GRAFLEX Miniature Speed Graphic - 1939年発売

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GRAFLEX Miniature Speed Graphic - Anniversary
GRAFLEX Miniature Speed Graphic - The Anniversary

 アメリカのグラフレックス社による報道向けの2x3インチ版木製カメラで、1939年から1946年まで生産された。 外装はマホガニーウッドにモロッコ革仕上げで、4x5インチ版の Speed Graphic と共に日本では「スピグラ」の通称で高い知名度を誇ったカメラである。

GRAFLEX Miniature Speed Graphic - The Anniversary

フォーカルプレーンシャッター幕
シャッター幕
 Speed Graphic はシャッター速度を24種類に設定可能な固定幅マルチスリット式のボディーシャッター(フォーカルプレーンシャッター)が搭載されていた事が大きな特徴である。
 ふんどしと呼ばれる長いシャッター幕に長短5種類の固定スリットが開いていて、露出量に応じてスリットを選択する。 また、シャッター幕を走行させるテンションが6種類あり、スリット幅選択とテンション選択とにより24種類のシャッター速度を実現している。
 30種類ではなく24種類なのは最後のスリットがタイム露光用だからで、シャッター速度は6×4=24種類(タイムを加えれば25種類)となる。 このタイプの Speed Graphic は The Anniversary と呼ばれる。

レンズボード周り

レンズボード周り
レンズボード周り
 カメラの前蓋を開けてレンズボードをレール上に引き出して固定する。 距離計を調整しておき、無限遠設定用のストッパーを用いれば距離計との連動も可能だ。
 現代のカメラとは異なり、フィルムセットや巻き上げとシャッターチャージは個別に操作する。 木製だけどそれなりに強度はあるんだけど、各部材の精密さが低く『アメリカンなカメラだなぁ』と感じてしまう。 なお、レンズボードは堅い樹脂製で脱着レバーをスライドして締め込んで固定する。
樹脂製レンズボード
樹脂製レンズボード
 僕の経験談として、レンズボードを本体レールから引き出して前蓋レールに固定するのだけれど、レンズボード下に加締め式でテンションピンが取り付けられている。 このテンションピンが壊れるとレンズボードがレール上で固まってしまうので右往左往してしまう。 特にボディー内の本体レール上で壊れると、レンズボードを引き出せないので途方に暮れてしまう。 加締めピンなので修理が難しいけど、ピンが脱落しない様に工夫すれば何とか操作は可能になる。 実は故障や破損に備えて部品取り用のカメラを確保してある。

カメラバック(背面インターフェイス)

グラフロック仕様のカメラバック(ピントグラスユニット装着)
カメラバック

 カメラバック(背面インターフェイス)は「グラフレックス」仕様で、ピントグラスユニットからロールフィルムホルダーに交換できるのだけれど、後に共通化が図られる「グラフロック」仕様ではないので、楽に交換できる訳ではなかった。
 なお、「グラフロック」仕様バックに変更する金属製バックも販売され、僕のカメラは「グラフロック」仕様に変更されている。

バック(フォーカルプレーン)シャッターシステム

テンション選択とスリット選択とレリーズレバー
テンション・スリット選択
 カメラ右側面に制御機構があり、シャッターのテンション選択窓とスリット選択窓がある。 テンション選択とスリット選択によるシャッター速度マトリクスはカメラに記載されているが、所望のスリット幅より短いスリットにチャージしてしまったら、所望の組合せになるまでレリーズする必要がある。 左写真の例では「選択スリット:C」で「選択テンション:3」なので、1/280秒という事になる。
シャッター速度マトリクス表
速度マトリクス表
 バックシャッターを利用する場合はレンズシャッターは開けておき、ボディ右サイドにあるレリーズレバーでシャッターを動作させる。 なお、カメラ背面左上にバックシャッターのシンクロ接点が設けられている。 当然だけど、レンズシャッターを利用する場合はバックシャッターをタイム状態にして開けておかなければならない。
 いづれにしても、シャッターをセットして撮影準備が整うまでフィルムの引き蓋を装着したままにして、フィルムが感光しないようにする。

ピントグラス

ピントグラス
ピントグラス

 Speed Graphic には連動距離計が備わっているが、連動するレンズ以外に交換した場合は撮像面でピントを確認する必要があるので「Speed Graphic」じゃなくなってしまう。
 ピントグラスは擦りガラスタイプなので暗いしピント合わせに難がある。 僕はフレネルが付いた明るめのピントグラスに交換してあるけど、ピント合わせにはルーペで拡大する必要があり、ルーペを忘れると「感
」を働かせてピントを合わせるしかない。
 なお、カットフィルムホルダーであればピントグラスユニットに差し込んで撮影出来るけど、ロールフィルムホルダーはピントグラスユニットを外してロールフィルムホルダーに交換してからの撮影となり面倒だ。

