Canon PELLIX QL - 1966年発売

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Canon PELLIX QL
Canon PELLIX QL
 Canon PELLIX QL は1965年に発売されたキヤノン初のTTL測光機構を搭載した一眼レフカメラ Canon PELLIX に Quick Loading 機構を追加した改良機である。 半透明な厚さ20ミクロンの極薄フィルムを通常のミラー位置に固定したカメラで、一眼レフの弱点であるレリーズ中の視野像が消失しないという特徴を備えていた。

Canon PELLIX QL

 キヤノンカメラミュージアムの説明によると『ハーフミラーを使用している関係から、フィルム面に達する光量が約1/2段分減少するが、長時間露光の場合でもファインダー内の視野像が観察できるので多くのユーザーに愛用された。』と記述されているけど、そんなに愛用されていた様子はない。 レリーズ中でも視野像を観察できると言っても、ある程度絞った状態でレリーズするとレリーズ中にファインダーが暗くなって、クイックリターン式ミラーと大差ないので恩恵は少ないと感じた。

 シャッターは2軸式の金属幕横走行フォーカルプレーンで、兄弟機種である Canon FT QL の布幕とは仕様が異なっている。 これは常にシャッター幕に映像が形成され続けるため、太陽像によりシャッター幕が焼損するのを防ぐ必要があるからだと思われる。 ミラーが動かないのでレリーズ音はクイックリターン式一眼レフより静かで、布幕シャッターだったらもっと静かなレリーズ音になっただろう。

 また、撮影光量が半分になるデメリットに加え、ファインダー像も暗いというデメリットを補うために明るいレンズ付きを選択すると、FL 50mm F1.4付きの58,800円に対して FL 58mm F1.2付きは70,800円に跳ね上がってしまう。

 レリーズ中でもファインダー像が見えている事より、像面光量やファインダー光量の減少の方が嫌だと思う...僕はね。 メーカーも PELLIX の利点を考えた様で、ミラーが動かない利点を活かしてバックフォーカスが短い専用パンケーキレンズ CANON FLP 38mm F2.8 を発売していたけど、売れたという話は聞いていない。 玉数が少ないせいかプレミアムが付いて中古価格が異常に高価なレンズになっている。

上下カバーを外して錆取りと清掃
外装の清掃開始
 さて、僕の Canon PELLIX QL は、隠居生活を始めたらボケ防止として分解・修理するつもりで、十数年前にジャンク品を購入したカメラである。 スローガバナーが固着していて、ペンタプリズム蒸着に腐食が広がっているし、ペリクルミラーやレンズにもカビがあり、触りたくない部類の可哀そうなカメラだったけど、露出計は活きている。 一応、外装の錆や汚れを落とし、ペリクルミラーの清掃やレンズの分解清掃は行った。 スローガバナーの清掃はミラーボックスを外すのが面倒なので放置とし、ペンタプリズム蒸着の腐食も真空蒸着機を持ってないので放置とした...ので、修理になってない。

Canon PELLIX QL 各部

シャッター速度ダイヤル周り

シャッター速度ダイヤル周り(清掃漏れが判る💦)
シャッターダイヤル周り
 配置は普通の一眼レフと同じで、巻き上げレバーとシャッター速度ダイヤルとレリーズボタンが配置されていて、レリーズボタンにはロックレバーも装備されている。 シャッター速度ダイヤルはASA感度設定ダイヤルも兼ねている。 困ったことに、ASA数値の文字が小さすぎて老眼では判別不能だ。 なお、Canon FT QL などはシャッター速度ダイヤルが黒色仕上げだったけど、Canon PELLIX QL はシルバー仕上げになっていた。

露出計用電池室

電池室奥に CANON BOOSTER 用接点がある
露出計用電池室
 巻き戻しクランク横に電池室が設けられていて、CANON FT シリーズと共通である。 使用電池は1.3Vの水銀電池 H-D型を1個使用し、現代では電池アダプターを用いてLR44が使える。 この電池室の底には電池接点とは別の接点穴があり、CANON BOOSTER の接続に用いられる。 確か CANON FTb-N までは電池室に CANON BOOSTER 用の接点が設けられていた...と思う。 ちなみに、BOOSTER 用の接点は滅多に使う事も無いので、経年で接触が悪くなる。 CANON BOOSTER を使う場合は接点復活剤などで接触を回復しておこう。

ファインダー視野

プリズムの蒸着腐食により黒いカゲリが沢山ある
ファインダー視野
 ファインダー視野にはメーター指針と定点マークがあるだけのシンプルなな視野だ。 視野中央部に丸いマイクロプリズム領域があり、その外側にある横長の範囲が画面12%の部分測光範囲を表している。 絞り込みレバーにより絞り込み状態にするとミラーボックス内に測光センサーが立ち上がって測光が開始され、絞りとシャッター速度を調節してメーター指針を定点に合わせれば適正露出になる。

