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| ロシア製反射望遠レンズ |
ロシア製の光学機器には仕上げ品質などに問題がある製品も多いけど、侮れない光学性能を有したレンズも多くある。 使って試してみない事には判らないので、その昔に買って試してみたのである。 なお、MC RUBINAR 5.6/500 の生産開始は1980年代の終わり頃らしいし、MTO-11CA 10/1000 はもっと古いだろう。 なので、オールドレンズという事にしておいた。
RUBINARシリーズはロシアLZOS社のマクストフ・カセグレイン型カタディオプトリック光学系で、マクストフ型の特徴である強い凹面の第1レンズが2枚のレンズで構成されているので、拡張マクストフ型と言えるだろう。 なお、主鏡の穴の中にある最終レンズが画面周辺の収差補正を担っているのは同じである。
一方、LZOS MC MTO-11CA 10/1000 はロシアLZOS社の古典的なマクストフ・カセグレイン型のカタディオプトリック光学系で、主鏡の穴の中の最終レンズが画面周辺の収差補正を担っている。 このレンズをモデルチェンジした製品が MC RUBINAR 10/1000 である。
LZOSはリトカリノ光学ガラス工場の略で、ロシアのモスクワ州リトカリノにある光学会社である。 また、マクストフカセグレイン型光学系は、1941年にロシアの光学技師だったドミトリ・ドミトリエヴィッチ・マクストフ氏が開発したもので、色収差・コマ収差がなく、非点収差も少ないのが特徴である。
MC RUBINAR 4.5/300 MACRO(МС РУБИНАР 4,5/300 МАКРО)
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| MC RUBINAR 4.5/300 + EOS 40D(冷却改造カメラ) |
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| レンズ構成 |
天体写真用に使えないかと思い、2005年に日本の笠井トレーディングが扱っていた 300mm F4.5 という仕様で、「Sグレード」品を買ってみた。
レンズ名に「MACRO」と付いている様に最短撮影距離は1.7mまで近寄れるけど、フォーカス敏感度が高すぎるのでピント合わせが難しい。 また、小型軽量なので三脚座が無いことから、機材をガッチリと固定するには工夫が必要だ。
ちなみに、TAMRON SP 350mm F/5.6 model 06B なら 1.1m(倍率0.4倍)まで寄れる反射望遠マクロレンズで、小型の三脚座が付いていた。
2005年にテスト撮影してみると、光学系内部での光損失が多いのか、F4.5というよりF6.3~F8に近い明るさなので露出時間を長くしないと写らない。 撮影後に笠井さんに問い合わせたところ、『フランジバック延長改造で焦点距離が伸びています』ということだった。 実際に撮影した画像の画角から換算すると焦点距離が350mmほどになっている様だけど、それならF5.25程度になる。 そもそもカメラを装着してピントが合っているのだから、設計に近い配置になっているハズだから、反射面の光損失が大きいのだろうか?
天体写真描写(EOS 20DaS)
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| M8干潟星雲 と M20三裂星雲 MC RUBINAR 4.5/300(写真左側が天の北極方向です) |
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| ニュージーランドにて |
高性能屈折型望遠鏡みたいに「針で突いた様な星像」にはならないけど、天体写真でも使える星像描写だと思う。 ただし、暗いのが問題でISO感度を上げなきゃならなかったり、露出時間を伸ばさなきゃならなかったりするのが困りものだった。 利点は小型軽量なだけで CANON New FD 300mm 1:2.8 L の代わりにはならなかった。
結局、撮影用は諦めて恒星追尾ガイド鏡としてニュージーランドなどにも携行して余生を送っていたレンズである。 なお、掲載写真は大昔に撮影した写真でAPS-Cサイズだけど、フルサイズ機で撮影するなら周辺光量対策のフラット補正が必須になる。
MC RUBINAR 5.6/500 MACRO(МС РУБИНАР 5,6/500 МАКРО)
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| MC RUBINAR 5.6/500 + EOS 5D Mark II |
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| レンズ構成 |
MC RUBINAR 4.5/300 の性能が比較的良かったので、同じ2005年に中古で見つけた 500mm F5.6 という一般的なF8仕様より明るいレンズを入手した。
