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| CANON MACRO LENS New FD 200mm 1:4 |
レンズ単体で等倍までのマクロ撮影が出来る望遠マクロレンズである。 ライバルのニコンは1979年にハーフマクロ仕様の Micro-Nikkor 200mm 1:4(IF) を発売していたので、等倍仕様にして後追いで製品化したのだろう。
CANON MACRO LENS New FD 200mm 1:4 - 1981年発売
レンズ構成
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| レンズ構成 |
6群9枚構成の望遠マクロレンズで、無限遠から等倍までフォーカスでき、フォーカシングは第1~4レンズと第5~7レンズとを逆方向に移動させる独特な方式だ。 ただし、パワー配置が変化するので、無限付近では焦点距離が200mmだけど、至近端(等倍)では焦点距離が140mmまで短くなる。 接写では撮影倍率が主なパラメータなので、焦点距離の変動はあまり気にならない。
蝶などを大きく写せる撮影倍率0.5倍の時(撮影距離は0.76m)なら、レンズ先端から被写体までは0.514mだし、等倍撮影時(撮影距離は0.58m)でも、レンズ先端から被写体までは0.316mなので、それなりにワーキングディスタンスを確保できる。
等倍状態では実効F値がF5.6相当になるけど、距離環位置に応じて変化する実効F値に合わせて、レンズ後部にある8枚の絞り羽根開口径が連動して変化する。 ただし、絞り駆動レバーが開放状態にある場合は絞り羽根が全開状態なので、一眼レフのファインダーだと絞り込み操作をしない限り、接写状態で周辺光量が豊富に感じるけど、実撮影画像では「ちゃんと」周辺光量落ちが現れる。 絞り径の変化は距離環の位置に応じで絞り駆動ピンが前後に10mmほど移動し、駆動ピンを受ける絞り駆動レバーの受け部を斜めにする事で実現している。
フォーカシング
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| 等倍の状態 |
ニコンの Micro-Nikkor 200mm 1:4(IF) はハーフマクロ(ニコンなのでハーフマイクロかな)仕様だったけど、インナーフォーカス方式だった。 キヤノンはフォーカシングで前玉が伸びて来るけど、第1~4レンズ(第1移動群)と第5~7レンズ(第2移動群)とを夫々逆方向へ移動させる事で、前玉系の繰り出し量や収差変動を抑えている。
なお、第1移動群はヘリコイドで繰り出されるが、第2移動群はカムで移動させていて、無限遠付近では第2移動群は殆ど移動しないが、10mより近距離側で像面側に移動し始めるバリピッチカムになっている。
また、焦点距離が200mmで等倍まで寄れるマクロレンズなのに、距離環の回転角は280度ほどしかない。 このため、距離環敏感度が非常に高いのが困りものだ。 ピントを合わせられない訳じゃないけど、ベストなピント合わせにとても神経を使う。
フォーカスガタの補修
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| 補修中のレンズ |
フォーカシングにはヘリコイド(第1移動群)とカム(第2移動群)が用いられていて、経年の使用でガタが発生してしまう。 一応、ピントは合わせられるし
CANON FD 400mm F4.5 S.S.C. の様な最悪なレベルではないけど、このレンズは距離環敏感度が高いので、距離環上で1mmほどのガタがエラク気になるのだ。 ただ、このレンズはネットを調べても分解方法・手順などが判らないので、自分の直感を信じて分解するしかない。
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| 摩耗した直進コマ |
第1移動群系の移動筒を外してみると、ガタの原因は第1移動群系の内筒に設けられている、2個+1個の直進コマが摩耗・溶解しているのが原因だと判った。 このレンズの直進コマは金属製コマの周りに樹脂を被せてある様だけど、潤滑剤で溶けたり摩耗したらしい。 代替できる直進コマが無かったので、暫定的に直進コマに熱収縮チューブを被せて摩耗・溶解した樹脂の代用とした。 直進溝に挿入してみるとガタが激減し、熱収縮チューブが外れたりはしないが、摩耗してダムになる懸念はある。 ついでにヘリコイドを清掃して新しいグリスを塗布したので、フォーカスフィーリングが新品の様になり実に気持ちが良い。
