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Nikon Micro-NIKKOR-P・C Auto 1:3.5 f=55mm |
ニコンのマクロレンズには時代に応じて搭載機能が異なる変遷がある。 ビンテージ感のある梅鉢タイプの距離環もよいけど、菱目ローレットの距離環も昭和感を醸している。 なお、ここでは「マクロレンズ」と表記させて頂く。
Micro-NIKKOR-P・C Auto 1:1.4 f=50mm - 1973年発売
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鏡筒奥にあるレンズ銘板 |
このレンズは1973年発売の4代目ニコンFマウント用マクロレンズで、1970年に発売された3代目 Micro-NIKKOR-P Auto 1:3.5 f=55mm をマルチコート化した製品である。
2代目が特徴的で、繰り出しても実効F値を一定に保つ工夫を凝らした製品だったけど、接写業界でも「感」に頼る露出設定からTTL測光が主流となり実効F値一定機能は効力を失った。 そもそも開放では実効F値が一定にはならないので中途半端感があったよねぇ。
長く生産された光学系だったけど、1980年に Ai Micro-NIKKOR 55mm 1:2.8 S が発売されて、55mm F3.5 マクロレンズは製品寿命を終えた。 ニコンの 55mm F3.5 マクロの変遷をまとめたのが下表だ。
発売年 |
製品名・特徴など |
1961年 |
Micro-NIKKOR 1:3.5 f=5.5cm 接写リング無しで無限遠から等倍までフォーカス可能 ヘリコイド伸長が長いため自動絞りではなくプリセット絞り式 |
1963年 |
Micro NIKKOR Auto 1:3.5 f=55mm 撮影距離に応じて絞り込んだ際の実効F値一定機能を搭載 自動絞りに対応し、無限遠から0.5倍までフォーカス可能 接写リング併用で0.5倍から等倍までフォーカス可能 |
1970年 |
Micro-NIKKOR-P Auto 1:3.5 f=55mm TTL測光の普及により実効F値一定機能を廃止 ピントリングにゴム製の菱型ローレットを採用 |
1973年 |
Micro-NIKKOR-P・C Auto 1:3.5 f=55mm 先代のレンズをマルチコート化 |
1975年 |
Micro-NIKKOR 55mm 1:3.5 鏡筒デザインを変更 ピントリングのゴムに現代風の角目ローレットを採用 |
1977年 |
Ai Micro-NIKKOR 55mm 1:3.5 先代のレンズをAi化 |
レンズ構成
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レンズ構成 |
このレンズは4群5枚構成のクセノター型で、幅広く用いられている構成である。 当時のF4程度のマクロレンズは3群4枚のテッサー型が主流だったと思われるが、クセノター型を採用したニコンは正しい選択をしたと思う。 クセノター型の中央付近は高い解像感があり、光学設計を接写域に最適化すれば抜群の性能を発揮する。 ダブルガウス型を採用(MC MACRO ROKKOR-QF 1:3.5 f=50mm など)すれば更に開放F値を明るくする事も可能だったろう。
光学レンズ自体は小型だけど、0.5倍までマクロ撮影出来るヘリコイド機構はそれなりの長さがある。 このため、レンズ自体は鏡筒の奥にありフードを兼ねた様な鏡筒構造になっている。 なお、距離環にぐるりと刻印されている赤文字は撮影倍率(比率)である。
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接写リング PK-3 を装着 |
接写リングを使えば0.5倍から等倍までの接写が可能になるが、距離環によるピント操作というより撮影倍率を決めてからカメラ・レンズを前後させてピント合わせした方が効率が良い。 なお、鏡筒の横腹には接写リングを装着した場合の撮影倍率と距離が刻印されている。 また、マクロレンズ全般に言えることだけど、遠距離では距離環敏感度が高いので遠距離のピント合わせには神経を使う。 なので、ヘリコイドのトルクは重過ぎずスカスカ過ぎず微妙な加減が重要だ。
