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| レンズ構成 |
10群10枚構成の標準ズームで、移動方式が凹パワーの前群と凸パワーの後群だけのシンプルな2群ズームである。 キヤノンの田島氏が設計したレンズで、大昔に特許公報のレンズ構成を見た時に『田島さんの設計は美しくない構成だなぁ』と感じた...今でも。 ところが、当時の2倍程度の標準ズームとしては明るいし悪くない性能だったと記憶している。
2群ズームは光学系の全長が大きく変化するが、このレンズの鏡筒はズーミングしても全長が一定である構造のため、コンパクトなレンズではない。 鏡筒全長が変化する様にすればテレ端でコンパクトになっただろう。 しかし、鏡筒全長が一定なので、テレ端では前群が鏡筒の奥へ引っ込むた事から、有効なフードとしても機能する。 フォーカシングは前群繰出し方式で、最短撮影距離が1mと異常に遠い(前群繰出し方式の欠点)けど、ズームリングの「▲」スライダーを押しながらワイド端を越えるとマクロモードになる。 このワイドマクロは前群位置は同じで後群のみを繰り出す様なカムカーブになっている。 マクロモードでの光学性能は別にして0.3mまで寄れるのは便利だった。 ワイド端マクロは後群のみ繰り出すので、いわばズームを50mmにして全体繰り出しした状態にしているので周辺光量を確保出来るのだ。 なお、絞りは8枚羽根で、少し絞った程度なら多角形感は気にならない。
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| フィルター装着手順 |
フィルターはΦ58mmで、距離環の内側にある前群枠に装着する。 鏡筒全長が変わらいので、ワイド端&最短撮影距離にしないとフィルターの脱着が出来ないし、PLフィルターの使用は難しい。
また、距離環の先端には左右(無限遠なら)に切り欠きがあり、この切り欠き部分があるおかげでフィルターの脱着を行えるという妙な構造だ。 恐らく、最初から距離環を短くすればフィルターの脱着に問題は無いのでけれど、レンズの前群に衝撃を与えるとカムコロが破損することから衝撃ガードとして距離環の一部を長くしたのだろう。 切り欠きはフィルターを脱着するための苦肉の策なのだ。
なお、ゴム製のクランプオン式フード W-69 が用意されていた。 W-69 を装着した状態では標準装備のカブセ式キャップを装着出来ないが、Φ67mmの一般的なキャップが丁度はまる。
レンズの補修
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| レンズの補修 |
カムコロがすり減ってレンズ群がガタガタする様になっていたので、カムコロを再生する事にした。 恐らく前群のガタ・倒れが光学性能に大きく影響するので、わざわざ前群を保護する鏡筒構造になっているのだろうから、前群のガタは補修しておきたい。 実際にはズーム用のカムコロも補修しないとフォーカス用のメスヘリコイド環がガタついてしまうけど、今回はフォーカス用のカムコロだけを補修する。
分解してみると、樹脂製のカムコロが摩耗・劣化してベトベトになっていて、カム溝との隙間が大きく空いてガタついていた。 Φ3.6mm(カム溝幅)の樹脂コロを新しく作れば良いのだけれど、面倒なので手持ちパーツで適合しそうな物で間に合わせ、コロの止めネジはプラスネジに変更しておいた。 ちょっと不安があるけど、もう滅多に使わないから大丈夫だろう...多分。 気が向いた時にズーム系のカムコロも補修してあげようと思う...思うだけかも。
前群を取り出してみると、密封されている内部のレンズ面が曇っている事が判った。 不思議な事に第5レンズの片面だけが曇って、第4レンズは綺麗な状態なのだ。 第5レンズを綺麗に清掃したので、組み上げたレンズを覗いてみてもスッキリ抜けている。 これなら描写には問題はないだろう。
ちなみに、前枠(切り欠きガートリング)を外す場合はイモネジを緩めるだけにして、イモネジを抜いてしまわない様にしましょう。 老眼では抜いた小さなイモネジを再度ねじ込むのに難儀する。
描写特性
遠景描写
以下の遠景描写の写真はRAW現像時にホワイトバランスを6000°Kに設定し、Dレンジオプティマイザーをオフにして現像しています。 なお、50mmでの開放値をF3.2としたけど、本当の開放値は判りません。 また、絞り値はワイド端の絞り指標を使っています。
焦点距離:35mm
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り:F11 |
絞り:F16 |
35mmでの絞り開放では画面中央が少し眠いけどしっかり写っていが、画面隅はぼやけた描写だ。 F4に絞ると画面中央から周辺にかけてしっかりした描写となるが、画面隅はまだぼやけた感じが残る。 F8まで絞れば画面隅でも良い描写になる。
劇的な周辺光量落ちがあり、この特性のまま前群を大きく繰出すと「周辺光量落ち」ではなく「ケラレ」になってしまう事から、最短撮影距離を1mに制限しているのだろう。 35mm端では絞りF8で気にならなくなり、絞りF16で周辺光量落ちが解消される。
焦点距離:50mm
絞り:F3.2 |
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り:F11 |
絞り:F16 |
