Leica IIIg 型に装着した 1954年製 Red Scale Elmar 5cm F3.5 |
Ernst Leitz Elmar 5.16cm F3.5
エルマーという交換レンズ自体は1930年に発売され、改良を加えながら1959年まで(Mマウント用は1961年まで)生産され続けた。 ゲルツ社のガラスを使用した製品を「旧エルマー」と呼び、ショット社製のガラスに切り換わった製品を「新エルマー」と呼んでいる。写真のレンズは新エルマーで、被写界深度目盛りが赤に塗られている製品なので「赤エルマー」と俗称されるレンズである。 恐らく1954年に製造されたレンズで、ちゃんとコーティングもされているし、クラシックなレンズとしては写りもすこぶる良い。
エルマーとテッサー
マックス・ベレクが設計したエルマーは基本的にカールツァイスのテッサーと同じ3群4枚構成である。 ところが、テッサーの絞りは第2レンズ(凹レンズ)の後にあるんだけど、特許を回避するためにエルマーの絞りは第1レンズ(凸レンズ)の後ろに配置したらしい。ちなみに、ファインダー窓の外側に距離計窓を配置して長い基線長を確保する方法はライツ社の特許で、ツァイス社のコンタックスは途中で構成変更を余儀なくされている。 あの当時から特許を武器に鍔迫り合いをしていた。
そうそう、ライカの考案者であるオスカー・バルナックはカール・ツァイス財団で10年間働いたけど、正社員にして貰えなかったのでライツ社で働く事にしたらしい。 ツァイス社とライツ社とは技術者レベルでも「技術の土俵」で因縁の試合を繰り広げていたのである。
現代でも使える光学性能
ILCE-9 Red Scale Elmar 5cm F3.5 ISO:125 F:3.5 Tv:1/30s |
焦点距離51.6mm
さて、1930年代当時のピント合せはレンズの繰り出し量をメカ的にカメラへ伝え、カメラはレンズの繰り出し量に応じてプリズムが回転してニ像を一致させる距離計が搭載されていた。 初期のライカ標準レンズ Elmar 5cm F3.5 の実際の焦点距離が 51.6mm に仕上がっていたのである。 それ以降、ライツ社は勿論キヤノンやニコンなど世界中の光学業界は50mm標準レンズの焦点距離は51.6mmになってしまった。ライカの距離計は無限遠から1mまで連動する様になっているんだけど、焦点距離51.6mm用のヘリコイドに50mmぴったりのレンズを載せちゃうと、1mの被写体にピントを合せた場合にピントが1.78mmもズレてしまい、ドピンボケ写真になってしまう。
焦点距離が51.6mm以外の交換レンズには、レンズを繰り出すヘリコイドとは別の駆動量をカメラに伝えるカム等が必要になりちょっと面倒になる。 51.6mmならレンズの繰り出し量をそのままカメラに伝えるだけで良い。
不思議な事に、距離計とは何の関係も無い一眼レフ用の50mm交換レンズも昔から焦点距離が51.6mmなんだよねぇ。 だれか『俺の50mmレンズは焦点距離が51.6mmもあるじゃねぇか!』と、サービスセンターに怒鳴り込んでくれないかなぁ。(あっ、51.6mmじゃないメーカーもあるので注意)
近距離撮影能力
ILCE-9 Red Scale Elmar 5cm F3.5 ISO:400 F:3.5 Tv:1/30s |
銀塩時代にはライカ距離計の最短撮影距離が1mだったので、近距離撮影は出来なかった。 近接撮影アダプターもあったけど、いちいち装着したり外したりするのは面倒だしね。 結局、距離計が連動する範囲でのみ使っていたので、Elmar 5cm F3.5 でこんなに背景をボカした写真は経験が無かった。
夜景描写
SONY ILCE-9 Red Scale Elmar 5cm F3.5 ISO:3200 F:3.5 Tv:1/10s |
玉ボケ具合
SONY ILCE-9 Red Scale Elmar 5cm F3.5 ISO:3200 F:3.5 Tv:1/25s |
これからも大事に使いたいレンズである。