分散特性が非常に低い人工蛍石レンズを使う事で、明るい望遠レンズに係わらず色収差が非常に少ないのが特徴である。 FL 300mm 1:2.8 S.S.C. FLUORITE は受注生産で生産期間が短かった事から見た事がなかったけど、この FD 300mm 1:2.8 S.S.C. FLUORITE もあまり見かけないレンズだった。
レンズ構成
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| レンズ構成 |
レンズ構成は旧型のFLレンズと(多分)同じ構成で、1枚の人口蛍石を含む5群6枚構成(リアフィルタを含めれば6群7枚構成)のテレフォト型である。 第2レンズの凸レンズが人口蛍石で、柔らかくてキズが着き易い蛍石を保護するために第1レンズがメニスカスな保護ガラスとなっている。 また、第4レンズの凸レンズの硝材としてFK5という低分散ガラスを使う事で蛍石と併せて色収差を抑えている。 なお、第3レンズの凹レンズは望遠レンズの設計には欠かせない高屈折率・高分散ガラスが用いられている。
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| GHOSTLESS フィルター |
保護用の第1レンズがメニスカス状になっているのはゴースト軽減の為と思われるが、後継機の New FD 300mm 1:2.8L では平行平面ガラスになってしまった。 ちなみに、旭光学にはメニスカス状のゴースト軽減フィルター GHOSTLESS があった。 僕はΦ49mmの UV GHOSTLESS を持っているけど、UV以外の GHOSTLESS フィルターがあったのかは知らない。 銀塩フィルムは撮像面反射はデジタルセンサーより反射が少なかったけど、強烈なスポットライトやヘッドライトなどが画面に入ると、撮像面で反射した光が装着フィルターで再反射して対角線ゴーストとして写り込んでしまう。 フィルターが曲面であれば再結像光はボケて大きく広がるのでゴーストが緩和される。
レンズ重量
1957年発売の R Topcor 1:2.8 f=300mm が世界初の「さんにっぱ」で、重量は3,300gもあった。 1972年に報道機関向けに限定発売された NIKKOR-H 1:2.8 f=300mm(サッポロモデル)でも重量は3,000gだったらしい。 一方、キヤノンの「さんにっぱ」は1974に受注生産された FL 300mm 1:2.8
S.S.C. FLUORITE は2,340gと軽量と
なり、FD 300mm 1:2.8
S.S.C. FLUORITE では1,900gへと更に軽量化された。 その後、1981年発売の New FD 300mm 1:2.8
L では2,345gへとリバウンドし、1987年の EF 300mm F2.8
L USM では2,855gまで増えてしまった。 現在、僕が使っている最新の
SONY FE 300mm F2.8 GM OSS ではAFやOSSまで付いて、たったの1,470gになったので隔世の感がある。
フォーカシング
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| 手持ちでの支え方 |
さて、重量が1,900gもある重い望遠レンズなのに、フォーカシング方式が全体繰り出し(リアフィルターを除く)なので、ピント合わせの操作性が悪い。 フロントヘビーなヘリコイドを回す距離環のトルクが重めで、無限付近は軽いけど近距離ほどフォーカシング操作が重くなる。 手持ち撮影では前玉枠段差斜面付近を、左手人差し指の指尖球(付け根)あたりで支えて、親指と中指とで挟む様にして距離環を回すとピント合わせが少しは楽になる。 同じ1975年に発売された FD 400mm 1:4 S.S.C. のフォーカシングは驚くほど軽くてスムースなので、比べると操作性に難があると言わざる負えない。
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| 社外製三脚座 |
ちなみに、背丈が高くて長さがある社外製の三脚座を着けてあり、三脚に載せた場合にモードラ付きカメラとなら前後バランスが少し良くなる。 また、手持ち撮影でも三脚座を手の平に(少し痛いけど)載せながら、指尖球支えと併せてピント調節を行い易い。 なお、3.5mの最短撮影距離(撮影倍率0.1倍)は少し寄り足りないし、全体繰り出しなので至近付近までぐりぐり繰り出すと指が疲れる。 それから、重量のあるレンズを付けてカメラから吊り下げるのは不安なので、三脚座のネジ穴を使ってレンズ側にストラップを装着した方が安心だ。 NewFD 300mm 1:2.8 L には三脚座にストラップ用のバーが付いていた。
スライド式内蔵フード
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| スライド式内蔵フード |
内壁が植毛タイプになっているスライド式フードが組み込まれていて、長さが少し足りない気がするけど、多少は効果があるだろう。 欲を言えばフードを引き出した状態で「ひねれば」ロックされる構造だったら有難かった。 このフードは使っているうちにスカスカになってしまう。
また、付属の金属製フロントキャップもスカスカになって落っことし易い。 特にスカスカで伸びて来たフードを引っ込めると、空気圧でスカスカのキャップが吹き飛んでしまう。 ネジ込み式のキャップはイライラするので嫌だけど、スカスカのキャップも嫌だなぁ。(キャップ内側のフェルトっぽい黒紙を定期的に貼り替えればスカスカが軽減される)
ドロップインフィルター
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| 34mm Drop In Filter |
フィルターは34mm径のリアフィルター方式で、「REGULAR 1x」が標準付属している。 このフィルターは FD 400mm 1:4.5 S.S.C. などと共通のもので、34mm Drop In Filter として REGULAR 1x / UV 1x / Y3 2x / R1 6x / ND 4x などがあったらしい。 ちょっとやり難いけど、フィルター枠中央の銀ボタンを押しながら、フィルター枠の両端を摘まんで持ち上げればフィルターを外す事が出来る。 なお、フィルター枠が当たる鏡筒部にゴムシートが貼ってあり、多少の防塵・防滴にはなっている。