50mmでの絞り開放では解像感はあるけど画面全体がフレアっぽい描写だ。 F4に絞るとフレアっぽさが消えて画面隅も良い描写となり、F5.6以上に絞れば素晴らしい描写となる。 周辺光量落ちはあるけどワイド端ほどは目立たなく、絞りF8で解消する。
焦点距離:75mm
絞り:F3.5 |
絞り:F4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F8 |
絞り:F11 |
絞り:F16 |
70mmでの絞り開放では若干ソフトな描写で、画面周辺に行くほどフレア感が出て来る。 F4に絞ると画面周辺のフレアっぽさが消えて画面全域で良い描写となり、F5.6以上に絞れば素晴らしい描写となる。 周辺光量落ちはあまり目立たなく、絞りF5.6で解消する。
一般描写
以下の一般描写の写真はRAW現像時にオートホワイトバランスに設定し、Dレンジオプティマイザーをオフにして現像しています。 なお、記載の焦点距離や絞り値はボケ老人の「記憶」に頼っているので間違っているかも知れません。 また、50mmでの開放値をF3.2としたけど、本当の開放値は判らないのと、絞り値はワイド端の絞り指標を使っています。
f=35mm 絞り:F2.8 |
f=35mm 絞り:F5.6 |
f=35mm 絞り:F2.8 |
f=50mm 絞り:F3.2 |
f=50mm 絞り:F5.6 |
f=Macro 絞り:F2.8 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=70mm 絞り:F5.6 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=70mm 絞り:F8 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=35mm 絞り:F2.8 |
f=35mm 絞り:F8 |
f=50mm 絞り:F3.2 |
f=35mm 絞り:F2.8 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=35mm 絞り:F2.8 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=35mm 絞り:F2.8 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=50mm 絞り:F3.2 |
f=Macro 絞り:F2.8 |
f=Macro 絞り:F2.8 |
f=Macro 絞り:F2.8 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=35mm 絞り:F2.8 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
f=Macro 絞り:F2.8 |
f=35mm 絞り:F2.8 |
f=70mm 絞り:F3.5 |
画面中央付近は絞り開放から単焦点レンズなみに解像していてシャープに写る。 画面周辺でも四隅以外は頑張っている方だと思う。 遠距離や風景撮影で左右がカットされるプリントなら絞り開放でも結構使えるだろう。 F5.6に絞ればワイド側以外は画面隅でも良い描写になる。 近距離撮影では平面撮影でなければ、画面7割ほどまでに主被写体を置く限り周辺の描写劣化は気にならないので、充分に使えるレンズだと思う。
ボケ味は悪くないと感じるが、寄れないので大きな後ボケを作り難い。 Macro状態にすれば大きな後ボケを作れるが、フレーミングが限られてしまう。 なお、輝点の玉ボケがちょっと独特だけど、嫌らしさは無いので楽しくボカせられる。
逆光フレアが多く、青空なら気にならないけど、強いハイライトがあるとコントラストが低下する。 また、太陽を画面内に入れるとゴーストが発生するけど激しい程ではなく、フレアによるコントラスト低下の方が気になる。
テレ側の糸巻型歪曲収差は目立たない程度だけど、ワイド側の樽型歪曲収差は被写体によっては気になるかも知れない。
発色はFDレンズ群共通の派手過ぎない素直な発色なので、FDレンズを使っているならレンズ交換で気にする必要は無いだろう。
通常ズーム域では最短撮影距離が1mまでしか寄れないのでイライラする事が多く、ワイド端マクロを多用する事になってしまう。 ワイド端マクロのは画面隅の描写はイマイチだけど、画面中央から周辺にかけては悪くない解像感だ。
ちなみに、オールドレンズをデジタル一眼に装着して撮影して手振れ補正機能を使用していると、手振れ補正に設定した焦点距離と異なると逆効果になるのでイライラする事がある。 35-70mmなら手振れ補正の焦点距離を50mmにしておけば概ね対応出来ている感じだ。
あとがき
CANON FD 35-70mm 1:2.8-3.5 S.S.C. は、たかが2倍の標準ズームにしては、大きくて重いレンズだ。 後に発売された
TAMRON 35-70mm F3.5(Model 17A)は小型・軽量で「MODセレクター」搭載だったし、各カメラに装着出来る便利さから17Aを多用していた。 MODセレクターとは焦点距離ごとに最短撮影距離が変化するもので、35mm端で最短撮影距離の0.9mを越えて繰り出そうとすると自動的に焦点距離がテレ側に変化してくれる、シームレスな一種のテレマクロ方式で、70mmでは0.25m(撮影倍率0.36倍)まで寄れたので、少なくとも『寄れない!』とイライラする事は無かった。
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