Nikomat FTN - 1967年発売

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Nikomat FTN - 1967年発売
Nikomat FTN - 1967年発売

 Nikomat FTN は1967年に日本光学工業から発売されたカメラで、ニコマートは今野康裕氏が1980年に創業したコンビニエンス・ストアである。 たぶん、両者には何の関連も無い。
 僕が十代だった頃に使っていたカメラが Nikomat FTN で、天体写真でも何でもこのカメラで撮っていたので、人生で最も使い倒したカメラと言えるだろう。

Nikomat発売の流れ

 Nikomat FTN には先代機たちがいて、名前は違うけど最初の機種は1962年発売の NIKKOREX F だ。 世界初の縦走りフォーカルプレーンシャッターである「コパルスクエアⅠ型」を搭載したカメラをマミヤが開発し、それをFマウント化してOEM供給された中級機が NIKKOREX F である。 当時、NIKON F の 67,000円(5cm F2付き)に対して 39,800円(5cm F2付き)と低価格を実現したが全然売れなかった。

 一念発起して自社開発したカメラが、1965年に\45,000円(50mm F2付き)で発売された Nikomat FT(海外での商品名は Nikkormat FT)で、それを改良して1967年に発売されたのが Nikomat FTN \46,000円(50mm F2付き)である。 ちなみに、露出計を内蔵していない Nikomat FS は 37,800円(50mm F2付き)で、NIKKOREX F より安かった。

ニコンじゃない不遇のカメラ

Nikomat はニコンブランドじゃない不遇のカメラ
Nikomat はニコンブランドじゃない不遇のカメラ

 終戦後の1946年に日本光學工業は35mmカメラの名を、後のブランド名となる「ニコン」と決定した。 にも拘わらず、NIKON というブランド名を付けないで Nikomat という名前にした経緯は想像するしかないが、OEM機であった NIKKOREX F の販売不振から中級機に NIKON を冠するのを躊躇したのだろう。

 結局「NIKON」ブランドを付けて貰えなかったレンズ交換式一眼レフは1962年の NIKKOREX F に始まり、1976年の Nikomat ELW まで続いたが、その後のカメラは「NIKON」ブランドを付けて貰える様になった。

シンプルな軍艦部

シンプルな軍艦部
Nikomat FTN の軍艦部はシンプルだ

 軍艦部には 巻き上げレバー/シャッターボタン/フィルムカウンター/絞り込みボタン/露出計メーター/巻き戻しクランク が配され、フォーカルプレーンシャッターカメラに特徴的なシャッターダイヤルはない。 シャッターダイヤルがないだけで随分とシンプルな雰囲気になる。

 そういえば、軍艦部の露出計メーターは意外と便利だった。 三脚にカメラを据えて夕暮れに撮影していると露出がどんどん変わるんだけど、ファインダーを覗いても確認が出来ない。 そんなとき、軍幹部のメーターを見ながら露出を調節していた。

シャッター速度設定リング

シャッター速度設定リング
マウント基部のシャッター速度設定リング
シャッター速度設定つまみ
速度設定つまみ

 Nikomat FTN の特徴はシャッター速度設定リングがマウント基部にある事だろう。 シャッター速度設定つまみはレンズ脱着ボタン側にあり、左手で操作する事になる。 つまり、シャッター速度変更操作と絞り値設定操作とピント合わせ操作は全て左で行い、右手は巻き上げ操作とレリーズ操作に集中できる。 僕はこの操作性がとても気に入っていて、NIKON F のシャッターダイヤル操作は面倒に感じていた

 なお、普及機の位置づけだけどミラーアップ機能も装備されている。 レンズ脱着ボタンの上方にミラーアップレバーがあり、下へ押し下げるとミラーアップ(ダウンすればアップかい!)する。 これは、当時発売されていたレンズにはミラーアップしなければ装着出来ないレンズがあったので必須仕様なのだろう。

フィルム感度設定

操作性が悪いフィルム感度設定
操作性が悪いフィルム感度設定

 シャッター速度リングにフィルム感度設定部があるけど、指の爪が割れそうなほど操作性が悪い。 頻繁に感度を変える訳じゃないけど、もうちょっと操作し易い様に突起などを付けて欲しかった。

ガチャガチャ

レンズの開放F値指標
レンズの開放F値指標

 最初に「ガチャガチャ」を搭載したカメラが Nikomat FTN だった。 「ガチャガチャ」とは、装着するレンズの開放F値をカメラに設定する作法の事で、ニコン信者の間で名付けられた宗教上の呼び名である。
一応、レンズ装着の作法を説明すると、

  1. カメラの絞り連動ピンをレンズ着脱ボタン側に突き当てる
  2. レンズの絞り環をF5.6にしてカニ爪と連動ピンとを合わせ装着する
  3. レンズを回してちゃんとロックする
  4. 絞り環を最小絞りまで回す(ガチャ1)
  5. 絞り環を開放F値まで回す(ガチャ2)

この操作の事を「ガチャガチャ」と呼び、ニコン信者の伝統作法となっていた。

ファインダー内部

Nikomat FTN のファインダー視野
Nikomat FTN のファインダー視野

 Nikomat FTN のファインダーには右側の露出計メーターに加えて、下側にシャッター速度設定値が表示される。 表示されるシャッター速度は1段高速側と1段低速側も黄色で表示されるので、シャッターリングをどちらに回せば良いかが直感的に判る。 これ加えて絞り設定値も表示されていれば素晴らしかったんだけどねぇ。

 僕はファインダーをアイピース上側から覗く癖があるので、ファインダー上方はとても覗き難い。 なので、NIKON Pfotomic FTN のファインダーより Nikomat FTN の方がシャッター速度を確認し易い。 難点を挙げるとすれば情報表示部に暗い被写体があると確認し難い事だろう。

 記憶が定かでないが、ファインダースクリーンはマイクロプリズムタイプかスプリットプリズムタイプかを選べた気がする。

サビの補修処理

サビの処理 左:処理前 右:処理後
サビの補修処理 左:処理前 右:処理後

 実は、手元にあるこの Nikomat FTN は3台目である。 初台と2台目は盗難に遭ってしまい、3台目は姉から貰い受けたカメラである。 長年使われていなかったカメラで、カビ臭がするボロボロのハードケースは捨てた。
 ボディー各部にサビガ浮いているし積年の汚れも酷く、電池液漏れで露出計も動かない。 しかし、レンズ内部はクリアだしシャッター各速もちゃんと切れていた。
 そこで、ストロボ接点付近のサビを「秘密の液体」で補修処理してみて綺麗になる事を確認し、ボディー全体にサビ補修処理を施してスッキリさっぱりさせた。
 
上の写真は撮影用に固定して試し処理したものなのでサビが取りきれていない部分もあるが、比較すれば随分と綺麗になる事が判るだろう。

あとがき

1975年8月11日 室蘭 Nikomat FTN Nikkor-S.C Auto 50mm F1.4
1975年8月11日 室蘭 Nikomat FTN Nikkor-S.C Auto 50mm F1.4 Tri-X

 Nikomat FTN を触っていると若かった頃の一駒が記憶の片隅から蘇ってくる。 野宿しながら蒸気機関車を撮影に行ったこと、Nikkor-N 24mm F2.8 は大好きなレンズだったこと、Zoom Nikkor 200-600mmは青ハロが酷過ぎて直ぐに手放したこと、アルバイト代の殆どは撮影機材に注ぎ込んでいたこと...などなど。

 そして時代は昭和から平成・令和へと移り、今は娘が僕のクラシックなカメラで写真を楽しんでいる...青春の記憶を撮るために。

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