Soft Focus Lens & Thambar | ソフトフォーカスレンズとタンバール

EOS 5D Mark II + EF135/2.8Soft:EF135mm F2.8 Softfocus

ソフトフォーカスレンズ

EF135mm F2.8 Softfocus
銀塩時代にはハイライトが滲んだ様な写真を後加工で作るのは面倒だったので、ソフトフィルターを使って撮影時に滲んだ効果を加える事が当たり前だった。 また、ソフトフィルターを使うのではなく、レンズの球面収差を意図的に大きく残したレンズをソフトフォーカスレンズと称して発売されていた。

EOSの黎明期である1987年に発売されたキヤノンの EF135mm F2.8 Softfocus は非球面の第四レンズを移動させる事でノーマル状態でもソフトフォーカス状態でも撮影出来る様になっている。 このレンズはオートフォーカスレンズなので、ソフト効果の掛け具合で大きくピント位置が変化してしまうため、ピント位置を電動で補正する工夫がなされている。 ノーマル状態でピント合わせをした後にソフト効果を掛けたとしても再AFなしでピントの補正駆動を行ってくれる。
既にディスコンになっているし、売れ筋レンズじゃ無かったけど、このレンズは手放さずに未だに持っている。

鏡筒の作りはお世辞にも良いとは言えない...イヤ、ハッキリ言って随分とチープな質感でカメラに装着しても不格好で貧相だ。 道具としてマニア心をくすぐる事は一切なく、哀れささえ感じさせるレンズである。


ソフトフォーカス効果

EOS 5D Mark II EF135mm F2.8 Softfocus(Soft:0) F:2.8

Soft:1


 ソフトフォーカスレンズを設計した事は無いけど、EF135mm F2.8 Softfocus はレンズのソフト目盛をゼロ→1→2へ切換えるに従って球面収差がアンダー側(補正不足)に倒れて行く。

ソフト1の状態でも球面収差はかなり補正不足で充分にソフトな写真になるけど、ソフト2の状態だと更にホッカホカのフレアー写真になる。 ソフト0だと普通の135mmレンズの描写で、中央付近の解像は結構良いが像面湾曲がアンダーに倒れているので遠景の周辺画質は良いとは言えない。
Soft:2

構成図を見ると、非球面レンズの屈折パワー自体は弱く、球面収差をオーバー側(補正過剰)に発生させる効果を担っている様だ。 このレンズを像面方向に移動させて補正過剰の効き量を弱くする事で球面収差がアンダー側に倒れてソフト効果を出しているんだろう。 設計した訳じゃないので、あくまでも推測ですが...

Soft:0

EOS 5D Mark II EF135mm F2.8 Softfocus Soft:0
ソフト効果を掛けないで撮影すると普通の135mmレンズだ。 素晴らしい画質という訳じゃないけど、普通に充分使える135mmといった感じ。 この状態での前ボケは素直な感じだけど、後ボケはちょっと汚い。 解像力を優先した球面収差にしちゃった様だ...素人の光学設計って感じだなぁ。

ところで、このレンズは非球面レンズを一枚使用していて、その非球面レンズを光軸方向に移動する事で球面収差のコントロールを行っている。 言い換えれば、球面収差を制御するレンズが非球面なので、設計基準位置(Soft:0)に収まっている場合は球面収差が小さくなる様な非球面形状になってるハズで、基本的な光学性能は高いと言える。

EOS 5D Mark II EF135mm F2.8 Softfocus Soft:0 F:2.8
EOS 5D Mark II EF135mm F2.8 Softfocus Soft:0 F:2.8
そこで、左写真の様に玉ボケ状態を観察してみると、点光源の玉ボケに非球面成形型の切削痕が年輪状・玉葱状に観えてしまっている。 当時の金型製作精度だとは思うけど、これもちょっと残念だ。

Soft:1

EOS 5D Mark II EF135mm F2.8 Softfocus Soft:1
ソフト効果が1の設定でも結構なフレアーが発生するんだけど、ハイライト部分を少なくするとフレアーが目立たなくなりクラシックな雰囲気を出すポートレートに良いかもしれない。 ハイライトの滲み方はソフトフィルターとかアプリじゃ真似できない仕上がりになる。 ちなみにこの写真はソフト効果を1に設定したままEOS 5D Mark II で撮影しているが、適切なピント合せにのおかげでしっかりと芯のあるフレアー写真になっている。 EOSに装着して撮影する場合はちゃんと自動ピント補正が働いているのだ。

