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TOPCON UNIREX |
1969年発売の TOPCON UNIREX が最後の国産レンズシャッター式一眼レフとなった。 シルバーとブラックの2モデルが用意され、ブラックモデルはレンズも含めて細部にわたって黒仕上げでなかなか精悍だし、シルバーモデルはレンズ鏡筒もフードもシルバー仕上げで高級感があり大変美しい。 レンズを含めた外装色統一を徹底するのはトプコンの伝統である。
TOPCON UNIREX
UNIREX は1963年に発売された WINK MIRROR S から始まるUNIシリーズのカメラで、当初のUNIシリーズはレリーズボタンがエプロン横にあったが、UNIREX では上カバー上面に移動して「普通の」一眼レフスタイルになった。
UNIシリーズはレンズシャッター式一眼レフに分類されているけど、リーフシャッターがボディーのマウント部に内蔵されているので、正確にはレンズシャッター式というよりビハインドシャッター式と表現した方が良い気がする。 なお、絞り羽根はレンズに装備されているけど、絞り操作環はボディー側にあり、マウント部でレンズの絞り駆動レバーが連動する様になっている。 従ってレンズ単体では絞りの設定操作が出来ない。
カメラボディーとレンズの間にリーフシャッターが入っている構造なので、レンズのバックフォーカスを長くする必要がある。 恐らく、UV TOPCOR 初期の標準レンズが中途半端な53mmという焦点距離だったのはバックフォーカスを確保する必要があったのだろう。
先に「最後の国産レンズシャッター式一眼レフ」と書いたが、残ったユニット類を使ってスペックダウンした輸出専用機 TOPCON UNIREX EE を1972年に発売している。
シャッター
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リーフシャッター |
シャッターは精工舎製の5枚羽根リーフシャッターで、B・1s~1/500sの範囲で設定でき、ストロボには全シャッター速度で同調する。 UNIREX はレンズシャッターカメラの分類ではあるけど、シャッターユニットはボディ側のマウント開口部に装備されている。 フィルムへの露光シーケンスは複雑で、レリーズ → リーフシャッター閉 → 絞り込み → ミラー&遮光板アップ → リーフシャッター開 → 露光 → リーフシャッター閉 → ミラー&遮光板ダウン → 絞り開放 → リーフシャッター開 という一連のシーケンスで露光が行われる。
この製品は精工舎製リーフシャッターの供給終了に伴い、UNIシリーズのレンズシャッター式一眼レフは終焉となり、UVマウントを使った普及機クラス一眼レフは自社製の電子制御フォーカルプレーンシャッターを搭載した TOPCON IC-1 AUTO に引き継がれた。
測光方式
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感度・開放F値設定 |
カメラのマウント部にあるシャッター速度リングにASA(DIN)感度と装着レンズの開放F値を設定する部材があり、装着レンズの開放F値とフィルムのASA感度とを合わせれば測光準備が完了する。 開放F値が異なるレンズに交換する度に再設定する面倒があるので便利なシステムとは言えない。 UNIシリーズの WINK MIRROR S が発売された1963年にはTTL開放測光方式の TOPCON RE Super も発売されているのに、UNIシリーズには開放F値の自動設定方式は採用されていない。 これは WINK MIRROR S が開放F値に影響されない外測式露出計だった事と、絞り環がボディー側にあり、開放F値伝達機構の搭載によるコストアップを避けたのだろう。
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測光方式切換えレバー |
特筆すべきは測光方式がスポット測光(S)とアベレージ測光(A)とを切換えられる事で、普及機クラスの一眼レフとしては随分と凝った仕様だ。 平均測光は一般的な一眼レフと同様にファインダーアイピース脇に配置した1対のセンサーで側光し、スポット測光はミラー裏面に配置したセンサーにより測光するという2系統を持つ仕組みになっている。 ちょっと残念なのは、ミラー裏面のスポット測光用にTTL光が割かれるため、ファインダー中央に陰りが生じている事だ。
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シャッター速度優先AE |
AE方式はシャッター速度優先AEで、絞り環をAUTOポジションにセットすれば測光値に応じた絞りで撮影される。 レリーズボタンを途中まで押し込むとメーター指針がロックされるので、AEロック的に使用出来るのでスポット測光が有効に使えて便利だけど、レリーズストロークがちょっと多い。
なお、UNIREX には露出計の電源スイッチはなく、使用しないときはキャップを装着して暗黒にしておかないとチョロチョロと電流が流れてしまう。 このため、水銀電池の液漏れによる動作不良を患っている個体もある様だ。
露出計用の電池は電圧が1.3VのMR-9型水銀電池なので、現代では電圧変換型アダプターを使ってSR43酸化銀電池を使う事になる。 ダイオードが付いていないアダプターだと約1段ほど露出アンダー(メーターが振れ過ぎて明るいと判断される)になってしまう。
ファインダー視野
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ファインダー視野 |
ファインダー視野が全体的に暗く感じるのはピント板拡散特性やミラー・ペンタプリズムの反射率(アルミ蒸着?)が影響しているのだろう。 また、スポット測光用にTTL光が割かれるためファインダー中央に陰りがあるのでマイクロプリズムによるピント合わせがし難い。
