 |
Nikon NIKKOR-N・C Auto 1:1.4 f=35mm |
その昔、友人たちから『バカ玉』と揶揄されたレンズだったけど、僕はクセのあるバカ玉が好物だった。 今でもゲテ物・クセ玉は大好物である。
NIKKOR-N・C Auto 1:1.4 f=35mm - 1971年発売
一眼レフ用35mm広角レンズとしては世界初のF1.4という明るさを持つレンズである。 発売当初の製品は銘板に❝C❞記述は無かったけどマルチコートが施されていて、後に❝C❞が付加されて NIKKOR-N・C Auto 1:1.4 f=35mm となった。 ❝C❞記載が無い初期のレンズは9枚絞りだったらしいけど、どの程度生産されたのかは知らない。 本レンズは7枚絞りである。
レンズ構成
 |
レンズ構成 |
このレンズは7群9枚構成のレトロフォーカス型で、アンジェニュー社の古典的レトロフォーカス型とは異なるアプローチが見られる。 基本的な構成は負パワー先行なのだけれど、最前群を凹レンズ2枚で構成し、最後群は凸レンズは3枚で構成して収差をなだめる様にレンズを配している。 NIKKOR-O 35mm F2 と同様に絞り前方の空間を厚い接合レンズで埋める事で前玉径が抑えられている。
NIKKOR-N Auto 1:2.8 f=24mm と同様に距離環の回転に応じた近距離補正機構が搭載されていて、近距離撮影でも画面周辺の描写が保たれる...とされている。 恐らく、内筒全体の繰り出しの他に絞りより後ろ側のレンズ群を更に移動させている様だ。 このレンズの構造で気になるのは絞り羽根が接合レンズに近すぎる事で、絞り羽根が第4レンズ裏面に接触する事があると思われる。 僕の個体は昔から絞り羽根のカタチが第4レンズ裏面にうっすらと付いてしまっている。
F1.4という明るい仕様は高屈折率硝材などが使える様になったおかげだったのだろう。 その高屈折率硝材が酸化トリウム含有硝材である。 この硝材により高性能なレンズ設計が可能となる反面、トリウムが発する放射線により長い時を経てブラウニング現象が生じて黄変した個体が多い。 後の製品(多分1976年発売の New NIKKOR から)では設計変更が行われ、酸化トリウム含有硝材不使用となったので黄変が発症した個体は無い...ハズだ。 なお、酸化トリウム含有硝材を使わなくなったのは黄変対策ではなく、放射性物質管理や公害対策だったと想像している。 レンズを研磨すると酸化トリウムやら鉛やらが削られて河川に流されたり土壌に染み込んでいるハズだ。 昔にレンズ研磨工場があった場所は土壌改良処理しないと安心できない。
描写特性
遠景描写
絞り開放ではかなりフレアっぽく、ベール越し写真の様な描写になる。 ソフトフォーカスレンズだと思って使うしかないところが「バカ玉」と言われる所以だ。 F2に絞ると描写が豹変し、画面周辺では若干モヤっとしているけど中央はスカッとヌケが良い描写となる。 F2.8まで絞ると極四隅以外は良好な描写となり、中央長辺端でもなかなか良い描写だ。 ただし、極四隅はF5.6以上に絞らないと描写が良くならない。 風景撮影で極四隅も必要なら
F8まで絞った方が良いけど、プリント時に長辺がカットされるのならF4でも充分使える。 なだらかで情緒のある周辺光量落ちがあるけど、F2.8まで絞ると殆ど判らなくなってしまう。
夜景描写
絞り開放では点光源に派手なフレア発生し、周辺も派手にサジタルコマフレアが発生する。 また、白色輝点には色収差による青フレアが発生している。 F2に絞ると中央のフレアは消えるけど、周辺のコマフレアは少し残っている。
F2.8に絞ると四隅付近以外のコマフレアはほぼ消える。 F4まで絞れば四隅でも点光源が点光源的に描写される。 なお、7枚絞りなので輝点に14本の光芒が現れるけど、6枚絞りの様な強い光芒にはならない。
一般撮影
絞り開放ではベール越しの様にフレアがかった描写で、後ボケには黄色味を帯びた輪郭のシャボン玉ボケが現れる。 1段絞ればリング状や2線ボケの傾向が少なくなってしまうが、画面周辺はフレアっぽさが残った描写だ。 F2.8に絞った描写はバカ玉の面影が無くなってしまい、極四隅は流れ気味でF5.6以上に絞らないと良くならない。
ディストーションは樽型で、近距離になるほど樽型ディストーションが大きくなる。 ただし、近距離撮影ではディストーションが気になるシーンは少ないだろう。
また、距離環の無限遠から0.3mまでの回転角が NIKKOR-O 35mm F2 とほぼ同じ180度で、被写界深度が浅いF1.4レンズとしては敏感度が高すぎると感じる。 僕にとっては回転角が270度くらいならピント合わせが楽になったと思う。
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F1.4 |
絞り:F5.6 |
絞り:F5.6 |
絞り:F2.8 |
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
絞り開放ではソフトフォーカスレンズの様に滲むバカ玉だけど、背景のシャボン玉ボケを存分に楽しめる。 また、F2.8に絞れば四隅以外は普通に写るレンズになってしまう。 絞り設定により描写特性を変化させられるレンズだと思えば楽しく使えるオールドレンズだ。 ただし、
紫外線照射によるブラウニング対策を施しておくべきだ。 処置しないとAWBを使っても発色が
男色暖色系に寄り過ぎる場合がある。
あとがき
実はこのレンズ、大昔に住んでいたアパートのコンクリート外階段で落っことして大破したレンズなのだ。 コンクリ階段を跳ねて転がり落ちて行く状況をスローモーションの様に覚えている。 その結果、前群も割れてヘリコイドも動かない様な状態になったけど、修理されて帰ってきたレンズである。 全損事故かと思ったけど、距離環・ヘリコイド・破損レンズなどなどを交換・修理された様で、使い込んでいた外観で面影が残っていたのは絞り環だけだった。 レンズを振ると内部でカタカタと音がするけど、分解はしないでバカ玉としての光学性能は変わらないと信じて愛用していた。
Sponsored Link
0 件のコメント :
コメントを投稿