描写特性
遠景描写
明るいレンズじゃないの絞り開放でも中央は充分な描写で、画面四隅に若干のフレアっぽさがあるだけだ。 絞りをF5.6にすれば画面全域で素晴らしい描写になり、F8に絞ってもF5.6との差は極わずかだ。 個人的にはF5.6で文句の無いレベルに達していると感じる。 周辺減光も僅かでF5.6で全く判らなくなる。 マクロレンズだけど遠景撮影に用いても素晴らしい結果が得られる万能レンズだ。
夜景描写
点光源の絞り開放では画面四隅にサジタルコマフレアが観察できる。 派手ではないけど点光源なので少し気になるが、F5.6に絞ると殆ど気にならないレベルになる。 F8まで絞ると画面全域で素晴らしい描写となる。 なお、6枚絞りなので絞り込むほど輝点にキツい6本の光芒が現れる。
平面複写描写
平面複写としてパソコンのモニターを接写してみた。 モニター画面ならピクセル粒が良く見えて画面周辺の状況も判り易いからである。 レンズ単体で最大繰り出しなので撮影倍率は0.5倍で撮影(モニター画面とカメラの平行度はちょっと怪しい)となる。
絞り開放の画面中央はほんの少しソフトだがF5.6だと引き締まる。 一方、画面四隅が良くなるのはF8~F11に絞る必要がある。 F16まで絞れは安心して複写できるけど、モニタ画面とカメラの平行度がズレている可能性もある。
ちなみに、撮影倍率が0.1倍の場合では被写界面で0.1mmのズレは像面で0.001mmに過ぎないけど、撮影倍率が0.5倍の場合では被写界面で0.1mmのズレが像面で0.025mmもズレる事になる。 つまり、撮影倍率の二乗で敏感になるので撮影倍率が上がるほどピントズレがシビアになってしまう。
真剣に複写するならコピースタンドなどを使うべきだ...大昔にコピースタンドを持っていたけど、引っ越しする時に引き伸ばし機と共に捨ててきた。💦
一般撮影
小デフォーカスによる小さな後ボケには二線ボケの傾向があるので背景によっては煩く感じるかも知れない。 一方、撮影対象にググっと近付けば後ボケがとてもスムースなボケ方になる気がする。 画面四隅の画質は平面を撮影するのでなければ大抵は前後にボケている事が多く、絞り開放でも概ね不満の無い描写だ。 また、発色に偏りは感じられないし色乗りも悪くないと思う。 絞ると6角ボケになるけど、撮影条件によらず安心して使えるレンズである。
太陽を外面に入れる様な逆光条件では逆光フレアによりコントラストが低下し、対角ゴーストも発生してくれる。 また、対角ゴーストとは別の位置に妙な形状のオレンジゴーストが現れたりするが、恐らくツルツルなフィルターネジ枠からの反射ゴーストだろう。 いづれにしてもオールドレンズのゴーストは「持ち味」だと捉えよう。
なお、マクロレンズなので寄れるからといってグイグイ寄り過ぎるとピントがままならない。 先にも書いた様に撮影倍率の二乗でピントがシビアになるので、息を止めてピントを合わせても風が吹いてきたらどうにもならない。 寄れば寄るほど三脚が無いとツラい場合が多い。 フィルム時代は無理だったけど、デジタル時代なので連写してピントが合っている駒を取捨選択するしかない。 現代のオートフォーカスや手振れ補正が実にありがたい機能だと実感してしまう。
絞り:F3.5 |
絞り:F3.5 |
絞り:F3.5 |
絞り:F3.5 |
絞り:F3.5 |
絞り:F5.6 |
絞り:F3.5 |
絞り:F3.5 |
絞り:F5.6 |
あとがき
ニコンは他社が接写用レンズに用いている「マクロ(Macro)」という用語は使わないで「マイクロ(Micro)」という用語を用いている。 ニコンによると『マクロ撮影は等倍以上に拡大するする撮影』なので通常の接写用レンズは「マクロ」レンズではない...という論理の様だ。 僕の個人的見解では『マクロ撮影は普段は見えないディテールやテクスチャを浮かび上がるほど大きく写す』ことだと思うので、別に「等倍以上」に拘る必要は無いと思っている。 製品として拡大撮影用の Macro-NIKKOR があるとはいえ、ニコンはレンズの脱着回転方向を含めて一般常識なんて考慮しない会社なのかなぁ。
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