Lens Gentrification | 高級レンズ化

カメラメーカーは高級レンズ路線へ?
最近のカメラメーカー製交換レンズは、ミラーレス化やマウント変更に際し、自社製品の高級レンズ化に邁進中だ。 カメラメーカー各社は独自マウントを採用して、膨大な自社レンズを擁していた。 一眼カメラと交換レンズはシステム製品であり、一台のカメラに対して複数の交換レンズを買って貰うことで大きな利益を出していた。 つまり、レンズマウントによるユーザーの囲い込みが、高利益率のレンズを沢山売る鍵なのである。
これは、あくまでも私の想像です

サードパーティー

タムロンの各種ADAPTOR2マウント
前世紀の昔、カメラメーカーがマウントによるユーザーの囲い込みを行っている傍らで、サードパーティー製の互換レンズが発売される様になった。 そう、タムロンやシグマやトキナーなどなどである。
銀塩時代のマニュアルフォーカスレンズでは、シグマは各カメラメーカー用にマウント固定の互換レンズを発売していたが、タムロンはどのカメラメーカーのマウントにも交換できるADAPTOR2マウントにより売り上げを伸ばしていた。
サードパーティー製のレンズはカメラメーカの純正レンズに比べて非常に安価で、庶民でも買える値段が魅力だったが、光学性能はL版プリント向けという感じだった。 でも、色んなカメラが好きな僕にとっては、各カメラメーカーの交換レンズを揃える事は不可能なので、マウント交換式のタムロンレンズは神様の様に有難かった。


互換レンズって作れるの?

LEICA R5 と TAMRON SP 17mm F/3.5(151B)
カメラメーカーとしては、利益率の高い交換レンズ分野をサードパーティーに食い荒らされては困るけど、マウント関連の特許ライセンスなどによる「上納金」を収めることで、生産を認めていたんだと思う...多分。 それに、レンズ性能はメーカー純正に遠く及ばないので、大きな脅威では無かったのだろう...恐らく。
こうして、サードパーティー製互換レンズという分野が確立していった。 また、場合によってはカメラメーカーがサードパーティーにレンズの生産委託やOEM調達を行ったりして、「持ちつ持たれつ」的な関係が構築されていたのだ。

あくまでも個人の感想・印象・想像です


銀塩マニュアルフォーカス時代

K2DMD と TAMRON ADAPTOR2 35-70mm F/3.5(17A)

CANON EF と TAMRON SP 80-200mm F/2.8 LD(30A)
マニュアルフォーカス時代の一眼レフだと、1976年発売のCANON AE-1が大ヒットし、ワインダーを装着したAE-1をよく見かけたものだった。 ちなみに、このCANON AE-1は、それまで主流だった「高級カメラの外装は真鍮製」という常識を覆してABS樹脂製にしたのだが、樹脂の上に金属メッキを施すことで、あたかも真鍮製の様な質感に仕上げていた。
この頃のサードパーティー製レンズとしては、1979年発売の TAMRON ADAPTOR2 80-210mm F/3.8-4(03A) 49,500円 などが良く見かけるレンズだった。 個人的には常用レンズとして便利だった TAMRON ADAPTOR2 35-70mm F/3.5(17A) を愛用していた...発色がエラクあっさりしていたけど。

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銀塩オートフォーカス時代

NIKON F100
1985年にMINOLTA α-7000が発売され、一眼レフもオートフォーカス時代に突入する。 キヤノンも遅れてオートフォーカスカメラを発売するが、これまでのFDマウントを捨てて、完全電子マウントのEOSシリーズに移行した。 EOSシリーズで良く売れたのが、1993年発売のEOS Kissである。 価格はEF28-80mm F3.5-5.6IIUSM付きで89,000円で、その後のシリーズ機も含めて化け物の様に売れた。 また、制御・情報の高度化に伴い、タムロンの交換式マウントAdapuor2は絶滅した。

この頃になると、大手量販店がズームキットやダブルズームキットを独自に販売する様になり、カメラはKissだけど、レンズはシグマやタムロンという現象が多くなった。 この手のカメラをダブルズームキットで購入するユーザーは、追加で交換レンズを買う人は殆ど居ないので、カメラメーカーにとっては痛手となる。

しかし、互換レンズという分野を放置して来た為、今更排除するのは民事的にも難しいのである。 特に、相手が互換レンズしか作っていない場合はね...逆に言えば、独自のカメラも作り始めてるサードパーティーに対してなら『他人のフンドシで相撲を取るな!』と排除する事も可能だったハズだ。