今回は暫定的な補修だけど、恒久的には直進コマを直進溝幅に適合する摺動板を作成して交換した方が良いと思う。 一般的なヘリコイド機構では面で接触する直進キー(摺動版)を使うのに、接合部が点で接触して摩耗しやすい直進コマにしたのは大きな設計ミスだったと思う。 なお、第2移動群に使うカムコマは問題無さそうだった。
なお、このレンズを分解してみて判ったことがある。 従来のFD・New FDではレンズを固定するのにネジによる押さえ環を使うのが一般的だったけど、このレンズは押さえにCリングを多用している事に驚いた。 設計した奴を呪ってやりたいほど、Cリングの脱着が面倒だった。 これではサービスでのメンテナンス性が非常に悪いので、どこかの時点で直進コマを含めて設計変更してるんじゃないかと想像している。
内蔵フード
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| 内蔵フード |
レンズ先端に内蔵フードが組込まれていて、内面が植毛風になっているフードを前方に引き出して使用する。 フードは引き出した状態でロックはできないけど、鏡筒の収納ポジションと使用ポジションとに微妙な段差があり、強めの「圧入感」があるのでスカスカな内蔵フードではない。 懐が狭い内蔵フードだけど、植毛風の内面処理により反射が少ないので充分に有効なフードだと思う。
なお、フードが内蔵されているのにフィルター枠にはバヨネット爪が装備されている。 このバヨネット爪は MACROLITE ML-1 等を装着するのに用いられ、望遠用フード BT-58 を装着する事も出来る。 ちなみに、MACROLITE ML-1 は外部調光式なので、等倍接写の時は+1段分の補正が必要で、F8で撮影するなら ML-1 の設定絞りを F11 にするか、ML-1 の設定フィルム感度を1段下げる必要がある。 TTL調光システムを持たないメーカーは調光補正が面倒で、昆虫写真家などの多くはオリンパスへ流れたと思う。
三脚座
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| 他レンズ用三脚座を流用 |
New FD 300mm 1:4 などと同仕様の脱着式三脚座が付属していた...ハズだけど、このレンズは中古で入手した時から欠品していた。 僕が持っている三脚座を探してみたら、サイズがぴったりの物があったので、このレンズで使い易くなる様に追加工して使っていた。 この手のレンズは普段持ち歩くときに三脚座は邪魔だし重いので、外したまま紛失しちゃう事が多いのだろう。 僕もこのレンズを散歩に持ち出すときは三脚座を外しちゃうんだよねぇ。
エクステンダー対応
このレンズには1.4倍の EXTENDER FD 1.4x-A は物理的に装着できないけど、2倍は使用できる。 ただし、通常は焦点距離が300mm以上のマスターレンズに使うEXTENDER FD 2x-A が適合製品になっている。 収差特性が超望遠レンズに近いのかも知れない。 ただし、EXTENDER FD 2x-A を使うと開放値がF8まで暗くなっちゃうし、単体でも高いフォーカス敏感度が更に高くなるので、使う気にはならないけどね。
描写特性
遠景描写
以下の写真は SONY ILCE-9 で撮影したRAW画像をIE Edit Ver.4.0.00.10311 にて、ホワイトバランスは太陽光に設定し、Dレンジオプティマイザーはオフに設定して現像してあります。
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り:F11 |
絞り:F16 |
絞り:F22 |
絞り開放の画面中央付近は結構良い描写で、画面周辺は少しソフトな感じだ。 F5.6に絞ると画面中央付近は素晴らしい描写になり、画面周辺も良い描写だ。 F8に絞ると画面周辺まで素晴らしい描写になり、F11やF16だと画面隅でも素晴らしい描写だ。 F22まで絞ると回折の影響でボヤけが判る。 なお、なだらかな周辺光量落ちがあり、F11で解消されるまでだらだらと改善して行く。
等倍まで接写出来るマクロレンズだけど遠景描写もなかなか優秀だと思う。 開放F値が明るい訳じゃないので当然かも知れないが、遠景から接写までこなせる望遠レンズは有難いが、距離環に触れただけでピントが微妙に変わるほど距離環敏感度が高いので、ピント合わせに神経を使う。
マクロ描写(平面複写)
以下の写真は SONY ILCE-9 にて倍率0.67倍で撮影したRAW画像をIE Edit Ver.4.0.00.10311 にて、ホワイトバランスは6200°Kに設定し、Dレンジオプティマイザーはオフに設定して現像してあります。
倍率:0.67x 絞り:F4 |
倍率:0.67x 絞り:F5.6 |
倍率:0.67x 絞り:F8 |
