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Nikon NIKKOR-S Auto 1:2 f=5cm |
ニコン初の一眼レフ用標準レンズで、1959年の NIKON F と同時発売された。 同年に発売されたレンズは 2.1cm F4 / 3.5cm F2.8 / 10.5cm F2.5 / 13.5cm F3.5 などがあった。
NIKKOR-S Auto 1:2 f=5cm - 1959年発売
前枠が初期のニッコールらしい銀枠レンズで、黒枠レンズより断然オールドレンズ感がある。 ニコンを現役で使っていた頃はマルチコートされた黒枠仕上げのレンズを求めていたけど、歳を取ると銀枠仕上げの方に趣を感じてしまう...描写特性は別としてね。
このレンズは NIKKOR-S Auto 1:2 f=5cm の中でも前期型に分類されるレンズで、9枚絞りのタイプである。 後期型では6枚絞りになってしまい、絞り込むと輝点ボケが6角ボケになってしまう。 巷の噂では製造番号が 520001から53xxxx までの1万数千本が前期型らしい。 ちなみに、最初の5千本ほどは「チックマーク付き」で初期型と呼ばれるらしい。 1964年に後継モデルの
NIKKOR-H Auto 1:2 f=50mm に置き換えられたので製品寿命は短かった。
レンズ構成
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レンズ構成 |
一眼レフ用の標準レンズではバックフォーカスの確保が難しく、焦点距離を55mm~58mmに伸ばすことでバックフォーカスを確保するメーカーも多かった。 ニコンの光学系は5群7枚構成の拡張ガウス型で、典型的な4群6枚構成のダブルガウス型の先頭に弱い凹メニスカスレンズを加えている。 弱い凹メニスカスレンズを使う事で焦点距離が50mmのままでバックフォーカスを確保したらしい。 この手法は弱いレトロフォーカス型とも言えるだろう。 いっそ曲面を反転させて凹ウルトロン型の様にしたら面白そうなレンズになったのではないかと妄想してしまう。
スケバン風スカート
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絞り環スカート比較 |
ミラーレスデジタルカメラを使ってこのレンズを楽しむのは難しい場合がある。 このレンズの絞り環は平目ローレットの古いタイプなので、絞り環のスカートがスケバン並みに長い。 このため、大抵のマウントアダプターはミニスカート(梅鉢タイプ絞り環)のみ対応で、スケバンスカート(平目ローレット絞り環)では長さが邪魔してマウント爪が回せるほど奥まで入らない。 左の写真でも判る様に NIKKOR-H Auto 1:2 f=50mm の絞り環スカートは普通のミニスカートだけど、NIKKOR-S Auto 1:2 f=5cm の絞り環スカートはカメラ側マウントを包み込む様に長い事が判る。
スケバンスカートに対応したマウントアダプターを見た事がないけど、良く探せば有るのかも知れない。 また、当然だけど、NIKON F100 などにはミニスカートであってもAi連動ピンが干渉して装着出来ないのでスケバンスカートは絶望的で、Ai方式の超ミニスカートじゃなきゃ装着出来ない。 何と、70年代の接写リング PK-3 にもスケバンスカートが邪魔して装着できないのだ。
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スケバン対応した |
僕のマウントアダプターのスケバン対策はアダプターのFマウント部裏にワッシャーをブチ込んで嵩上げし、スケバンスカートが干渉せずに入りきる様に工夫してみた。 なお、僕のアダプターは元々オーバーインフだったので嵩上げしても無限遠が出るけど、大抵は無限遠が出なくなるのでお勧めできない。 ちなみに、後のニコンレンズでは平目ローレット絞り環を採用した24mmなどでもミニスカートになっていて、問題なくマウントアダプターに装着できたりする。 こうなると、このレンズはメカ設計上の建築限界から逸脱しているとしか思えない...ひょっとすると、キチンと建築限界を策定する前だったのかもね。
描写特性
遠景描写
絞り開放では意外にフレアが少ない描写だけど線が太くて解像感が低い。 F2.8に絞れば中央のモヤは消えるけど画面周辺の解像感はまだ低い。
F4に絞れば画周辺でも充分な描写になり、F5.6なら画面四隅でも充分な描写になる。
F8まで絞れば画面全域で素晴らしい描写が得られる。 なお、素敵な周辺減光があるけどF5.6まで絞ると判らない程に解消される。
NIKKOR-H Auto との比較
遠景を後継の
NIKKOR-H Auto 1:2 f=50mm と比べてみた。 NIKKOR-S Auto は折角のレンズ1枚追加を本当にバックフォーカス伸長だけに利用していた様で、描写向上には役立っていない。 どうせなら『1枚多いだけあるなぁ』と唸らせる描写性能を目指して貰いたかったけど、逆に『1枚減っている方が良い』という結果だけど、光学技術の進歩で済ませて貰いたくないなぁ。 また、両レンズは画面周辺部のディストーションに差があると感じる。
NIKKOR-H Auto 1:2 f=50mm と NIKKOR-S Auto 1:2 f=5cm との開放比較
夜景描写
絞り開放では点光源にフレアが纏わりつく。 画面周辺のサジタルコマフレアも多いけど、非点収差により点光源が放射方向へ伸びているため解像が大きく低下している。 F2.8に絞るとフレア成分が随分と少なくなり画面中央はスッキリするが、画面周辺では非点収差による放射方向への伸びは改善しない。
F4に絞っても画面隅の放射方向への伸びが残っていて、F5.6まで絞れば画面四隅でも充分な描写となる。 なお、9枚絞りなので絞り込むと輝点に18本の光芒が現れるけど、6枚絞りと比べると光芒の出方は弱い。 光芒の出方は好みが別れるところだろう。
一般実写
小デフォーカスの後ボケには2線ボケの傾向が認められるので条件によってはザワつくことがあるけど、大デフォーカスではスムースにボケてくれる。 絞り開放ではコマフレアによりソフトな描写で画面周辺の解像感も足りなく『サードパーティー製レンズ?』の様な描写だと感じる。 もちろん絞り込めば締まりのある描写にはなるし、画面に高周波部分が無ければ質感表現も悪くない。
発色は悪くなく若干寒色系だけど NIKKOR-H 50mm F2 と比較すると緑の発色が綺麗だと思う。 なお、絞り開放でのボケ像の周りに後ボケは緑色で前ボケは紫色に色が付き易いので、条件によっては「色ボケ」が気になる場合がある。 絞りは9枚絞りなので絞っても輝点ボケの玉ボケに角が目立たないのは大変好ましい。
絞り:F2 |
絞り:F2 |
絞り:F2 |
絞り:F2 |
絞り:F2 |
絞り:F5.6 |
絞り:F2 |
絞り:F2.8 |
絞り:F4 |
先頭に凹メニスカスレンズを追加してバックフォーカスを伸長できたけど、画面周辺の非点収差を悪化させている気がする。 もう少し最適化すれば銘玉になったかも知れないけど、オールドレンズとして楽しいクセがある訳じゃなく単なる迷レンズに終わっているのが惜しい。 光学性能は別として9枚絞りの個体なら中古を買っても損は無いかもね。
あとがき
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昔のキャップとフード |
初期のニコン用キャップには富士山ロゴが入っていた。 また、フードにもアルファベットの社名の他に簡略化された富士山ロゴが入っていて骨董品みたいな風情がある。 この富士山ロゴは1966年頃に無くなってしまったけど、せめて1988年に商号を「株式会社ニコン」に変更するまでは富士山ロゴを続けてほしかったなぁ。
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