ファインダー視野内左側に絞り値指標とメーター指針がある。 絞り環を「Auto」に設定すると、メーター指針が示す絞り値で露光される。 「Auto」モードでAEロックしながら撮影するのが基本だけど、「Auto」以外の任意の絞り値を選択した場合はメーター指針が設定した値を指す様にシャッター速度を変更するか、メーター指針が指す絞り値を絞り環に設定すれば適正露光で撮影出来る。
CANON EF の様にファインダー内にシャッター速度情報も表示されれば最高なんだけど、コスト重視のレンズシャッター式普及機クラスなのが残念だ。
外装の清掃・修復
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上カバーを外した状態 |
カメラの外装は汚れだけじゃなく梨地メッキも劣化しているので復活処理が必要だ。 上カバーを外してみると、ペンタプリズムを押さえている赤いV字型ゴムバンドはちゃんと機能を果たしていた。 UNIREX のペンタ押さえバンドは加水分解によりボロボロになり、ゴミの発生源となっている個体が多いので、この個体は状態が良いと言える。 ちなみに、シャッター速度を変更すると測光メーターが連動して回転する様になっていて、RE SUPER などの同時代の露出メーターと同じ方式だ。
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梨地メッキの復活処理 |
外した上カバーや前カバーを清掃してから錆取り・磨き処理を数回施し、巻き上げレバーや巻き戻しクランクなどの部品も同じ様に処理を施して組み戻した。 古ぼけた梨地外装に錆取り・磨き処理を施したカメラは見違えるほど美しくなり、もともと端麗な容姿なので「べっぴんさん」に戻った感じだ。
修理したのでちゃんと見える様になったファインダーは思いのほか綺麗で、ゴミなども殆ど無いのでスッキリと見渡せる。 また、スポット測光と平均測光との切換えを含めて問題なく動作するし、シャッター速度優先AEも正常に動作する。 部品取りするには惜しいカメラになってしまった。
交換レンズ
UVマウントは1963年発売の WINK MIRROR S が始まりで、交換レンズは 35mm F3.5 / 53mm F2 / 100mm F4 / 135mm F4 / 200mm F4 が揃えられていた。 35mmと53mmと100mmレンズは似た様な作りで、距離目盛は薄いアルミ板に指標がプリントしてあり、そのアルミ板を距離環にネジ止めしてあり安っぽさは否めない。 また、135mmレンズには前期型と後期型があり、後期型は最大径を小さくして引き出し式フードを内蔵している。 その後の UNIREX 時代に 28mm F4 と 50mm F2 が追加され、この2本は鏡筒デザインが改められて高級感のある作りになっている。
ちなみに、UV TOPCOR という名称の「UV」とはUltraViolet(紫外)の事で、レンズの張り合わせ接着に天然樹脂であるバルサムではなく紫外線吸収効果を持たせた接着剤を用いたレンズを意味するものらしい。 ところが、UV TOPCOR 28mm F4 は6群6枚だし UV TOPCOR 100mm F4 も5群5枚なので張り合わせが無いことから、本来なら「UV TOPCOR」ではないと思うのは僕だけか?
UV TOPCOR 1:2 f=50mm
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UV TOPCOR 50mm F2 |
TOPCON UNIREX 発売時に用意された標準レンズが UV TOPCOR 1:2 f=50mm で、1963年発売の TOPCON WINK MIRROR S から始まった標準レンズの焦点距離53mmが50mmに改められた。 光学系は旧型の53mmレンズと同じ4群6枚構成のダブルガウス型だけど、後群レンズに酸化トリウム含有の高屈折率ガラスを使ってバックフォーカスを確保しつつ焦点距離を短くしたと思われ、酸化トリウム硝材の影響で後群が黄変している個体が多い。 なお、焦点距離表記が50mmになったとはいえ、実際の焦点距離はライか風の51.6mmに近いらしい。
1982年の写真工業別冊で『UV TOPCOR 50mm F2 の解像力は SUMMICRON-R 50mm F2 に匹敵する』と評された事から『ズミクロン殺し』と呼ばれる様になったらしい。 実際に使ってみるとフツーの標準レンズといった感じだと思うけど...
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専用フードを装着 |
レンズ先端のΦ49mmフィルターネジとは別に距離環先端にΦ55mmネジが切ってある。 異常に軽いアルミ製シルバー色フードは距離環先端にネジ込む様になっていて、レンズ本体と一体になるデザインだ。 フードを装着した容姿も美しくて高級感があり普及機の域を超えている。 なお、フードの内側には反射防止とフード逆付け収納時のキズ防止とを兼ねた植毛材が貼ってあり、このカメラの外観は細部に渡って拘りが感じられる。
UV TOPCOR 50mm F2 と同様に鏡筒・フードともシルバー仕上げの UV TOPCOR 28mm F4 も用意されていて、シルバーの TOPCON UNIREX とセットでコレクションしたいレンズだけど市場であまり見かけない。 なお、開放がF4と暗いけど高い描写性能だったらしい。
あとがき
レンズシャッター式一眼レフは普及機クラスなので、コスト的に安価に仕上げなければならない機種のハズだ。 ところが、UNIREXは凝った測光方式を採用し、外観の仕上げにも拘っているので利益率は低かったんじゃないかと思う。 そんなトプコンの意気込みが感じられる UNIREX は、この時代の普及機としては最も美しいカメラだと思う。
UNIREX の後継機として電子制御フォーカルプレーンシャッターを搭載した TOPCON IC-1 AUTO にバトンタッチしたが、せっかく電子制御シャッターにしたのにAE方式はシャッター速度優先AEのままだった。
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