 なお、この個体のペンタプリズムには蒸着の腐食があるので、視野内に黒いカゲリが(肉眼で覗くと写真よりも多くのカゲリが見える)沢山あって非常に見難い。 また、ペリクルミラーによる減光反射もあって明るいファインダーではない...イヤ、暗いファインダーだ。 CANON FT系も含めてジャンクカメラの殆どが腐食しているので代替パーツの入手は難しい。 可能なら腐食した蒸着を剥離して、新たに銀蒸着して少しでもファインダーを明るくしたいものだ。

ペリクルミラーと測光センサー

絞り込みレバーを押すとペリクルミラーの奥に測光センサーが現れる
ペリクルミラーとセンサー
 左写真のマウント開口内に見える(見えにくいので認識できないと思うけど)のが固定式のペリクルミラーで、その奥に透けて見えているのがCdS測光センサーである。 測光センサーの面積は測光方式が異なる FT QL と同じ画面12%相当部分の面積を持っていて、絞り込んだレンズの光量を測定する部分測光方式だった。 ペリクルミラーはフィルム面への光量が約1/2段分減少すると言われているが、ファインダーへの反射光量に関しては明確にされていなかった思う。 実際にはファインダーが非常に暗いので、個人的な感想ではファインダーには1/3ほどの光量しか届いていない気がする。

マウント側の遮光板を外し、シャッター側からバネを外し、マウント側へ取り出す
ペリクルミラーの取り外し
 ミラーが跳ね上がる通常の一眼レフは主ミラーにゴミが付いたりしても撮影結果には影響しないが、固定のペリクルミラーは付着したゴミや汚れは撮影結果に影響してしまうので、ペリクルミラーを綺麗に保つ事が重要だ。 カメラマウント内の遮光板を外し、シャッター側からミラーボックス内の長いコイルスプリングを外せば、ペリクルミラー枠がマウント側に取り出せる。ペリクルミラー表面と裏面を優しく清掃して元に戻しましょう。 僕はペリクルミラーのカビを取るために拭き過ぎて、細かいキズを付けてしまった。💦
 なお、シャッターをバルブ状態で開けたままにするので、作業中にシャッター後幕が走ってしまうと悲惨な事になる。 バルブで先幕を走らせたら、レリーズボタン周りのロックレバーでレリーズボタンを押したままロックし、バルブ状態を維持させておけば安心だ。

遮光板にRレンズ用の穴が開いている
Rレンズ用穴
 ちなみに、カメラマウント内の遮光板右下にはFLレンズには関係ない丸穴が開いている。 これは一世代前のRシリーズレンズ用の丸穴で、Rレンズに設けられていた「自動絞り実行ピン」を逃がすための穴で、Rシリーズレンズでも装着・撮影が可能なハズだ。

セルフタイマー 兼 絞り込み 兼 測光レバー

セルフタイマー 兼 絞り込み 兼 測光レバー
絞り込み兼測光レバー
  セルフタイマーレバーは絞り込み兼測光開始機能とを兼ねている。 反時計回りに倒せばセルフタイマーとして機能し、時計回りに倒せば
絞り込み兼測光開始となる。
 レバーを操作してレンズを絞り込む(絞り込み状態で保持可能)と、シャッター前面に測光センサーが立ち上がり測光が開始される。 この状態でシャッター速度や絞り値を操作してメーター指針を定点に合わせれば適正露出となる実絞り込み測光方式である。 なお、測光センサーが現れている状態ではレリーズボタンがロックされていてシャッターは切れない。

アイピースシャッター開閉ダイヤル

アイピースシャッターは横移動の開閉式
アイピースシャッターダイヤル
 巻き戻しクランク部にアイピースシャッター開閉ダイヤル兼バッテリーチェックダイヤルが設けられている。 ポジションにすればメーター指針が振れてバッテリー状態を確認でき、ポジションならアイピースシャッターが開いていて、ポジションならアイピースシャッターが閉じる仕様である。 右の写真はアイピースシャッターを半分閉じた時で、アイピースの右横からシャッターが出て来る。
 カメラの外装には露出計メーター表示は無いので、ファインダーを覗かないと露出計が見えない事から、アイピースシャッターを標準装備する意味は無さそうだけど、レリーズ中でもファインダー逆入光がミラーボックスへ到達して撮影結果に影響するので絶対必要なのだ。 また、後述する低照度測光用の CANON BOOSTER を利用する場合にはファインダーを覗かないので、アイピースシャッターを閉じてファインダー逆入光の影響を排除する必要がある。

バッテリチェック手順の記載
B.C.手順の記載
 バッテリーチェックはASA感度を「100」に設定し、シャッター速度を「X」にしてからダイヤルをバッテリーチェック位置に回してメーター指針を確認する。 この設定手順は説明書に記載されているが、巻き戻しクランクを持ち上げると青文字で記載された設定手順が現れる。 親切ではあるけど、巻き戻しクランクを持ち上げると書いてある事に気が付く人は少ないかも知れない。 そもそも、書いてあることを知っている人は設定手順を知っていると思う。