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サードパーティーの台頭

SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art

SIGMA 120-300mm F2.8 DG HSM | Sports
デジタル時代に突入しても、安価なサードパーティー製レンズを組み合わせたズームキットは無くならなかった。 今やレンズ性能に大差が無くなってしまい、利益率を削ったサードパーティー製レンズに、カメラメーカーが太刀打ち出来るハズもない。 カメラメーカーたちが悶々としながら製品開発をしていた2012年、シグマが新しいレンズシリーズ SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art を発売した。 カメラメーカー純正レンズより光学性能が勝り、価格は安いという衝撃の製品シリーズだった。
これまではカメラメーカーも、利益率の低い初級レンズには目をつぶってきたが、利益の根幹を揺るがす高級レンズ分野を侵されては堪らない。 ニコンとタムロンは良好な関係だったが、特許侵害を続けて他人のフンドシで相撲を取るシグマを訴えに出たのである...心情は判る。 徹底的にコストダウンして、安めのレンズを高そうに売るキヤノン的な製品展開じゃ無かったニコンにとっては、高級レンズ分野は死守しなければならない。

ところが、シグマはArtシリーズやSportsシリーズの高性能レンズを次々と発売し、シグマ=高性能レンズという知名度を手に入れてしまった。 最も、猿が設計した様なレンズ配置と阿呆っぽいメカ設計により、シグマ=大きくて重いというレッテルも定着した。

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ミラーレス時代 - マウント変更へ

CIPA DILC Shipped Number
さて、各メーカーとも出荷数量が年々減少に転じた事は判っていたハズだ。 2012年以降の減少傾向は幼稚園生でも認識できるレベルなので、経営者も認識していただろう。 デジタル一眼の市場規模が小さくなれば、取るべき手段は三つだ。

  1. 主要プレーヤーから撤退する
    市場シェアが低いメーカーは、CMOSセンサーや電子パーツ・ソフトウェアの調達・開発に掛かるコストを回収して利益を上げることは難しい。 経営者が『カメラが好き』だったり、『それを許す』株主でない限り、赤字を放置するのは如何なものか。 事業に携わる社員は『お荷物事業』と囁かれ続け、心は離れてしまうだろう。 撤退するなら早めに判断すべきだ。
  2. シェアを100%にしちゃう
    利益を出し難い安価な製品クラスであっても、他メーカーを圧倒して自社の出荷数量を維持し、シェアをどんどん上げる方法もある。 その為には、他社より良いものをリーズナブルな価格で提供しなければならないので、利益率の更なる低下は免れない。 後のことは勝ってから考える阿呆タイプの作戦だが、この様な手法を取れるのは主要な高額パーツを内製しているメーカーでなければ厳しいだろう。 高額なCMOSセンサーを外部から調達しているカメラメーカーは利益を出すのが難しいからだ。 とはいえ、そのうち市場自体が激減するので、体制を維持する事は難しいだろう。
  3. 高利益率商品にシフトする
    先に書いた手段とは異なり、数量が減少しても利益を確保できる商品にシフトするのも懸命な手段だ。 シフトには数年掛かるだろうし、それを可能にするブランドであるかも考慮しなきゃならない。 生産数は減るので、生産現場を縮小する必要があるし、優秀な人材だけは残しておかなければならない。 ライカの様に『異常に高価だけど、光学性能はトップで、ブランド的に信頼できる』なんてのが成功例とも言えるだろう。

Eマウント Zマウント
キヤノンはEOS EFマウント時代にもEF-SというAPSCサイズ用下位互換マウントを作っていたけど、ミラーレス時代に向けて2012年9月に新しい内径φ47mmのEF-Mマウントを採用したEOS Mを発売した。 キヤノンは2002年にEOS-1Dsという35mmFullSizeカメラを発売しておきながら、FullSizeミラーレスカメラに向かない小口径マウントにしてしまったのだ。 恐らく、内径φ46.1mmのソニーEマウントに準じた設計にしたのだろうけど、将来のシステム設計など何も考えなかったに違いない。
そして、2013年11月に35mmFullSizeカメラであるSONY α7シリーズがAPSCサイズマウントのEマウント発売された。 キヤノンがビックリしたのは想像に難くないが、『失敗した!』と思ったに違いない。

2018年になって、ニコンは35mmFullSizeミラーレスにも余裕で対応できる、内径φ55mmのNikon Zマウントシリースを発売し、キヤノンは内径φ54mmのRFマウントという新しいマウントを再度作ったのである。 このRFマウントはEF-Mマウントと互換が無いので、手持ちのEF-MレンズをRFマントに装着できないし、アダプターも無い。
『どうせ交換レンズを追加購入しないアマチュアにはマウントなんてどうでも良い』という事なんだろう。

さて、マウントを新しくしたので、サードパーティー製のレンズが侵食してくる前に、高利益率のレンズを拡充しておく必要があるし、この際なので値段もアップいておきたい。 そして、サードパーティーが高利益クラスレンズに追従し難い様に、自社純正レンズの光学性能を高性能にしなければならない。 この様な理由もあり、新しいミラーレスマウント用のレンズは「真面目」に設計された高性能なレンズシリーズが先行しているのである。 また、ニコンさんは外部との協業が多く、Fマウントレンズではタムロンへの生産委託などで高性能なレンズを比較的安価に供給していたし、Zマウントでは優秀なコニカミノルタの設計による NIKKOR Z 35mm f/1.8 S を発売したりしている。 これから発売される NIKKOR Z 24mm f/1.8 S が誰の設計なのか知らないけど、ミラーレス用の 20mmF1.8 とか 24mmF1.8 とかは真美さんが特許出願していたなぁ...