倍率:0.67x 絞り:F11 |
倍率:0.67x 絞り:F16 |
倍率:0.67x 絞り:F22 |
絞り開放の中央部は少しソフトだけど、F5.6で充分な描写になりF16まで同じだ。 F16より絞ると回折の影響でボヤけ始める。 画面周辺は被写体面と撮像面とのスケアリングが不十分なので判断が難しいけど、画面左下隅に着目すると中央付近と同じ傾向の様だ。 また、画面隅では倍率色収差もある様で、絞り開放より絞り込んで周辺光量が増えると余計に目立つ。 なお、周辺光量落ちがあり、F4からF22までだらだらと改善して行く。
平面接写はスケアリング調節が難しいので、ちゃんとしたコピースタンドが必要だけど、僕には平面を複写したいものは無いので持ってない。
マクロ描写(立体物接写)
以下の写真は SONY ILCE-9 にて倍率1.0倍で撮影したRAW画像をIE Edit Ver.4.0.00.10311 にて、ホワイトバランスは白色蛍光灯に設定し、Dレンジオプティマイザーはオフに設定して現像してあります。
倍率:1.0x 絞り:F4 |
倍率:1.0x 絞り:F5.6 |
倍率:1.0x 絞り:F8 |
倍率:1.0x 絞り:F11 |
倍率:1.0x 絞り:F16 |
倍率:1.0x 絞り:F22 |
絞り開放ではソフトな感じだけど、立体物の等倍撮影では被写界深度が極薄なので強くソフトに感じるのだろう。 F5.6に絞ると深度も広がってシャープ感も良好になり、絞るほど深度が広がって行く感じだ。 この被写体では絞りF8の描写がシャープ感・深度具合・ボケ具合が僕の好みだ。
なお、手持ちで撮影するのは困難で、三脚を使わないとピント合わせが出来ないし手振れの影響がが酷い。 この撮影では三脚とスライダーを併用してカメラ・レンズ全体を動かしてピント合わせしたいる。
一般描写
以下の写真は SONY ILCE-9 で撮影したRAW画像をIE Edit Ver.4.0.00.10311 にて、ホワイトバランスはオートに設定し、Dレンジオプティマイザーもオートに設定して現像してあります。 なお、記載の絞り値などはボケ老人の「記憶」に頼っているので間違っているかも知れません。
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F8 |
絞り:F4 |
絞り:F8 |
絞り:F8 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F8 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
絞り:F4 |
遠景でも絞り開放からなかなかの描写で、絞れば更に描写が良くなる。 接写の絞り開放ではソフトな感じだけど、焦点深度が極浅のせいかも知れない。 適切な深度になる絞りを設定すればかなりシャープな描写になる。
合焦部分では問題ないけど、飽和する様な高輝度部分での小さなボケの周りに、前ボケでは紫色で、後ボケでは緑色が付く「色ボケ」がある。 大騒ぎするほどじゃないけど、ボケ味が悪くないので「色ボケ」は少し残念だ。
この季節は蝶や虫が居ない季節なので、梅や桜の花をクローズアップ撮影してみた。 散歩中に撮影しているので、手持ち撮影だとピント合わせやブレの影響などにとても神経を使う。 フォーカス敏感度が高いので、距離環を少し回せば❝ピントが飛んで来る❞のは感動的で便利だけど、ジャスピンにするのはエラク難しい。 また、グイグイ寄るほどシフトブレが目立つ様になり、カメラボディ側のブレ補正が効かなくなるので、ビシっとした写真を撮るのは更に難しくなる...けど、挑戦的な撮影が楽しい。
焦点距離200mmだとオールドレンズ遊びには長すぎるけど、寄りたくても寄れないフツーの望遠レンズと違って、寄って撮るのが好きな年寄りにはワーキングディスタンスの長さが嬉しいマクロだ。 このレンズは散歩に使いたくない200mmという欠点より、「寄れる」事は正義だと思わせる利点の方が上回る楽しい変態レンズである。
あとがき
冒頭で、1979年に Micro-Nikkor 200mm 1:4(IF) が発売されていたと書いたが、Medical NIKKOR Auto 200mm F5.6(フォーカスは1/16倍で固定)も望遠マクロレンズに分類すれば、ニコンは1962年には望遠マクロレンズを製品化していた事になる。
現代の高画素デジタルカメラならトリミングしても充分使用可能なので、中望遠マクロレンズで事足りる時代になってしまった。 もう、望遠マクロなんて必要ないのかも知れない。
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