ロールフィルムホルダー

ロールフィルムホルダー
ロールフィルムホルダー

 僕の Miniature Speed Graphic は「グラフロック」仕様のバックに交換してあるので、ロールフィルムホルダーへの換装も簡単だ。 ロールフィルムホルダー背面に“23”と書かれているのが6x9cm版で120フィルムで8駒の撮影ができる。 ただし、“23”と書かれていても6x9cm版ではなく6x8cm版もあるので確認が必要だ。 他にも“22”と書かれた6X7cm版もあったりする。 なお、グラフレックス社のロールフィルムホルダーは新しい「グラフロック」仕様にも古い「グラフレックス」仕様にも装着できる。

カットフィルムホルダー

カットフィルム ホルダー
カットフィルム ホルダー

 カットフィルムホルダーも木製で、ピントグラスユニットとボディ本体の間に差し込んで使用する。 カットフィルムホルダーは両面にフィルムを入れられるので一つのホルダーで2駒の撮影が可能だが、今となっては使ってる人は居ないだろう。 カメラを飾っておくならロールフィルムホルダーではなくピントグラスユニットとカットフィルムホルダーが似合う。

距離計

カラート社製の距離計
カラート社製の距離計

 カメラの右横にカラート社製の距離計が備わっていて、レールの前後動をアームを介して角度に変換して距離計ミラーを回している。 この距離計はカバーを外して調整する事が可能で、使用する標準レンズ(100mm、101mm、105mmなど)に応じて予め調整しておく必要がある。 あまり頻繁に調整を繰り返すと、カバーを止めている木ネジの穴がバカ穴になるので木工用ボンドなどで補強した方が良い。
 カメラが厚いので、眼を距離計に近づけて覗くことが出来ないが、ファインダーじゃないし、等倍像なので大きな問題ではない。 距離計から伸びた筒(単なる筒)を介して距離計像を覗き見る感じだ。 等倍像なので、基線長は上下の丸窓の間隔そのもので、精度的な問題はないだろう。

レーザーポインタで照射
レーザーポインタ照射
 また、豆電球内蔵の照明装置が付いていて、夜間などの暗黒環境で上下の距離計窓から光を照射して被写体上で光点が一つに合えば合焦となる補助装置である。 何せ豆電球なので実用的にはイマイチだけど、レーザーポインタを使って照射してみると見え具合も精度的にも案外イケる事が判る。 でも使わないなぁ.....

標準レンズ

OPTAR 101mm F4.5
OPTAR 101mm F4.5

Ektar 101mm F4.5
Ektar 101mm F4.5
 標準レンズは Rodenstock の OPTAR 101mm F4.5 や Kodak の Ektar 101mm F4.5 などが装着されていた。 Kodak製の Ektar レンズはシリアル番号で製造年が判るようになっていて、先頭のアルファベット2文字が西暦の下2桁を表現していて、それぞれ
  C A M E R O S I T Y
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 0
を表している。
 手元にある Ektar を調べてみると、ER(1945年)、ES(1947年)、RC(1951年)、RM(1953年)となっていた。 勿論、レンズボードを介して他のレンズも装着でき、テッサー型の Ektar も良いレンズだけど、解像感が高い Xenotar 80mm F2.8 や 湿度感のある Heligon 95mm F2.8 などもイイ感じだ。 でも、それらのレンズは LINHOF Super Technika V23 で使っている。

取り扱い説明書

カメラの取り扱い説明書
カメラの取り扱い説明書
 カメラの説明書は一読した方が良いだろう。 読み物としてもなかなか面白い。 時代のヘアスタイルとスーツで決めたスピグラ姉さんが可愛い。

あとがき

David Burnett's Speed Graphic
David Burnett 紙

 フォーカルプレーンシャッターがあるので、レンズシャッターを持たないハイスピードレンズや古いバレルレンズでも使えるという利点がある。
 ただし、4×5in版なら Kodak Aero Ektar 178mm f/2.5 等の銘玉を使っているカメラマンを知ってるけど、2×3in版のハイスピードレンズはレンズシャッター搭載玉が殆どだ。 という事で、僕の場合はフォーカルプレーンシャッターを使う機会はほとんどないのである。
 唯一の利点は、レンズシャッターにはない1/1000秒の高速シャッターが使える事だけど、実際のシャッター速度はかなり怪しくなっている。

 この写真は2012年ロンドン五輪の体操会場で見かけた、スピグラで撮影の準備をする David Burnett氏 である。 デジタル一眼レフはキヤノンを使っていたけど、その後はちゃんとソニーのαに変更していた。

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