CANON New FD 35-70mm F4 AF - 三角おむすび

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CANON New FD 35-70mm 1:4 AF
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF
 前面投影が三角おむすびみたいな容姿だけど、赤ハチマキ付きの白レンズである。 このレンズは単体でオートフォーカスが可能なズームレンズで、FDマウントであれば機種を問わないで装着してオートフォーカスを利用できた。

CANON New FD 35-70mm 1:4 AF - 1981年発売

 キヤノン独自開発のSST(Solid State Triangulation)方式によるパッシブオートフォーカスが搭載されていた。 「独自開発」とはいっても三角測距の原理を使ったフツーの外測式オートフォーカスなのでパララックスの問題は残っている。

レンズ構成

CANON New FD 35-70mm 1:4 AF レンズ構成
レンズ構成
 レンズ構成は8群8枚の2群式ズームで、負パワーの前群3枚と正パワーの後群5枚とを夫々移動させる方式である。 このレンズの光学系は1979年に発売された New FD 35-70mm 1:4 にオートフォーカス機構を組み込んだもので、光学系は同一だと思われる。 フォーカスは前群繰出し方式で、最短撮影距離は0.5mだけど、オートフォーカス出来るのは1mまでである。

 恐らくパララックスの影響があるから1mまでに制限しているのだろう。 パララックスとは、撮影光学系と測距光学系の光軸が離れている事から、遠距離から中距離までは殆ど問題ないけど、近距離では撮影光学系と測距光学系とが観察している部位の違いが大きくなってしまうのである。 つまり、近距離だとファインダー中央とオートフォーカス測距ポイントが大きくズレるので、近距離ではあらぬ場所(大抵は背景)にピントを合わせてしまう問題がある。 焦点距離が70mmで撮影距離が1mならファインダー上で3.5mm近くズレるし、撮影距離が0.5mなら6.5mm近くズレてしまうだろう。

 また、世の中は一般的に縦線・横線が多いので、基線長分だけ離れた二つの結像レンズによる画像の位相差を測る方式なので、一般的なレンジファインダーカメラの様に測距窓を左右に配置すると横線の測距が出来なくなってしまう。 本レンズをカメラに装着すると測距窓が斜めに傾く様になっていて、縦線でも横線でも位相差を検出できるのである。

操作性など

距離環はおまけ的でズームレバーは底面
おまけ的な距離環
 フィルター径はΦ52mmだけど、フィルターを脱着するためにはズームをワイド端にして距離環を至近端にしないとフィルター枠にアクセスできない。  また、オートフォーカス/マニュアルフォーカスの切換えが無いうえに、レンズ先端に薄枠の距離環が付いているだけなので、マニュアルフォーカスが非常に重いし操作し難い。 また、ズームレバーはレンズの底に付いていて、普通にカメラを構えたら焦点距離が何ミリになっているのか判らない。

スイッチ類
スイッチ類
 レンズ前面に斜めに付けられた一対の小窓が測距用の窓で、三角測距の原理でピント具合を検出している。 電源スイッチをオンにして、レンズの左斜面にある黒いプッシュスイッチを押すとオートフォーカスが動作するが、残念ながらフォーカス動作は随分と遅い。 ただし、利点としてはオートフォーカスがレンズ単体で完結しているので、マウントアダプターでデジタル一眼に装着してもオートフォーカスが効く事だ。
 なお、マニュアルフォーカスレンズである New FD 35-70mm F4 の重量が315gなのに対して、本レンズは604g(電池込みなら640g)と少し重かった。 一応(?)赤ハチマキ白レンズなので高級レンズのハズだけど、「L」の称号を有するレンズではない。

電池の接触不良

電池室のバネ圧に負けて背面カバーにクラック発生
クラック発生
 久しぶりに引っ張り出して電池を装填して動作確認してみたら...動かない。💦 レンズ本体をよく見てみたら、電池室奥側外装のカバーが浮いていて、電池が接触不良となっている。 外装の下半分の丸い部分は頑丈な金属製だけど、それ以外の外装は樹脂製だ。
 どうやら、挿入する電池ケースから樹脂製の外装カバーに大きな圧力が加わり、経年の樹脂劣化も加わりクラックが入った様だ。 電池室の底面は外装とは独立しているのだけれど、電池ケースを挿入すると電池室底の接点が押され、外装に圧力が加わる構造になっている。 今まで耐えられたのが不思議なほどで、これはメカ屋の設計ミスだろう。
 セロテープで押さえれば問題なく動作するので、樹脂製の外装を外して内部を補強できるだろう。 ズーム系・フォーカス系・光学系を含めて、この部分以外に修理すべき箇所は無いので、気が向いたら分解・補強を実施する事にして、取り合えずセロテープ対応のみとした。