エクステンダー対応
焦点距離を伸ばすエクステンダーに対応していて、専用エクステンダー FD 2x を装着すれば 600mm F5.6 となった。 なお、キヤノンのFDレンズ用エクステンダー(テレコンバーター)は4種類存在する。
- EXTENDER FD 2x 5群5枚構成 1975年発売 ¥29,000円
FD 300mm F2.8 S.S.C. FLUORITE専用 - EXTENDER FD 2x-A 4群6枚構成 1978年発売 ¥35,000円
300mm以上、ズームはテレ側が300mm以上。(※FD 300mm F2.8 を除く) - EXTENDER FD 2x-B 5群7枚構成 1980年発売 ¥45,000円
300mm未満、ズームはテレ側が300mm未満。(※FD 300mm F2.8 を含む) - EXTENDER FD 1.4x-A 3群4枚構成 1981年発売 ¥40,000円
300mm以上のレンズ
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| CANON製エクステンダー |
という4種類で、対応するマスターレンズが判り難い。 なお、価格改定が激しい時代だったので、掲載の発売時価格は参考程度です。
EXTENDER FD 2x-A と EXTENDER FD 2x-B と EXTENDER FD 1.4x-A を持っているけど、殆ど使った記憶が無い。 昔はオートフォーカスも電気的な通信も無かったので、レンズに FD 2x-B を装着し、更に FD 2x-A を重ねれば、マスターレンズの焦点距離を4倍に伸ばせた。 どうしても近づけない被写体の撮影に、 画質は別としてエクステンダーの重ね付けをやっていた動物写真家も居たハズだ。
描写特性
遠景描写
以下の遠景描写の写真はカメラのホワイトバランスを太陽光に設定し、Dレンジオプティマイザーをオフにして撮影したカメラJPEG画像です。
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り:F11 |
絞り:F16 |
絞り開放でも画面全域で良い描写で中央付近は素晴らしい描写だ。 F4に絞ると画面隅の描写が向上し、F5.6で極四隅の描写も優れた描写になり、F8で画面全域が素晴らしい描写になる。 なお、なだらかに落ちる周辺光量落ちがあり、F4で殆ど判らなくなり、F5.6で解消される。
FD 300mm 1:2.8 S.S.C. FLUORITE と New FD 300mm 1:2.8 L の絞り開放を比べてみた。 発色はどちらも同じ様な色味・色乗りだけど、意外なのは絞り開放での画面中央部の解像感・コントラストはNewFDより旧型の方が高いことで、画面周辺でも光量落ちが大きい旧型の方がシャープだ。💦
一方、旧FDの方が周辺光量落ちが少し大きいことと、撮影データ(シャッター速度)からNewFDより少し光量が少ないと判った。 NewFDは保護ガラスを撤去しているので、これらの差に影響しているかも知れない。
FD 300/2.8 S.S.C. FLUORITE と NewFD 300/2.8L との比較 絞り:F2.8 WB:太陽光
両画像をアプリで中央部を位置合わせして99%のサイズ(5940x3960)にトリミングしてあります。
一般描写
以下の写真はカメラのホワイトバランスをオートホワイトバランスに設定し、Dレンジオプティマイザーをオフにして撮影したカメラJPEG画像です。
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F11 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
高価な硝材を使った高級レンズなので、絞り開放から素晴らしい描写だ。 明暗差のある部分でもパープルフリンジは殆ど発生しない。 とはいえ、飽和しそうな高輝度部にはパープルフリンジの発生が認められる。 画面周辺を強拡大して観察すると、New FD 300mm 1:2.8 L より倍率色収差が少し多い事が判るが、普通は色収差を殆ど感じないだろう。
ボケ味は素晴らしく綺麗で、画面周辺で玉ボケがレモン形になるけど、玉ボケ周囲にエッジが立たないので『球面収差が曲がる事無くスゥっと立ってるんだろうなぁ』と感じさせる素性の良さが伺える。 なお、絞り羽根が9枚なので絞っても玉ボケに多角形感は殆ど感じない。
9枚絞りなので、絞り込むと輝点に発生する回折スパイク(サンスター)が18本もあるので少しうっとおしいけど、スパイクの強度は低い感じだ。 なお、画面に太陽を入れても300mmだと太陽の面積が大きいので、“サンスター”にはなってくれない。 夜景では絞り過ぎると回折の影響で高輝度部が滲む様に広がってしまうので、色収差を感じるけど絞ってもF5.6程度の方がスッキリした感じで写る。
なお、保護ガラスがメニスカスになっているおかげで、夜景を撮影しても太陽を画面内に入れても対角ゴーストは発生しない。 また、内面反射対策・迷光対策が徹底しているので逆光フレアも少ないと思う。
描写性能は素晴らしいのだけれど、重いフォーカスはピント合わせに難儀するし、重いレンズは散歩が苦行になるし、300mmだと撮る物がなかなか見つからないのでウロウロしてると通報される恐れがある。
あとがき
このレンズは天体写真撮影用として再稼働させるために、20年ほど前にマウント部を破壊してEOSマウントに大改造してしまった。 でも、ピント合わせの操作性が悪いし、天体写真としては星像が歪でイマイチだったので、壊したままお蔵入りになっていた。💦 当時は星像がイマイチな原因を追究しなかったけど、製造時に対物レンズを締め過ぎていて、冬の低温下でレンズに余計な圧が加わったのが原因だったかも知れない。 天体望遠鏡の対物レンズは緩く締めてるだけなんだよねぇ。
もう自動絞り機能は復元不可能に近いけど、FDマウントに戻してマニュアル絞りで撮影出来る様にはしてある。 今後は使わないレンズなので、このまま静態保存しておくつもりだ。
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