型という事になるけど、キヤノンミュージアムには(I)とか(II)などの記載はない。 なお、キヤノンのFDレンズ用エクステンダー(テレコンバーター)は4種類存在する。
  • EXTENDER FD 2x   5群5枚構成 1975年発売 ¥29,000円
    FD 300mm F2.8 S.S.C. FLUORITE専用
  • EXTENDER FD 2x-A  4群6枚構成 1978年発売 ¥35,000円
    300mm以上、ズームはテレ側が300mm以上。(※FD 300mm F2.8 を除く)
  • EXTENDER FD 2x-B  5群7枚構成 1980年発売 ¥45,000円
    300mm未満、ズームはテレ側が300mm未満。(※FD 300mm F2.8 を含む)
  • EXTENDER FD 1.4x-A 3群4枚構成 1981年発売 ¥40,000円
    300mm以上のレンズ
という4種類で、対応するマスターレンズが判り難い。 EXTENDER FD 2x-A と EXTENDER FD 2x-B と EXTENDER FD 1.4x-A を持っているけど、描写が我慢できなくなるので殆ど使った記憶が無い。

フォーカス機構の補修

分解・補修の様子 カム筒は溶けた黒樹脂や劣化した白グリスで汚れている
分解・補修の様子
 このレンズはフォーカシングがヘリコイドではなくバリピッチカムで行っている。 このため、経年の使用で樹脂製のカムコロが劣化・摩耗してガタガタになってしまう持病がある。 本レンズはカムのガタが酷くなり役目を終えたレンズなのだ。 内部で移動するレンズユニットは軽いので、カム溝は直進溝と傾斜溝が各1本のみで、カムコロは1組だけである。 ズームカムと異なりフォーカスカムは傾斜が緩やかなので、少しのガタが回転方向に対しては大きなガタとなることから、摩耗・劣化したカムコロを交換しないとスムースなピント合わせが出来なくなる。
 なお、このレンズの分解で最も困ったのは、長い距離環ラバーがカチコチに硬くなっていて、“脱がせられない”事だった。 無理に広げようとすると千切れ始めたので、諦めてカッターナイフでスパッと切ってしまった。 組み戻す時には接着剤で上手く張り合わせるしかない。

劣化・溶けて痩せたカムコロ(左)と 代替のカムコロ(右)
劣化したコロと代替コロ
 さて、分解してみると、劣化・摩耗したカムコロは殆どが溶けて無くなり役目を全く果たしてなく、溶けた黒い樹脂がカム溝周りに付着していた。 カムコロがグリスの油分に侵されてしまった様で、使用する樹脂の材質選定に設計ミスがあったのだろう。
 代用するカムコロは、アメリカで販売されていたガビ玉で絞りも動かないジャンクな PMZ 280 ズームレンズ(多分、タカラ製作所製OEM:自社はTOPMANブランド)をドナーとして部品取りした。 FD 400mm 1:4.5 S.S.C. のカムコロは、直進カムコロと傾斜カムコロとに分かれて(実際には直進移動は固定筒内の3本のレールに嵌っているので、直線溝にはカム溝の役目は無い)いて、コロが溶けてるので定かではないけど、直径が異なる組合せの様だ。 ところが、PMZ 280 ズームのカムコロも同様に、直径が異なる1組のカムコロを組み合わせて用いられていた。
 カム筒や距離環摺動部を清掃してから必要な部分をクリスアップして組み戻し、下側に大きめ・上側に小さめのカムコロを組み込んでみたら、ガタガタだったフォーカシングが昔の様なスムースな操作感に戻った。 カムコロもクルクル回りながら軽快に移動し、ピント合わせも正確に行える。 テスト撮影して問題が無ければ切腹した距離環ラバーを接着して作業完了だ。

描写特性

遠景描写

 以下の写真はカメラをオートホワイトバランスに設定し、Dレンジオプティマイザーをオンにして撮影したカメラJPEG画像です。
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F4.5
絞り:F4.5
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F5.6
絞り:F5.6
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F8
絞り:F8
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F11
絞り:F11
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F16
絞り:F16
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F22
絞り:F22
 絞り開放では少しフレアっぽいけど、F5.6に絞ると中央付近は良い描写になり、F8まで絞ると中央付近は素晴らしい描写になる。 なお、F22まで絞ると回折の影響で少しボヤけてしまう。 高感度フィルムの粒子にまみれたスポーツ写真・報道写真が多かった銀塩時代を考えれば絞り開放でも充分な描写と言えるだろう。 また、糸巻型の歪曲収差があるけど、直線基調の被写体なら気が付く程度だ。
 なお、上記の写真では陽炎の影響で被写体がグニャグニャしているので描写の評価には向いてません。m(_ _)m

 面白い特性として、絞り込んだ方が画面周辺の倍率色収差が目立つ事だ。 絞り開放では余り気にならないけど、絞り込んだ写真では気になってしまう。 絞りを開けていると周辺光量落ちにより画面周辺が暗くなるので倍率色収差は目立たないけど、絞り込んで周辺光量が増加すると共に白色系部分が飽和しそうになり、倍率色収差が強度を増すからだろう。

 倍率色収差が気になる絞りF16での画面右下部分をモノクロ化した画像と比較すると、モノクロームの輝度情報だけであれば描写上は余り気にならない事が良く判る。 モノクロ撮影向きのレンズだとえる。

モノクロ化画像
カラー画像
画面右下のカラー画像とモノクロ化画像の比較 絞り:F16

一般描写

 以下の写真はカメラのホワイトバランスをオートホワイトバランスに設定し、Luminar Neo Ver.1.26.0 で現像してみました。 カメラJPEGとは仕上がりが微妙に違います。
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F4.5
絞り:F4.5
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F8
絞り:F8
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F8
絞り:F8
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F8
絞り:F8
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F5.6
絞り:F5.6
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F8
絞り:F8
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F5.6
絞り:F5.6
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F5.6
絞り:F5.6
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F5.6(アプリで色収差補正)
絞り:F5.6 色収差補正
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F4.5
絞り:F4.5
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F4.5
絞り:F4.5
CANON FD 400mm 1:4.5 S.S.C. 絞り:F8
絞り:F8
 絞り開放では柔らかい描写だけど少し絞るとシャープさが増すので、通常はF5.6で撮影すれば良いだろう。 特殊低分散ガラスや人工蛍石などが使われていない超望遠レンズなので、画面周辺の倍率色収差が気になるし、絞っても倍率色収差は解消されないどころか更に目立ってしまう。 また、後ボケの周りが緑色になり、前ボケの周りが紫色になる「色ボケ」がハッキリ現れる。 これらの色収差は Luminar Neo で現像時する時に「自動色収差補正」や「自動フリンジ削除」を施せばある程度は解消するけど、色ボケは補正され難いし妙に色抜けする部位があったりする。

あとがき

 400mmの飛び道具だと撮る物が限られるし、季節的に撮る物ものも少ないので散歩には全く適さない。 色収差が目立つのでイマイチに感じるけど、昔の様にモノクロフィルム撮影なら許容範囲で、当時は手持ちで振り回せる軽くて便利な超望遠レンズだった。 特殊低分散ガラスや人工蛍石を使ったバージョンがあれば素晴らしい描写性能だっただろうと妄想してしまう。
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