AFピントの問題

 実は、オートフォーカスでピント合わせして、デジタル一眼で撮影しようと思ったのだけれど無理だった。 大抵のマウントアダプターはマニュアルフォーカスしか考慮していないので、フランジバックが少し短く設定されている事から、外測式オートフォーカスではピントがズレてしまうのだ。
Manual Focus f=50mm 絞り:F4
Auto Focus f=50mm 絞り:F4
AFでのピントとMFでのピント具合 f=50mm 絞り:F4(中央トリミング)
 なお、マウントアダプターのフランジバックを正確に修正しても、この時代のオートフォーカス誤差はデジタル一眼の許容範囲外だろうから、レンズの描写性能を引き出すのは難しい気がする。 結論として、操作性が悪いけどマニュアルフォーカスを使って撮影する事にした...オートフォーカスは1mまでしか出来ないしね。

描写特性

遠景描写

 以下の遠景描写の写真はRAW現像時にホワイトバランスを6000°Kに設定し、Dレンジオプティマイザーをオフにして現像しています。

焦点距離:35mm
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=35mm 絞り:F4
絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=35mm 絞り:F5.6
絞り:F5.6
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=35mm 絞り:F8
絞り:F8
 絞り開放から中央付近は素晴らしい描写で、周辺も良い描写だけど、四隅は少しボヤける。 F5.6に絞ると画面四隅も良い描写になり、F8まで絞ると画面全域で素晴らしい描写となる。 長辺がカットされる銀塩プリントなら絞り開放から全く問題ないだろう。
 また、周辺光量落ちは目立たないが、四隅で急に落ちるタイプなのでケラレの様にみえ、F11で解消されるまでジワジワと周辺光量が上がって行く。

焦点距離:50mm
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F4
絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F5.6
絞り:F5.6
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F8
絞り:F8
 絞り開放から中央付近は素晴らしい描写で、周辺も良い描写だけど、四隅は少しフレアっぽい。 F5.6に絞ると画面四隅も良い描写になり、F8まで絞ると画面全域で素晴らしい描写となる。 長辺がカットされる銀塩プリントなら絞り開放から全く問題ないだろう。 また、周辺光量落ちはとても小さく、F8で解消される。

焦点距離:70mm
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F5.6
絞り:F5.6
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F8
絞り:F8
 絞り開放では少し柔らかい描写だけど、画面隅でも崩れる事は無い。 F5.6に絞ると画面隅以外はシャープで素晴らしい描写になり、F8まで絞ると画面全域で素晴らしい描写となる。 長辺がカットされる銀塩プリントなら絞り開放から充分に使えるだろう。 また、周辺光量落ちは少しあるけど目立つ事は無く、F22までじわじわと周辺光量が上がって行く。

一般描写

 以下の遠景描写の写真はRAW現像時にオートホワイトバランスに設定し、Dレンジオプティマイザーをオフにして現像しています。 なお、記載の焦点距離や絞り値はボケ老人の「記憶」に頼っているので間違っているかも知れません。 当然だけど、絞れば描写性能は向上するので、ほぼ絞り開放で撮影しています。

CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=35mm 絞り:F4
f=35mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=35mm 絞り:F4
f=35mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=35mm 絞り:F4
f=35mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F4
f=50mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F4
f=50mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F4
f=50mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F4
f=50mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F4
f=50mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=70mm 絞り:F4
f=70mm 絞り:F4
CANON New FD 35-70mm 1:4 AF f=50mm 絞り:F4
f=50mm 絞り:F4

 テレ側の開放では少し柔らかい描写だけど、ワイドからテレまで安心して撮影できる。 最短撮影距離の0.5mまで寄ればテレ端なら撮影倍率が0.15倍なので、それなりに大きく写すことが出来るし、背景をぼかす事も出来る。 ただし、開放がF4なので大きな後ボケにできないことから、背景をうやむやにしずらい。 FD 85mm 1:1.8 S.S.C. とかだったらイイ感じに写るだろうな...と思ってしまう。

 画面極隅の描写が少し甘いとシーンもあるけど、殆ど気にならない。 ただ、大きなボケにはならないけど、後ボケがリングボケっぽくなるので、背景が喧しく感じる場合がある。

 発色はFDレンズ群共通の派手過ぎない素直な発色なので、FDレンズを使っているならレンズ交換で気にする必要は無い。

 開放値がF4と無理のない明るさなので描写性能はとても良く、赤ハチマキ白レンズに恥じない良い描写特性だと思う。 もっとも、光学系はフツーの標準ズームである New FD 35-70mm 1:4 なのだけどね。

あとがき

 このレンズはαショック前の製品なので、こんな製品でも笑って済ませられ時期だったので、今となっては哀愁さえ感じてしまう。 1980年代初頭にハネウェル社のTCLセンサーを使った製品開発(ハネウェル社の制御サンプルプログラムにはゼロ割り算バグがあったけど)に携わった事があるけど、TCLの設計思想を使えば一眼レフでも素晴らしい製品になると感じていた。 カメラシステムの大変更が必要だけど、それをやってのけたのがミノルタで、1985年に発売された minolta α-7000 により業界に激震が走った。 市場シェアが高くないメーカーはユーザー数も少ないので、マウント変更を含む大胆な改変を行い易かった...のだろう。
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