CANON BOOSTER

低照度測光用の CANON BOOSTER
CANON BOOSTER
 Canon PELLIX QL と同時発売となった Canon FT QL と共通に使える低照度測光用の CANON BOOSTER がある。 広告では『梟(フクロウ)の眼を擁して登場』と謳われていて、EV-4.5 まで測光出来るアクセサリだった。 なお、ピント板を測光する方式の Canon FT QL に CANON BOOSTER を装着した場合は EV-3.5 までだった。 ペリクルミラーを通してでも直接測光方式の PELLIX QL はピント板測光方式より1段ほど効率が良い事になる。 なお、CANON BOOSTER は低輝度測光に特化した製品なので、高~中輝度環境下には対応していない。 

BOOSTERの使用準備

  1. CANON BOOSTER のロックレバーを引いて開放状態にし、アクセサリーシューに載せて、ロックレバーを締めてアクセサリーシューに固定する。
  2. カメラの電池室の電池を抜き、そこへ CANON BOOSTER のコネクタを指せば 電池室底のセンサー接点とブースターとが接続される。 CANON BOOSTER には HD型 電池を3個必要とするが、測光を行うだけなら2個でも機能する。
  3. BOOSTERの下側電池室に測光用 HD型 電池2個を予め装填し、カメラから外した電池と電池蓋をブースター上側のコネクタ収納部へ装着すればメーター照明用電池に使えるし、電池蓋を紛失する心配もなくなる。
 なお、アイピースシャッターを装備していない Canon FT QL などでもファインダー逆入射迷光の影響を避けるためのアイピースカバーがあったハズけど、僕の CANON BOOSTER には無くなっている。 もっとも、Canon PELLIX QL にはアイピースシャッターが装備されているので困らない。

BOOSTERの使い方

電源スイッチダイヤルにはONとOFFとCポジションがある
電源スイッチダイヤル
 CANON BOOSTER 右側面に電源スイッチダイヤルがあり、ONとOFFとCポジションがある。 Cポジションはバッテリーチェックで、メーター指針が青エリアを指せばOKである。 測光を行う場合はON位置に回す。 メーターはカメラの絞り込み測光と同じで定点式だが、フィルム感度はBOOSTER側のダイヤル内に設定し、メーター指針が定点に合う様にダイヤルを回す。 ダイヤルが回しても指針が定点に合わない場合はレンズの絞りを変更する。 メーター指針が定点に合った時に示されたダイヤル上のシャッター速度をカメラのシャッターダイヤルにセットすれば適正露出になる。

 BOOSTERとカメラとは測光センサーが電気的に接続されているだけなので、測光結果は手動でシャッターダイヤルにセットしなければならない。 なお、シャッター速度が8秒とかの長秒時の場合はバルブで8秒を手動で切らなければならないのがちょっと面倒だ。 バルブでの長時間露光を自動化させたのが Canon F-1 用の BOOSTER T FINDER で、電子タイマーによりシャッターボタンをメカ的に制御してくれるファインダーだった。

暗闇環境用のメーター照明機能がある
メータ照明が可能
 暗闇環境でメーターが見難い場合はBOOSTER前面にある茶色いボタンを押せばランプが点灯してメータを照らしてくれる。 メーター照明用電池は測光用電池とは全く別なので、メーター照明を多用しても測光電源に影響はない。 ただし、カメラに装着していた電池をBOOSTERの照明用電池にした場合、照明を多用して消耗した電池をカメラへ戻すと電圧が低下してカメラの測光に影響する懸念がある。

 CANON BOOSTER はカメラの測光センサーを利用するので部分測光になるけど、低照度環境では中央部分測光は使い難い。  Canon F-1 用の BOOSTER T FINDER は低照度用CdSセンサーを搭載していて、低照度では平均測光となるので中央部分測光より使い易くなっていた。

あとがき

 キヤノン社内では Canon PELLIX は成功した製品ではなく、その後の製品開発でペリクルミラーを利用するアイデアが出ても当時を知る古参開発者には拒絶反応があった様で「禁句」の黒歴史だった。 このペリクルミラーには逸話があり、半透過幕を枠に張る方法は「水面に広げた幕を枠ですくい取る」方式だった。
 半透過幕をミラー枠に上手く貼ることが出来る職人は限られていて、生産は大変だったらしい。 四半世紀を経た1989年発売の EOS RT でペリクルミラー機が一般製品に復活(高速モータードライブカメラでは使われていた)したけど、半透過幕をミラー枠に上手に張る事が出来る熟達工員(女性)さんは1人しかいなかったそうだ。 なお、これらの逸話はあくまでも噂...そう、噂です。 あっ、シンクロリーダーも「禁句」だったらしい。
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