レンズ名に「MACRO」と付いている様に最短撮影距離は2.2mまで近寄れるけど、フォーカス敏感度が敏感過ぎるのでピント合わせは難しい。 実は、このレンズを気に入ったので、中古レンズをもう一本購入したんだけど、何処にしまったか判らないままだ。 なお、このレンズはフランジバックを延長改造すれば6x6cm版などの中版カメラでも使えるイメージサークルがあるらしい。
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| 同じf=500mmだけど... |
このレンズの利点は小型(⌀113×130mm)で重量が1.6kgしかないという事に尽きる。 僕の TAKAHASHI ε-180ED は同じf=500mm だけど大型(⌀232×570mm)で重量が10.7kg以上(鏡筒バンドやアクセサリを加えると16kg以上)もあり、アマチュア用としてはド級のアストログラフなので持ち出すには勇気がいるし、赤道儀に載せるだけでも一苦労だ。 その点、暗くて星像は劣るけど MC RUBINAR 5.6/500 なら気軽に持ち出せる。 なお、ε-180ED の口径比はF2.8だけど、中央遮蔽などの影響を考慮してもF3.1相当の明るさがある。
天体写真描写(EOS 20DaS)
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| M31 アンドロメダ銀河 MC RUBINAR 5.6/500(写真左側が天の北極方向です) |
こちらのレンズも意外と良い天体描写性能で、星像が少し太るけど充分使えると感じた。 ただし、実質的な明るさはF8ほどなので、明るくはない事から長めの露出時間が必要になるけど使える写真は得られる。 なお、掲載写真は大昔に撮影した写真でAPS-Cサイズなので、フルサイズ機で撮影するなら周辺光量対策のフラット補正が必須になるだろう。
三日月撮影(EOS 60D)
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| 三日月 MC RUBINAR 5.6/500 |
気が向いたらサッと三脚に載せて撮影出来る手軽さが利点で、月面撮影は難しくは無いけど、大気がユラユラしているので焦点距離が長くなるほどボヤけて写る。 三日月は高度が低いのでユラユラも酷くなるので、複数駒撮影して良さそうな駒を抽出・合成しています。
LZOS MC MTO-11CA 10/1000
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| LZOS MC MTO-11CA 10/1000(小型ファインダー搭載)+ EOS 5D Mark II |
デジタルカメラの画素ピッチが細かくなれば、1000mm程度でも木製などの縞模様も写せるのではないかと思い、2009年に中古レンズを買ってしまった。 買った当初に試してみたら、当時の EOS 5D Mark II では画素ピッチが6.41μmと荒いので、木星の縞模様は判るけど「天体写真」としてはお粗末な結果だった。
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| レンズ構成(多分) |
レンズの名称にある MTO とは
Maksutov
Tele-
Objektiv の略で、レンズタイプをそのまま表していて、マクストフ型は優秀な天体望遠鏡として有名だ。 フォーカシングは前群繰出し式で、大きな第1メニスカスレンズに接着されている副鏡も一緒に繰り出される。 ヘリコイドが重くてピント合わせ時にブレブレする事に加えて、焦点側光束が細いF10なのでピントピークの位置を判断し難い。 なお、このレンズの実質的な明るさはF16に近いと思う。
この個体のマウント部はTマウントの外側に似ていて、マウントを交換する事で各社のカメラを装着出来る。 僕はEOSマウントを装着してあり、SONY機を使う場合は更にEOS→NEXアダプターを噛ませている。 EOSマウントの内側にはM48フィルター枠を入れてあるので、EOS→NEXアダプターを噛ませる場合は各種フィルターを利用できる。 このレンズの正規のフィルターサイズはΦ116mmなので、このサイズの特殊フィルターを用意するのは現実的じゃない。
また、レンズの三脚座が回転式じゃないので、マウント部を回転させる様に工夫した方が使い易い。 縦位置用の三脚穴はファインダー搭載などに使うと便利だ。 僕は縦位置用の三脚穴にファインダーを搭載するアリミゾを着けて、天体望遠鏡用の小型ファインダーを搭載している。
距離環に刻印されている最短撮影距離は8mだけど、距離環は360度を超えてぐるぐる回るので、3mほどまで寄ることが出来る。 ちなみに、このレンズはフランジバック延長改造してあるので、距離環の距離表示はでたらめになっている。 また、長い光路長が必要な反射プリズムを使った眼視観測にも使えるし、中版サイズの画面をカバーしているのでマウントアダプターを工夫すればハッセルブラッドにも装着できる。
木星撮影(EOS 5D Mark Ⅱ)
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| 木星 LZOS MC MTO-11CA 10/1000(トリミング:等倍切り出し) |