一方、ニコン・キヤノンを追っていたソニーは、自社の最先端CMOSセンサーを搭載したカメラが売れる事を優先し、Eマウントレンズを製造するための仕様を提示している。 ソニーのレンズ生産拠点でもあるタムロンは、ソニーEマウントレンズを沢山生産しているので、「お得意様」と喧嘩する必要は無いので、17-28mm F2.8 FE とか 28-75mm F2.8 FE など、「お得意様」の王道とは仕様が異なるEマウントレンズを発売して人気を博している。 ソニーにとっても、レンズシステムの選択肢が充実するのを歓迎しているだろう。

ちなみに、シグマが携わったと思われるレンズは、オリンパスのM.Zuiko色々やパナソニックのLEICA DGなど多数あり、タムロンが携わったと思われるレンズは、ZEISS BatisやSONY FE色々やNIKKOR色々...などなど。

あくまでも個人の感想・印象・想像です


これからどうなる?

DSLR vs DML
2016年からのDILC(Digital Interchangeable Lens Camera)出荷推移は右肩下がりだ。 これは、DSLRの出荷数量が右肩下がりになっていのが大きい。 一方、DMLは2016年末からほぼ横ばいといった感じだし、直近の出荷数量を見ると、決して増えている訳ではない。 BCN何とかで、『....しかし、蓋を開けてみると期待したほどの変化は生まれていない。』って書いてあったけど、僕は『期待してたのはあんただけじゃね?』って思った。 ミラーレス化はDILCの出荷激減を食い止めるために必死なだけなのだ...多分ね。

さて、商品構成を高利益率商品にするには、基本性能をぐっと上げて、価格もぐっと上げる必要がある。 そこで、各社ミラーレスマウントの光学性能と価格は右肩上がりになった。 でも、光学性能に関するマウント優劣は...あまり無いと思う。 光学設計に優位なマウントを採用したメーカーは、声高に自社マウントの優位性を強調するけど、光学性能の優劣はメーカーの設計思想や光学設計者のセンスによるところが大きいと思う。 ただし、口径が小さなSONY EマウントはIBISとして動かせるセンサーのストロークが小さいため、驚愕の防振性能には出来ないだろう。 大きな手振れを補正しようとすると、マウントでケラレてしまうのだ...多分。

ソニーは一眼レフ時代のαAマウントを放棄した様だし、カメラメーカーとして後発なので、Eマウントの情報を公開(取捨はしてる)して、互換レンズを作ることを認めている。 これにより安価で魅力的なレンズが増え、35mmFullSizeミラーレスでは大きな勢力となった。 彼らはSONY製のCMOSセンサーが沢山出れば良いので、他社も沢山採用してくれれば嬉しいハズだ。 レンズの性能も重要だけど、センサーによりカメラの性能や機能が決まってしまうので、裏面照射センサー技術や積層センサー技術など、最先端のセンサーをカメラに採り入れ易い利点がある。
また、ソニーさんとタムロンは遠い親戚みたいなものだから、協業関係も深い。 タムロンはEマウントレンズを多数製造していたけど、自社ブランドでは発売していなった。 しかし、ここにきて、ソニーと丸被りしない仕様で自社ブランドでEマウントレンズを発売してきた。 この関係はしばらく続くのだろうけど、タムロンの巨大工場が中国工場なので、日中関税戦争が悪影響しないか気になるところだ。

さて、ニコンさんもソニー製センサーを使っているだろうけど、センサーは高額で重要なカメラパーツだ。 ソニーが搾取するセンサーの諸経費などを積み上げると、カメラの利益率をかなり圧迫するハズだ。 ニコンさんは存亡を賭けて、高利益率レンズを死守する必要があり、S-Lineシリーズを拡充しているのだろう。 また、S-Lineより下の安価なレンズは作らないで、高性能で高額なレンズだけにする可能性もある。

一方のキヤノンは、技術的に劣るけど自社のセンサーを調達しているので、利益は出し易いだろう。 ただし、高級なブランドイメージじゃないので、数で勝負するしかない。 数をこなすには安いレンズは不可欠なので、価格も性能も安めのレンズも出してくるだろう。 しかしながら、市場はドンドン縮小しているので、ソニーとシェアを二分するのがやっとだと思う。
このあたりがNIKON Z6やZ7は高いと感じ、SONY α7Ⅲは高性能なのに安いと感じ、CANON RPは安いだけと感じる理由なんだと思う。
ちなみに、ソニーの仕様をパクった高級コンデジを発売する様になったけど、コントラストAFのままだったり仕様がチグハグなのは、CMOSセンサー調達関連と自社技術関連が原因の様な気がする...王者キヤノンのブランドなら買っちゃう人はいるだろうけどね。

あくまでも個人の感想・印象・想像です

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