Soft:2

EOS 5D Mark II EF135mm F2.8 Softfocus Soft:2
ソフト効果を2に設定して背景にハイライトを入れ込んでみた。 激しいフレアー写真になるけど、ピントの芯があるので『何が何だか判らない』って事にはならないので、幻想的で面白い仕上がりになる。

ちなみにSONY α9等の撮像面AFカメラにマウントコンバーターを介して合焦させると、最もコントラストが良くなる様にピントを合わせてくれるので芯のあるフレアー写真にならないで、単なるピンボケ写真になってしまう。

LEICA THAMBAR 90mm f2.2

LEICA THAMBAR 90mm f2.2 引用:blog.leica-camera.com
大昔のソフトフォーカスレンズといえば 銘玉 THAMBAR 90mm f2.2 だと言われる。 勿論、僕は持ってないし使った事も無いけど、現代の最新レンズの様なシャープで解像力が高いレンズが無かった時代では、中途半端な性能のレンズより思いっきり軟焦点なレンズで撮影した方が新鮮だったんだろう。

高解像レンズがもてはやされる現代なのにライカから軟焦点レンズタンバールが復刻されるそうだ。 復刻版はコーティングの変更などを行い光学設計は継承しているらしいけど、価格は継承しないで 税込84万2,400円 だそうです。 たった3群4枚構成の軟焦点レンズにこの値段を付けられるのはライカだけだろう。 ちなみに、1935年に発売された THAMBAR 90mm f2.2 の生産本数は3000本にも満たないらしいけど、復刻版が3000本売れたら25億2千7百万円の売り上げになる...すげぇ。

さて、このタンバールは確か球面収差をオーバーにしたレンズなので前ボケは良いけど、背景を中途半端な後ボケ量で撮影するとボケの輪郭が固い写真(使った事が無いので想像です)になっちゃうので、普通はアンダーにすると思うんだけど何かしらの意図があるハズ。 タンバールには中央遮蔽のオプション絞りが付属していて、これを装着すれば球面収差のフレア部分だけを使った超軟調写真が撮影出来る。 ただし、中央遮蔽しちゃうと反射望遠レンズと同様なリングボケになるんだけど、これが面白い効果だったんだろう。 それを考えれば輪郭が硬い方がリングボケには効果がありそうだ。

作例写真を見てみよう

LEICA THAMBAR 90mm f2.2の作例 引用:dpreview
ところで、THE LEICA CAMERA BLOGの作例写真を見ると、不思議な事に後ボケの輪郭が固い印象はない。 撮影データが判らないので確かな事は言えないけど、後ボケのボケ量が普通より小さく感じるので、撮影倍率が1/150倍くらいだとフォーカス面と無限遠とでのピント差は0.6mm程度である事から、2mmはあるであろうオーバーな球面収差の半分にも満たないという事になる。

接写した時の無限付近の後ボケでない限りフレアーに埋もれてしまってリングボケにはならない。 逆にデフォーカス差が大きく発生する前ボケに点光源を配置してもリングボケにはならないのである。

前ボケ優先の設計思想はそんな計算があったのかも知れない...だとすると恐るべし。 このレンズを設計したマックス・ベレクは賢くて写真を良く理解していたんだろうなぁ。

LEICA THAMBAR 90mm f2.2の作例 引用:dpreview
一転してバストアップのモデル写真では背景の点光源がリングボケになっている事が判る。 モデルまでの距離が2.25mで背景の点光源までの距離が6mだとすると、デフォーカス差は2.38mmとなり球面収差量を超えてしまう。 こうなるとフレアーに埋もれるんじゃ無くオーバーな球面収差によるリングリング&グルグル主張が強まってしまうのだろう。 この効果を面白いと感じるか気持ち悪いと感じるかは好みによる。

いづれにしても LEICA THAMBAR 90mm f2.2 は僕には買えない値段なので、チープで不格好で貧相な EF135mm F2.8 Softfocus を使い続けよう。
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