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| トリミング前の画像 |
上記写真はルサイズ画像からトリミングしてあり、木星の縞模様が何となく写っている程度のお粗末さだった。 実際の撮影画像はこの通りで、焦点距離が1000mmでも木星は点の様にしか写っていない。 EOS 5D Mark II は画素ピッチが6.41μmなのでコレが限界だ。 超高性能なレンズだったら期待できるけど、MTO-11CAの解像度は高く無いので、細かい画素ピッチのイメージセンサーを使っても結果は変わらないかも知れない。 なお、上記写真は沢山連写した画像から使えそうな駒を抽出・合成してある。
太陽光球面撮影(SONY ILCE-9)
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太陽光球面 MC RUBINAR 10/1000 |
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| 太陽光球面撮影の様子 |
Φ116mm→Φ86mmステップダウンリングに、AstroSolar Safety Film(太陽撮影用シートフィルタ)を張った減光フィルターを使って太陽を撮影(間違えてISO:400だった💦)してみた。 シーイングが悪くてファインダーで拡大像を見ていると、像が一瞬解像したり、ユラユラ・グニョグニョして単駒だと解像しないので、沢山撮影して良さそうな駒を抽出・合成してある。 この日は黒点が少ない日だったけど、光球面に点在する黒点はちゃんと判り、白斑も判る程度に写っている気がする。 でも、粒状斑は写っているのかノイズなのか怪しい。
現像時にホワイトバランスを「太陽光」にしたけど、ピンクっぽくなっているのは AstroSolar Safety Film の透過率特性の影響だろう。 540nmの波長(緑色)を半値幅10nmで透過する Solar Continuum Filter を装着してみようと思ったのだけれど、何処に保管したか思い出せなかった。 なお、AstroSolar Safety Film も Solar Continuum Filter も国際光機が取り扱っている。
あっ、太陽光球面撮影は非常に危険なので充分注意する必要があるし、ファインダースコープなどの光学機器は外すか、しっかりとキャップを着けておきましょう。
眼視観測
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| 眼視観測状態 |
別途入手した中華製アイピースアダプターを装着して天体望遠鏡用の接眼レンズによる眼視観測をしてみるとそれなりに見える。 人間は脳みそが自動的に画像補正してしまうので、「見えている気がする」だけかも知れない。 2km以上離れた高層ビルの中で残業している会社員の姿も判る...様に脳みそが画像処理している。 スポッティングスコープとして野鳥観察も出来るし、星空の星や惑星を観察もできるだろう。 45度や90度のプリズムを併用すれば首が疲れないで星団などを楽しめるけど、経緯台や赤道儀に搭載しないとじっくり観察できない。
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| 白鳥座のアルビレオ |
白鳥座の頭部に位置する3等星の二重星アルビレオなら35秒角も離れているので、低倍率でも黄色で3等星の主星と青色で5等星の伴星とに(写真を拡大すると中央に二重星アルビレオが見えますが、“みかけの二重星”だと判明したそうです)離れて見える。 また、木星の縞模様はハッキリ判るし、土星の輪が消えているのも(イヤ、あっても消えて見えるのか?)判るけど、「判る」だけで「すげぇ!」という訳ではない。 天体望遠鏡の方がず~っと良く見えるけど、このレンズしか持ってないなら利用範囲が広がって楽しめるだろう。
なお、倍率を上げるために接眼レンズの焦点距離を短くしても10mm(倍率100倍)程度にとどめるべきで、倍率を過剰に上げてもぼやけるだけだ。 また、糸巻型の歪曲収差がキツイ接眼レンズは覗いていて気持ちが悪くなるので避けた方が良い。 それから、観察対象を視野に導入するのが難しくなるので、口径2~3cmで倍率7倍ほどの小型ファインダーを搭載した方が観察対象を導入し易い。 日中でも使うなら、少し暗くなるけど正立プリズムが入ったファインダーの方が使い易いだろう。 なお、ドットサイトファインダーは夜の天体観察には良いけど、日中ではLEDドットを認識できない製品もある。
あとがき
ロシアによるウクライナ侵略によりロシア製品には嫌悪感があるけど、2005年当時は「安くて」運が良ければ「高性能」な製品に巡り合えると考えていた。 MC RUBINAR 5.6/500 を2本買った事を書いたけど、星像を見比べたら同じ製品でも若干の優劣(当たりハズレ)がある事も確かだった。 また、内面反射による迷光対策が完璧じゃないけど、高価なレンズじゃないのでコスパは良いと思う。 ただ、満足感を得られるかは微妙だし、もう生産してない気がする。
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