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| レンズ構成 |
9群12枚構成の古典的な望遠系4群ズームで、ズーム比が3倍になった。 1980年になってからキヤノンの望遠ズームは直進ズーム操作方式へ移行し、当時の一般的な望遠ズームレンズと同じ仕様になった。 直進トルクと回転トルクのバランスが良いので不用意にフォーカス・ズームが移動する事は無いけど、カメラをぶら下げたり垂直に置くとズームが落ちて来たりする。 ただし、スッコーンとは落ちないので安心して使用できる。
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| MACRO域表示 |
フォーカシングは前群繰出し方式で、最短撮影距離はズーム全域で1.2mだけど、ワイド端では更に距離環が回り0.44m(レンズ先端からは0.25m)まで寄る事が出来るワイドマクロを搭載している。 このワイドマクロは前群を更に繰り出すと共に、コンペンセーター群(第3レンズ群)が繰り込む様に移動する(つまりコンペンセーションしない)方式の様だ。 マクロとは言っても、テレ端至近距離での撮影倍率0.23倍よりは少し大きく撮れる程度で、マクロレンズ並みの接写の機能ではない。
なお、おまけマクロ的な位置付けなのか、操作環には距離記載が無く、黄色く MACRO と記載されているだけだ。 また、ワイド端では距離環敏感度が低いけど、マクロ域に入ると0.44mまで急激にピントが飛んでくる。
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| フード BT-58 を装着 |
フィルター径はΦ58mmで、距離操作によりフィルター枠が回転してしまうので、PLフィルターは使用しにくい。 また、フードはレンズ先端のバヨネットに逆付け可能な BT-58 を装着する方式で、例によってスカスカになる持病があるので補修が必要だ。 鏡筒は高級そうな外観・質感で、良く写りそうに見える好ましいデザインだと思う。 個人的に1985年発売の New FD 80-200mm 1:4 L よりず~っと良いデザイン・質感だと思う。
なお、バリエーター群やリレーレンズ群を収める内部のユニット筒はPPS樹脂の様なエンプラ製なので、分解・再組立て時にはネジ類の締め込み過ぎに注意して組み立てる必要がある。 レンズ枚数を減らしたりエンプラ素材を用いる事で、FD 80-200mm 1:4 S.S.C. の750gに対して705gへと重量が軽減されている。
ちなみに、1981年にニコンから似た仕様の SERIES E Zoom 70~210mm 1:4(¥68,000円) が発売されたが、こちらは Nikon EM 向けの初級用望遠ズームという明確な位置付けだった。
分解・カビ取り清掃
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| 分解してカビ掃除 |
実は、このレンズは永くおもちゃ箱の中に入っていて入手経緯に記憶が無い。 多分、何かとセットで入手したレンズで、最初からカビ玉だった事は覚えている。 New FDレンズは分解したくない製品なんだけど、内部レンズの各郡にカビが発生していて、このままではソフトフォーカスレンズになるので、分解・清掃してあげる事にした。 カビはフォーカス郡にもバリエーター群にもリレーレンズ群にも発生していて、リレーレンズ群のカビは深く浸潤していてカビ痕が残ってしまった。 また、バリエーター群を取り出してみると、揮発したオイルが付着したような滲み汚れもあった。💦
描写特性
遠景描写
以下の遠景描写の写真はカメラのホワイトバランスを太陽光に設定し、Dレンジオプティマイザーをオフにして撮影したカメラJPEG画像です。
焦点距離:70mm
絞り開放から画面全域で良い描写で、F5.6に絞れば画面全域で素晴らしい描写になる。 周辺光量落ちはF8で殆ど判らなくなり、F11で解消する。
焦点距離:100mm
絞り開放から画面全域で良い描写で、F5.6に絞れば画面全域で素晴らしい描写になる。 周辺光量落ちはF5.6では残っているけど、F8でほとんど解消する。
焦点距離:135mm
絞り開放では若干ソフトだけど極四隅を除いて画面周辺まで良い描写で、F5.6に絞れば極四隅を除いて画面周辺まで素晴らしい描写になる。 F8まで絞れば極四隅も素晴らしい描写になる。 周辺光量落ちはF8で殆ど判らなくなり、F11で解消する。
焦点距離:210mm
絞り開放では若干ソフトだけど四隅を除いて画面周辺まで良い描写で、F5.6に絞れば四隅を除いて画面周辺まで素晴らしい描写になる。 F11まで絞れば四隅も素晴らしい描写になる。 画面周辺にハイライトとシャドウがある部分では目立つほどではないけど色収差が感じられる。 周辺光量落ちはF8で目立たなくなり、F11で解消する。 糸巻型の歪曲収差があるけどタイル壁面などの直線基調でなければ気にならない。
一般描写
以下の遠景描写の写真はカメラをオートホワイトバランスに設定し、Dレンジオプティマイザーをオンにして撮影したカメラJPEG画像です。 なお、記載の焦点距離や絞り値はボケ老人の「記憶」に頼っているので間違っているかも知れません。
f=210mm 絞り:F4 |
f=210mm 絞り:F4 |
f=70mm 絞り:F4 |
f=70mm 絞り:F4 |
f=70mm 絞り:F5.6 |
f=100mm 絞り:F4 |
f=210mm 絞り:F4 |
f=135mm 絞り:F4 |
f=210mm 絞り:F4 |
f=210mm 絞り:F11(至近端) |
f=マクロ端 絞り:F11 |
f=マクロ域 絞り:F4 |
f=マクロ域 絞り:F8 |
f=マクロ端 絞り:F4 |
f=マクロ域 絞り:F4 |
f=210mm 絞り:F4 |
f=70mm 絞り:F5.6 |
f=210mm 絞り:F4 |
開放値がF4と明るいレンズではないけど、絞り開放から使える描写で廉価版望遠ズームだからと侮れない性能だ。 1、2段絞れば画面全域で素晴らしい描写になるし、立体的な被写体なら開放でも充分な描写だと思う。
1.2mという最短撮影距離はテレ端なら充分だけど、ワイド側では全くもの足りないので、ワイドマクロ機能が有るのは嬉しい。 でも、ワイドマクロ域ではフォーカス敏感度が非常に高いので慎重なピント合わせが必要だ。 また、マクロ域では画面中央付近の描写は良いけど、画面周辺ほど描写性能が劣化するので、平面接写には向かないが、草花などの立体的な被写体を画面中央付近に配置するなら画面周辺の劣化は全く気にならない。
ボケは汚くは無いけど、小デフォーカスの後ボケは2線ボケ傾向があり、煩く感じる場合もあるけど、大きくボケる状況ではスムースにボケてくれるので気にならない。 また、高輝度ボケ像の周りに 後ボケは緑色で前ボケは紫色に色が付く「色ボケ」があり、シーンによっては気になる。
❝廉価版ズームだから❞と思っておもちゃ箱の中で永らく眠っていたけど、試してみたら立派な性能のレンズだった。 テレ側では絞り開放の画面隅が甘めだけど、家庭用望遠ズームとしては充分な描写だと思う。 前世紀に気付いていたら使ったかも知れない。
あとがき
このレンズは当時のベストセラー機である Canon AE-1 や Canon AV-1 を買った一眼レフ初心者が、最初に欲しがる望遠系レンズを担うメーカー純正の望遠ズームレンズだった。 3倍ズームなのに価格が安くて性能も悪くないので、低価格なサードパーティー製品(TAMRON 80-210mm F/3.8-4 03Aが¥49,500円だった)へ流れがちなユーザーに受け入れられただろう。
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